悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

リリーの物語 (其の三)

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そしてあの夜。
誕生祭が終わったと、二人の逢瀬場所へ向かった。
前世でも二人はよくあの場所で会っていた。
人気がなく静かで、逢瀬をするにはぴったりの場所。
トレイシーではないから不安もあったけれど、二人はそこに現れた。
あなたのように剣は学ばなかったけれど、私もね、暗殺者の彼にナイフの使い方は教えてもらったの。
あの場で私がノア王子を刺し、隣で自害しようと考えていたわ。

「なのに……私に邪魔をされるなんてね……。これが全てよ。あなたの言う真実に当てはまったかしら?」

リリーは話し終えると、無表情のまま私を見下ろした。

「えぇ……リリーのことは気にならなかったの?」

話を聞いて最初に思った疑問。
前世と同じ世界に生まれ変わったのなら、自分がどうなっているのか気になるはず。
私は恐る恐る尋ねてみると、彼女はスッと目を細める。

「気にはなったけれど、確かめる勇気はなかったわ。同じ運命を歩む愚かな自分を視たくなかった。だけどまさか最後の最後でこの姿に戻れるなんて、考えもしなかったわ。それにしても、私の体をよくこんな風にしてくれたわね。令嬢とは思えない日に焼けた肌、手はゴツゴツしてまるで男のようだわ。私は王妃になる存在よ。本当に信じられない」

彼女は掌を見つめると、深く息を吐きだした。
そんな彼女の姿に、もう一つの疑問を問いかける。

「ねぇ……あなたは小説を知らないの?」

「小説?何のこと?」

「私の記憶を持っていたんでしょう。なら私が施設で読んでいた本を知らない?」

リリーは首を傾げると、眉を寄せた。

「知らないわ。さっきも言ったでしょう。前世の記憶を思い出したことで、あなたの記憶が薄れたのよ。もしかしたら薄れた中に小説があったかもしれないわね。それがどうかしたの?」

私は首を横へ振ると、口を閉ざし考え込む。
小説を知らない……。
ならたまたま彼女の行動が小説と重なったの?
あの小説は転生した彼女の運命を描いていたのだろうか……?
考えれば考えるほど訳が分からなくなっていく。
だけど一つだけわかるのは、彼女の行動は間違っていたということ。

「さぁ、そろそろ話は終わりよ。今のリリーは私と違っていい人生を歩んでくれたようね、そこは感謝するわ。あなたの代わりにこれから生きてあげる。そしてノア王子をもっと苦しめるの。そのためにも、あなたの存在は邪魔にしかならないわ」

リリーは懐からナイフを取り出すと、慣れた手つきでクルッと回す。

「ふふふっ、ナイフを仕込んでいるのに気が使ったでしょ?隠し方も彼に教わったの。上手いもんでしょう?」

柄を握り私へ見せつけると、ニッコリと笑みを深めた。
私は剣を構えると、彼女を睨みつける。
キラリと光るナイフから視線を逸らさず剣先を向けた刹那、突然体中に痛みが走った。
薬の効果が切れたのだろうか、私は剣を落とすとその場に膝をつく。

「あらあら、どうしたの?拷問された傷が開いちゃったかしら?長話だったものね」

彼女は嘲笑いながら私の前までやってくると、ナイフを振りかぶった。

「死刑台じゃなくて、私がここで確実に殺してあげる」


「そこまでだ!」

突然の声に彼女が手を止めると、恐る恐る振り返る。
そこにいたのはピーターの姿。

「なっ、ピーター!?どうしてここに?」

「僕もいるよ、他にもほら」

ピーターの隣から人影が現れると、ノア王子に続きぞろぞろと騎士たちが現れる。
そしてその後方には王と王妃の姿。
リリーは驚愕し目を丸くすると、逃げるように後ずさった。

「なっ、なんなのよ、これは!!!」

リリーは絶叫すると、声が玉座の間に反響する。
ノア王子はニッコリ笑みを浮かべると、こちらへゆっくりと近づいてきた。

「話は全て聞いた。君が真犯人で間違いないようだね」

「なんでッッ、どっ、どうなっているの?」

彼女は私へ顔を向けると、騎士たちが囲うように集まってくる。
まさかここに皆がいると思っていなかった。
ノア王子がここで彼女と話をしろと言った意味がようやくわかった。
物的証拠はない非現実的な現象。
それを証明するために、彼はここに人を集めていたのだと。
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