悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

リリーと私 (其の一)

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私はエドウィンとサイモン教官の協力得て、ある場所に身を隠していた。
お城の最上階にあるこの場所。
厳重な警備が敷かれ彼らの協力がなければ、到達できないところだ。
こんな場所に私が居るとは、誰も思わないだろう。
ずぶ濡れだった髪はほぼほぼ渇き、ローブの重さもなくなった。
痛み止めが利き、多少の違和感を感じるも痛みは感じない。

日は昇りきったが、分厚い雨雲で太陽は見えない中、外は私が脱獄したとてんやわんやの大騒ぎ。
窓から広場を見渡すと、雨の中を騎士たちが走り回り、雨音に交じりワーワーと騒々しい声が微かに耳へ届く。
大門は閉められ、騎士団の指揮元、騎士たちが散らばっていた。
忙しい彼らの手を煩わせていることに、申し訳ない気持ちを感じるが致し方ない。

この作戦には必要なこと。
厳重に監視されている城の牢屋から脱獄したなんて、普通に考えてありえない。
ましてや手負いの女。
見習い騎士であるリリーなら、私が拷問されていた事実も知っているだろう。
信憑性を高めるためにも、脱獄が事実だとして、城中の騎士たちを総動員し捜索させなければいけないのだ。

この計画を知っているのは城のごく少数。
サイモン教官が知っていた事には驚いたけれど、私がリリーだ
と言ってくれた言葉がたまらなく嬉しかった。

リリーを信用させるためにも、内密に進めるとノア王子の指示。
私に課せられたミッションは、脱獄しこの場所でリリーに事件の全貌を話させる、それだけ。
ここで話をして何が起こるのか……私も作戦の全てを聞かされているわけではなかった。
チクッと胸が痛むと、私はギュッと拳を握る。

信用されていないのかもしれない。
それもそうだ、しょうがないことだとわかっている。
だって中身が入れ替わるなんて、普通に考えてありえないことだし。
私の声が届いた、その事実だけで十分だもの。

正直この作戦の行く末はわからない。
だけど私はノア王子とリリーを何としても救いたい。
私の見た記憶が確かなら、リリーがノア王子を憎む理由がなくなるはず。
私は胸の痛みを振り払うと、気合を入れるように頬を叩いた。

私はそっと窓際から離れると、大きな扉の前で耳をそばだてた。
扉の前を通り過ぎ慌ただしく走る音が響く。
時間に余裕はない、失敗は許されない。
余計なことを考えずに、やるべきことをやらないと。
私は今一度作戦を復習すると、心を落ち着かせるように深く息を吸い込んだ。

とりあえず脱獄は成功させた。
後はリリーと話をするだけ……。
私の声はちゃんと彼女に届くのだろうか?
本当に彼女はこんなところへやってくるのだろうか?
一抹の不安を感じるが、今の私にできる事は少なく、みんなと己を信じて待つしかない。
精々できる事はリリーがやってくるまで、見つからないようにするぐらいだろう。

それにしてもリリーとノア王子が婚約したなんて……。
リリーから婚約を申し込んだのだろうか。
目的を達成させるために、あの短い期間でノア王子をたぶらかしたのかな……。
なんだか変な感じ。

暫くすると騒がしかった音がピタッとやんだ。
雨音がはっきりと耳に届き、不気味なほどの静けさが訪れる。
明らかに不自然なその様に、私はサイモン教官から預かった剣を抜くと、柄を強く握った。

この剣は城から支給される騎士たちが使用している剣。
私も騎士学園を卒業したらこの剣を握るはずだった。
まさかこんな形で握ることになるなんて……。

ドクドクと大きく波打つ鼓動が、はっきり耳にとどく。
私は深く息を吸い込み止めると、扉の取っ手を強く握る。
瞳を閉じ意識を集中させると、周辺に人の気配はない。
これもノア王子の作戦の一部なのだろう。

どれぐらい時間がたったのか、雨音に交じり響く足音。
コツコツコツとこちらへゆっくりと近づいてくる。
次第に音は大きくなり、扉の前を通り過ぎると、私は慎重に扉を引いた。
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