悪役令嬢はお断りです

あみにあ

文字の大きさ
上 下
126 / 135
最終章

リリーと私 (其の三)

しおりを挟む
私は彼女の問いかけを無視し話を続ける。

「あなたに質問する権利はないわ。私の質問に答えるだけでいいのよ」

「あはは、その反応、やっぱりそうなのね。会え嬉しいわ。それにしてもどうして あなたと私が入れ替わってしまったのかしらね。まったく異なる世界で育った私たち、不思議よねぇ~。共通点といれば……惨めな死にざまぐらいかしら?ふふふ」

彼女は楽しそうに笑うと、押さえつけていた私の腕を掴んだ。
目を逸らせることなく睨み付けながら振り払おうとするが、ガッチリ握られた腕は離れない。

「手を離しなさい」

「少しは落ち着きなさいよ、あなたと戦う気はないの。話がしたいのならゆっく語り合いましょう。時間はあまりないでしょう?」

ニッコリと笑みを深めるその姿に、私は慎重に剣を下す。
リリーの動きを見る限り、剣や体術をしていたとは思えない。
それに私の体に筋肉はなく、女性らしい綺麗な手と爪。
シミ一つない顔は美容に力を入れてたのだろうとわかる。

素人の素手相手なら万が一襲ってきても勝てる自信はある。
痛み止めが利いているため、体も自由に動かせる。
出口さえ押さえていれば、逃がすことはないだろう。
私はリリーを解放すると、逃げ道を塞ぐように扉へ近づく。
投げた剣を拾い上げると、リリーはこちらを気にすることなく、思いをはせるように辺りをグルリと見渡した。

「懐かしいわ、全てがあの頃と同じ、何も変わっていない。この場所へまた来られるなんてね……」

彼女は赤いレッドカーペットの上を進んでいくと、正面にある王座を眺める。

「ここはね、ノア王子と正式に婚約した場所、そして私が断罪を言い渡された場所。危険を冒し脱獄までして、私と話をしたいと言ったくせに、玉座の間に連れ込むなんて何を考えているの?直に騎士たちが戻ってくるわよ。本当にバカね」

リリーはクルリとこちらへ振り返ると、私を嘲笑った。

「普通ならそうでしょうね。だけど今は城中の騎士をかき集めて、脱獄者である私を捜索している。逃げ場のないこの場所に、私がいるとは誰も思わない。それに王族や貴族たちは安全な場所へ避難済みでしょう。この場所を使うことはない。だからこそここを守る騎士はいない。暫くは誰も来ないはずよ」

彼女は感心した表情を見せると、王座へと顔を戻し歩き始めた。
王座の前までやってくると、彼女は立ち止まり何もない空間を見つめる。
誰もいないその場所を眺める彼女の瞳に、うっすらと憎しみが浮かび上がった。

「……許さない、許さないわ……。ここで受けた屈辱は絶対に忘れない……」

ぼそぼそと呟き、王座の隣を鋭く睨みつける。
そこに何が見えているのか……。
想像するに、ノア王子とトレイシーなのだろうか。

「リリー、あなたは過去の記憶を持っているのよね?だから二人に復讐を?」

じっと空を睨みつける彼女へ問いかける。
彼女はおもむろに振り返ると、仮面のような笑みを張り付けた。

「えぇ、そうよ。あの二人は罰を受けるべきなのよ。私が受けた仕打ちを知っているでしょう?その体へ戻る直前、私の記憶を見たはずよ。身に覚えのない罪で断罪された惨めな私の姿を。私もこの体に戻った時に、あなたの最後の記憶を見たわ。幸せな母親の姿を前に何もせず、泣きながら唯々見ていたあなたの姿をね」

その言葉に、幸せそうに笑う母の姿が頭を過る。
私がいない場所で笑う母親の姿。
憎しみが溢れ、叫びたい衝動にかられた。
だけれども私はぐっと堪えると、リリーを見つめ返す。

「あれはやはりあなたの記憶なのね……。だけど彼らはあなたの知る、ノア王子とトレイシーじゃない。婚約もしていないし、あなたを裏切ってもいない」

「そうね、だけど同じよ。だってこの世界は私が知る世界と同じ。同じことが繰り返され、世界は何も変わらない。現にノア王子は私が別人だと気が付いていないじゃない。あなたの友だったピーター、そしてエドウィンですら、私をリリーだと思っている。どれだけ心を許し長い時間過ごしても、彼らは目の前にある真実しか信じないのよ。なら同じでしょ?彼はそういう人間なのよ」

あまりの極論に頭痛がしてくる。
私は額を手で押さえると、深く息を吐きだした。
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。 「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」 黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。 「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」 大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。 ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。 メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。 唯一生き残る方法はただ一つ。 二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。 ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!? ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー! ※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

処理中です...