悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

掴んだ未来 (其の一)

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リリーの死刑が執行され数週間が経過した。
背中の傷は残ったままだが、痛みはもうない。
私はベッドから起き上がり、剣を手に取ると、素振りを始めていた。

リリーの頃より小柄になった分、剣の振り方や間合いの取り方が全く違う。
体力も筋力もないし、また一から鍛えなおしかなぁ。
それに剣も作り変えないと。
今のままだと長すぎて、上手く振り抜けないもの。

剣を眺めなていると、トントントンとノックの音が響き扉が開いた。

「ユカ、体調はどうだい?」

「ノア王子、もう大丈夫です。痛みもないですし、この通り体も動かせます」

私はぶんぶんと腕を振ると、ノア王子が慌てて止めにくる。

「わかったから、落ち着いて。背中見てもいいかな?」

私はコクリと頷くと、剣を片付けベッドへ向かう。
彼に背を向け服を捲ると、ノア王子の手が素肌に触れた。

「……痕が残ってしまったね。本当にすまない……」

苦しそうな声に私は首を横へ振ると口を開く。

「気にしないでください。私は全然平気です。こうやってここへ戻ってこられただけで十分なんです。それに元より誰かに見せる予定もないですし、このまま騎士として生きていくのでなんの問題ありません」

この先誰かと添い遂げる未来なんて想像できない。
公爵家という爵位がなくなったばかりか、騎士として生きる女に興味を持つ男もいないだろう。
それにリリーみたいにスタイルがいいわけでもないし……。
服を着ていれば目立たない傷だし、気にする要素はどこにもなかった。

「ユカ……ねぇ、少しいいかな?」

私はコクリと頷くと、ノア王子の手を取り並んで部屋を出て行った。

やってきたのはあの場所。
人通りが少なく、静かなあの場所。
小説でトレイシーとノア王子の憩いの場。
そして私が教祖を見つけた場所。

どうしてこんな場所に?
首を傾げながらノア王子の後ろを歩いていると彼が立ち止まった。
そしておもむろに振り返る。

「ねぇ、君の好きな小説では、僕がヒーローだったんだよね?」

「はい、ノア王子とトレイシーの物語ですからね」

今は亡きトレイシー。
リリーが死んでも彼女は生き返らない。
ヒロインである彼女と話してみたかった。
胸がギュッと締め付けられると、ノア王子が軽く咳払いしこちらを真っすぐに見つめた。

木漏れ日から差し込む光がキラキラと輝き、辺りがシーンと静まり返る。
ノア王子の青い髪が照らされ幻想的なその様に思わず見惚れた。
彼はゆっくりとこちらへ近づいてくると掌が頬に触れる。
見上げるように顔を上げると、ブルーの瞳に私の姿が映りこんだ。

「驚くかもしれなけれど、僕は君に出会ったあの日から、ずっと恋をしていた、愛していた。騎士としてではなく、パートナーとして僕の傍にいてほしい」

ノア王子はそう告げると、ポケットから指輪を取り出した。
差し出された指輪は、小説に描かれていたものと同じ。

「ふぇえぇッッ!?」

突然のことに奇声を上げると、私は指輪に視線が固定されたまま固まった。

「恥ずかしい話、本当は誕生祭が終わった後、ここでリリーに伝えたんだ。君の好きな小説と同じシチュエーションで伝えたくてね。だけどまさか中身が違うなんて考えもしなかった。だけど僕は君が君だから好きなんだ。純粋で真っすぐで頑張り屋さんな君が。だから改めて申し込ませてほしい」

リリーに?
あっ、だからリリーとノア王子が婚約していたの!?
それよりもノア王子が……まさか、私を……えぇ!?

「えっ、ええぇぇぇ、ええええええ!??いやいや、ええええええ!?」

驚きすぎて言葉が出ない。

「あはは、その反応こそ君だよね」

ノア王子は楽しそうに笑うと、私の頬を両手で包みんだ。
優しい瞳が覗き込むと、青い瞳と視線が絡む。

「えっと、あの、傷の責任を感じてるのでしたら、本当に気にしないでください。私……ッッ」

言葉を続けようとすると、彼の瞳に怒りが浮かんだ。

「違うよ、逃げないでほしい。僕は本当に君が好きだ。だから君の事を知りたかった、傍にいたかった。訓練場へ何度も会いに行ったのは好きだったからだ。君が大人な男が好きだと聞いて、そうなれるように努力もしてきた」

真っすぐなその眼差しに嘘偽りはない。
本当に……私を好き……嘘でしょ……。
想像もしていなかった事実に、沸騰しそうなほどに体が熱くなっていった。
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