悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

残された時間 (其の一)

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ザーザーと降りしきる雨音が耳に届く。
窓へ視線を向けると、木々が激しく揺れ横なぶりの雨が降っていた。
いつの間に降り始めたのか、牢屋に居た時とは違い、楽しい時間はあっという間に過ぎる。
昔どこかで聞いたことがある。
人間は鬱状態になると、時間の流れが遅く感じるのだとか……。

「さて、どうしたものか」

ノア王子がボソッと呟くと、部屋に訪れる重い沈黙。
ピーターは暗い表情を見せると、クシャクシャと頭をかいた。
そんな静寂を破る様に、エドウィンがピーターの腕から逃れこちらへ走ってくる。

「どうにもならないのなら、俺と一緒に逃げよう。人狼の村ならきっと大丈夫。みんな主様を守ってくれる。もしダメでも俺が絶対に守る、だから……」

エドウィンは私の手を取ると、今にも駆け出しそうな様子でギュッと強く握りしめた。
彼の優しい言葉が胸に響く。
けれど逃げ出すという選択肢はない。

彼女を野放しにはできない。
黒の教団という組織まで作りここまで来た彼女。
トレイシーを殺した今、ノア王子も確実に殺そうとするだろう。
あの時見た彼女の憎悪、恨みつらみはそうとうのもの。
私は軽く首を横へ振ると、金色の瞳を見つめ返した。

「ありがとう、だけどそういうわけにはいかないよ。彼女をこのまま放っておくことはできない。私がリリーを止めないと……ノア王子が危ないもの」

気持ちだけ受け取っておくねと笑みを返すと、彼は悲し気に瞳を揺らした。

「主様……」

「ところで……一つ疑問なんだけれど、どうして教祖は僕やトレーシーを狙っているんだろう?ユカに会うのは初めてだし、リリーに出会ったのもあの日が初めてだ。それなのに、これほどまでに恨まれる理由がわからない」

それはそうだろう。
入れ替わったときに見た、彼女の記憶が本当だとしたら、ただの逆恨み。
ここにいるノア王子やトレイシーはリリー断罪していない。
それどころか婚約者ですらない。
だけどリリーには同じ存在に、みているのかもしれない……。

「たぶんそれは……リリーの持つ記憶に関係があるかと。ノア王子もトレイシーも何も悪くないと思いますが……はっきりとはわかりません。ですからそれを確認するためにも、彼女と話をしなければいけない」

私はゆっくり視線を上げると、サファイアの瞳を真っすぐに見つめる。
ノア王子は深く息を吐きだすと、額に手を当てた。

「何を言い出すの、その体でどうするつもり。君のその怪我は僕のせいなんだよ。教祖を痛めつけろと僕が指示したんだ。相当辛かっただろう……すまない」

ノア王子は苦し気な表情を見せると、頭を下げた。

「ノア王子、頭を上げてください。謝る必要なんてありません。治療もしてもらいましたし、もう大丈夫です。それにトレイシー様を殺し、ノア王子とトレーシーを狙った教祖なのですから……当然の報いだと思います。中身が入れ替わるなんて、誰も想像しません」

私は元気だと見せるように、笑みを浮かべる。
ピーターはつかつかとベッド脇へやってくると、軽く私の体を押した。

「お前なぁ……強がりやめろ。まともに動けないだろう?」

「へえっ、ぅわっ、ああ」

軽い力のはずだが、体を支えられずに私はベッドへ倒れこんだ。
想像以上にダメージを受けている事実に、私は天井を見上げ息を大きく吐き出す。

「うぅ……だけどこのままじゃ、リリーはノア王子を狙い続けると思う。彼女と話が出来れば……変えられるかもしれない。さっき言ってた通り、入れ替わりの証明なんてできないよ。普通じゃありえないことだし。私はみんなに見つけてもらえただけで十分。死ぬ覚悟はとうに出来ているわ」

私はゆっくりと腕を上げると、ズキッ痛みが走る。
力が抜けバタンッとシーツの上に腕が落ちると、力なく肩を落とした。

「バカッ、絶対に死なせねぇよ。そんな覚悟はさっさと捨てろ。証明する方法を絶対に見つける」

ピーターが私の顔を覗き込むと、紅の瞳に怒りが浮かんでいた。
力強いその瞳にごめんっと謝ると、見つめ返す。
ピーターは大丈夫だと私の頬を撫でると、ニカッと笑って見せた。
いつもの彼のその笑みに涙腺がまた緩んだのだった。
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