悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

掴んだ光 (其の二)

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私はほっと胸をなでおろすと、確認するようにエドウィンへ手を伸ばす。

「本当によかった。実はね、小説でエドウィンの主はノア王子だったの。私がノア王子の代わりに誘拐されたから、ストーリーが変わっちゃったの」

最初、牢屋に入れられたときは、ストーリーを変えようとする罰なのか思っていた。
だけどこうして私が見つけ出されたのなら、違うのかもしれない。
エドウィンは私の手をギュッと掴むと、甘えるように頬を摺り寄せた。

「ノア王子?俺の主様は間違いなくあなた。俺が一番最初にリリーが主様じゃないって気が付いたんだ」

エドウィンは褒めて褒めてと言わんばかりに、頭を突き出しベッドへ手をつくと、目をキラキラと輝かせる。

「ふふふ、私を見つけてくれてありがとう。本当に嬉しかったわ。最初は夢だと思っていたのよ。だけど現実で……信じられなかった」

胸に熱い思いがこみ上げてくると、また涙腺が緩む。
私はグッと力を入れると、何とか涙をひっこめた。
そっとプラチナの髪へ手を伸ばすと、いつもと同じように優しく撫でる。
すると彼は目を細め嬉しそうに笑った。
そんな私たちの様子に、ピーターがぺりっとエドウィンを剥がすと、エドウィンは不服そうに顔を上げる。

「ピーター離せ、邪魔するな」

「バカッ、怪我人の上に乗っかるやつがあるか!」

プクっと頬を膨らませながら、エドウィンはこちらを向くと、シュンっとした。

「ごめん、主様。痛かった?」

大丈夫よ、と答えようとすると、ノア王子の声が響く。

「うーん、普通ならとても信じられる話ではないけれど、今までの事、そして今回の事件を考えると、信じざる得ない。知っていなければ出来ない行動ばかりだからね。リリーだけれども、リリーじゃない。君はそう言ったね。だけど僕は君が誰であろうと、傍にいたのは間違いなく君だと言い切れ……」

「俺が最初に!!キャンッ、痛いな、ピーター!」

ノア王子の言葉を遮ったエドウィンの頭を、ピーターが小突く。
そのまま首根っこを引っ張ると、後ろへ下がらせた。

「俺もそう思います。正直半信半疑なところはありましたが、今の話を聞いて納得できました。最初の護衛の任務、そして誘拐未遂。どれも予測出来ていなければ不可能だった。ですがこれをどう証明すればいいのか難しいですね。彼女を知る俺たちだからこそわかることばかりで……。重鎮貴族はもちろん、王や王妃を納得させなければ、死刑を取り消すのは難しい」

ピーターは暴れるエドウィンを横目にノア王子へ顔を向けると、深刻そうに視線を落とす。

「そうだね、どうするべきか……。その前に君の本当の名前は?リリーではないよね?」

向けられたサファイアの瞳に胸が高鳴る。
私の名前……ここでその名を口にする日が来るなんて考えもしなかった。
リリーではない本当の自分への問いかけは、なぜかむずがゆく感じる。

「あっ、あの、私の名前は……祐佳ゆかです」

「ユカ?可愛い名前だね。改めてユカ、よろしくね。僕たちを守ってくれてありがとう」

「ユカか、宜しくな」

「主様の名前はユカ、俺覚えた!」

皆に紡がれたその名に、私は照れながら微笑んだのだった。

★おまけ(リリー視点)★

結局ノア王子を見つけられず、私は自室へ戻ってきていた。
薄暗い部屋に入ると、カーテンを開ける。
外はポツポツと雨が降り始めていた。

一体ノア王子はどこへ行ったのかしら?
せっかくセクシーな下着を選んだのに、見せられなくて残念だわ。
前世ではこういったものに一切興味はなかった。
親の期待に応えるためだけに、私はノア王子と婚約したのだから。

母はいつも一言目には、王族の一員にとうるさかったから。
父は母の言いなりだった。
いい思い出は一つもない。
そういえば両親は相も変わっていないのかしら?
まぁ……会いに行くつもりはないけれど。

私は下着を脱ぎ着替えると、ベッドへ横になる。
リリーとして男性と交わった経験は一度もないが、彼女の記憶からそれがどういうものなのかを知った。

こことは比べ物にならないぐらい発展した世界で、彼女はいつも一人。
生活費と学費を稼ぐために働いていたが、それだけでは生活が出来なかった。
だから彼女は体を売っていた。
頼る大人がいなかったのだからしょうがないのかもしれない。
どれだけ発展していても、それはここと変わらないのだと笑ったわ。

だけどこのテクニックがあれば、ノア王子を虜にするのは簡単そうね。
焦る必要はないわ。
明日彼女が死ねば、邪魔するものもいない。
私が教祖だと知るものもいない。
私は清々しい気持ちで瞳を閉じると、スッと夢の中へ落ちていった。
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