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最終章
リリーの物語 (其の四)
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私は痛みを振り払い歯を食いしばりながら顔を上げると、彼女の瞳を真っすぐに見つめ返した。
「言ったでしょう。彼はあなたの知る彼じゃないって。私に気が付いてくれたのよ。目の前の真実ではなく、私の言葉を信じてくれた」
「まさか……そんな……」
彼女はその場に崩れ落ちると、ナイフが床へ落ちる。
その様に騎士たちが彼女を拘束すると、腕を後ろで固定した。
しっかり拘束されたのを確認し、ノア王子が彼女の前へ近づいていく。
「もう逃げられないよ」
彼女はノア王子へ顔を向けると、震える唇を動かした。
「どうして……どうして信じたの?入れ替わりなんて普通に考えてありえないでしょう?なのに……」
ノア王子は一瞬考え込むと、私の方へ顔を向けた。
「君の知る僕の事はわからないけれど、彼女はいつも僕へ真っすぐにぶつかってきてくれた。だから信じられたんだ」
「真っすぐに……」
リリーはボソッと呟くと、力なく項垂れた。
騎士に引きずられて連れられて行く彼女の姿を眺める。
体が痛くて立ち上がれない。
霞む視界の中、彼女の背が見えなくなると、私はそのまま前のめりに倒れたのだった。
目覚めたときには雨は止んでいた。
私の死刑は求刑され、リリーは牢屋に捕らわれている。
私はボロボロの体に喝を入れると、深夜こっそり彼女へ会いに牢屋へと向かった。
薄暗い地下道を進むと、私が捕らえられていた牢屋に放心状態のリリーが座っていた。
「リリー」
声をかけると、彼女はおもむろに顔を上げる。
「あら、来てくれたの?またこの牢に入るとは思ってもみなかったわ。私はまた間違ったみたいね……。あなたの言う通り、この世界の王子は私の知る王子ではなかった。私ね、ここに入って改めて考えてみたの。過去の私は彼と真っすぐに向き合えていたかってね。あんなクズの親の言いなりで王妃になることに固執して……自分のことばかりだった。親の期待に添わないとっていつも考えていたわ。だから……信用してもらえなかったのかしら……」
彼女は弱弱しく笑うと、悲し気に瞳を揺らす。
その姿に胸が張り裂けそうなほどに痛んだ。
彼女のせいでひどい仕打ちを受けた。
大切な人がたくさん傷ついた。
許せない、だけど……。
私はなんと声をかけていいのか戸惑っていると、彼女は何かを思い出したようにこちらへ近づいてきた。
リリーはポケットをこちらへ近づけると、中を見てと視線を落とす。
恐る恐るポケットの中を漁ると、そこにあったのは見覚えのある青いネックレス。
施設にいられれた際、母からもらったあのネックレスだった。
信じられないと目を見開いていると、リリーが繋がれている鎖がジャラッと音を立てる。
「どうして……これが?あの時、捨てたはずなのに……」
リリーはニッコリ笑みを浮かべると、瞳をこちらへ向けた。
「伝えるつもりはなかったんだけれど、あなたのおかげで間違いに気が付けた。だから教えてあげるわ。この体に戻るときに見たあなたの記憶。あなたの葬式にその青いネックレスを持って母親が来たのよ。そして棺桶にそれを入れていった。あなたの死顔を見て涙を流していたわ。そのネックレスはね、私がこの世界に来た時にポケットに入っていたの。捕まった時に落としたみたいでね、あなたが牢に入った後探しに行ったのよ。そのまま捨ておくことも出来たんだけれど、何だか気になってね」
嘘……母が……そんな。
自分のために泣いてくれた母の姿を想像できない。
だけど嬉しいと思った。
母は私を忘れていなかったのだと。
私は青いネックレスを固く握りしめると、涙が溢れ出したのだった。
★おまけ(リリー視点)★
私は今日死ぬ。
罪状はトレイシーの殺害指示、ノア王子の殺害未遂。
だけど死を前に落ち着いていた。
憎悪はない、後悔もない。
結局は全て自分が悪かったのだと。
きっともうやり直すことは出来ない。
私は己の罪とやっと向き合うことが出来た。
クレアの件については全く知らなかった。
だけどクレアの家が不正をするとは考えられない。
だから教えてあげたわ。
私の家にある秘密の地下室。
きっとクレアをはめた証拠がそこにあると。
どうなったのかわからないけれど、きっとあの人たちは王都から追放されるでしょう。
これで私の家はこの王都から消えた。
最後に良い行いが出来たかしら?
私は死刑台へ上ると、真上に光るギロチンを眺める。
怖くはない、寧ろ晴れやかな思い。
落ちてくる刃を眺めながら、私はゆっくりと目を閉じたのだった。
痛みはなく暗い闇の中に落ちていく最中、小さな光が浮かび上がる。
私はその光に触れると、目の前に真っ白に光った。
そっと目を開けると、目の前にノア王子の姿。
私は驚き目を丸くし彼の姿をよく見てみると、先ほどのノア王子と違い、幾文年が若い。
どうなっているの……?
「僕の名はノア、宜しくね」
辺りを見渡してみると、そこは城の庭園だった。
これは……私が初めてノア王子と出会った場面。
自分の姿を見てみると、体が小さくなっていた。
まさか……またやり直せるの……?
硬直する私の姿に彼は首を傾げると、澄んだ青い瞳と視線が絡む。
「私の名前はリリー、これから宜しくお願いいたしますわ」
私は震える手を差し出すと、彼の小さな手が触れた。
固く握られたその手に、涙が溢れ出すとしっかり握り返す。
今度は間違えない、二人の幸せを願って生きていくわ。
「言ったでしょう。彼はあなたの知る彼じゃないって。私に気が付いてくれたのよ。目の前の真実ではなく、私の言葉を信じてくれた」
「まさか……そんな……」
彼女はその場に崩れ落ちると、ナイフが床へ落ちる。
その様に騎士たちが彼女を拘束すると、腕を後ろで固定した。
しっかり拘束されたのを確認し、ノア王子が彼女の前へ近づいていく。
「もう逃げられないよ」
彼女はノア王子へ顔を向けると、震える唇を動かした。
「どうして……どうして信じたの?入れ替わりなんて普通に考えてありえないでしょう?なのに……」
ノア王子は一瞬考え込むと、私の方へ顔を向けた。
「君の知る僕の事はわからないけれど、彼女はいつも僕へ真っすぐにぶつかってきてくれた。だから信じられたんだ」
「真っすぐに……」
リリーはボソッと呟くと、力なく項垂れた。
騎士に引きずられて連れられて行く彼女の姿を眺める。
体が痛くて立ち上がれない。
霞む視界の中、彼女の背が見えなくなると、私はそのまま前のめりに倒れたのだった。
目覚めたときには雨は止んでいた。
私の死刑は求刑され、リリーは牢屋に捕らわれている。
私はボロボロの体に喝を入れると、深夜こっそり彼女へ会いに牢屋へと向かった。
薄暗い地下道を進むと、私が捕らえられていた牢屋に放心状態のリリーが座っていた。
「リリー」
声をかけると、彼女はおもむろに顔を上げる。
「あら、来てくれたの?またこの牢に入るとは思ってもみなかったわ。私はまた間違ったみたいね……。あなたの言う通り、この世界の王子は私の知る王子ではなかった。私ね、ここに入って改めて考えてみたの。過去の私は彼と真っすぐに向き合えていたかってね。あんなクズの親の言いなりで王妃になることに固執して……自分のことばかりだった。親の期待に添わないとっていつも考えていたわ。だから……信用してもらえなかったのかしら……」
彼女は弱弱しく笑うと、悲し気に瞳を揺らす。
その姿に胸が張り裂けそうなほどに痛んだ。
彼女のせいでひどい仕打ちを受けた。
大切な人がたくさん傷ついた。
許せない、だけど……。
私はなんと声をかけていいのか戸惑っていると、彼女は何かを思い出したようにこちらへ近づいてきた。
リリーはポケットをこちらへ近づけると、中を見てと視線を落とす。
恐る恐るポケットの中を漁ると、そこにあったのは見覚えのある青いネックレス。
施設にいられれた際、母からもらったあのネックレスだった。
信じられないと目を見開いていると、リリーが繋がれている鎖がジャラッと音を立てる。
「どうして……これが?あの時、捨てたはずなのに……」
リリーはニッコリ笑みを浮かべると、瞳をこちらへ向けた。
「伝えるつもりはなかったんだけれど、あなたのおかげで間違いに気が付けた。だから教えてあげるわ。この体に戻るときに見たあなたの記憶。あなたの葬式にその青いネックレスを持って母親が来たのよ。そして棺桶にそれを入れていった。あなたの死顔を見て涙を流していたわ。そのネックレスはね、私がこの世界に来た時にポケットに入っていたの。捕まった時に落としたみたいでね、あなたが牢に入った後探しに行ったのよ。そのまま捨ておくことも出来たんだけれど、何だか気になってね」
嘘……母が……そんな。
自分のために泣いてくれた母の姿を想像できない。
だけど嬉しいと思った。
母は私を忘れていなかったのだと。
私は青いネックレスを固く握りしめると、涙が溢れ出したのだった。
★おまけ(リリー視点)★
私は今日死ぬ。
罪状はトレイシーの殺害指示、ノア王子の殺害未遂。
だけど死を前に落ち着いていた。
憎悪はない、後悔もない。
結局は全て自分が悪かったのだと。
きっともうやり直すことは出来ない。
私は己の罪とやっと向き合うことが出来た。
クレアの件については全く知らなかった。
だけどクレアの家が不正をするとは考えられない。
だから教えてあげたわ。
私の家にある秘密の地下室。
きっとクレアをはめた証拠がそこにあると。
どうなったのかわからないけれど、きっとあの人たちは王都から追放されるでしょう。
これで私の家はこの王都から消えた。
最後に良い行いが出来たかしら?
私は死刑台へ上ると、真上に光るギロチンを眺める。
怖くはない、寧ろ晴れやかな思い。
落ちてくる刃を眺めながら、私はゆっくりと目を閉じたのだった。
痛みはなく暗い闇の中に落ちていく最中、小さな光が浮かび上がる。
私はその光に触れると、目の前に真っ白に光った。
そっと目を開けると、目の前にノア王子の姿。
私は驚き目を丸くし彼の姿をよく見てみると、先ほどのノア王子と違い、幾文年が若い。
どうなっているの……?
「僕の名はノア、宜しくね」
辺りを見渡してみると、そこは城の庭園だった。
これは……私が初めてノア王子と出会った場面。
自分の姿を見てみると、体が小さくなっていた。
まさか……またやり直せるの……?
硬直する私の姿に彼は首を傾げると、澄んだ青い瞳と視線が絡む。
「私の名前はリリー、これから宜しくお願いいたしますわ」
私は震える手を差し出すと、彼の小さな手が触れた。
固く握られたその手に、涙が溢れ出すとしっかり握り返す。
今度は間違えない、二人の幸せを願って生きていくわ。
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