116 / 135
最終章
掴んだ光 (其の一)
しおりを挟む
ピーターとエドウィン、ノア王子との再会を喜ぶ中、ノア王子は真剣な眼差しを浮かべると、私の両肩を掴んだ。
「本来であればこれほどに重傷で衰弱してる君を休ませてあげるべきだとわかっている。この怪我は僕のせいでもあるしね……。だがもう少しだけ頑張ってほしい。辛いと思うけれど、こうなってしまった経緯、何があったのか全て話してくれないかな?君の処刑が決定されている今、回避するに為にも早急に話を聞かなければ動けない。急がなければ間に合わなくなってしまう」
切羽詰まった彼の姿に、私は姿勢を正すと、青い瞳を真っすぐに見つめ返す。
「私は大丈夫です。あの、何があったのか話す前に、伝えておかなければならないことがあるんです。私はリリーですが、リリーではありません。何を言っているのかわからないですよね……。今のこの姿が本当の私で……、リリーは生粋のご令嬢だった。信じられない話しなんですが……、ノア王子に初めてお会いしたあの日に変わったんです」
「君と最初にあったのは……騎士になりたい言ったあの日だね?」
私は静かに頷くと、拳をギュッと握りしめた。
「はい、あの日私はノア王子の姿を見て、リリーになる前の自分の記憶を思い出しました。この世界とは全く異なる世界で暮らしていた記憶です。こうやって自分の姿に戻るまでは、前世の記憶を思い出したのだと思っていました。だけど私がここにいるということは、今と同様に中身が入れ替わったというのが、正解かなのかもしれません。それは置いといて……それに連なって、私が住んでいた世界にあった、ある小説の話を思い出したんです。その小説はこの世界ととても類似していて、私は直観で小説の世界へ生まれ変わったのかもしれないと……そう思いました。小説でリリーは最後断罪されてしまうんです。だからあの日、断罪を回避したい一心で、騎士になりたいと進言しました」
「断罪されないように騎士になった……?どういうこと?それに小説って、それってもしかして……君が好きだと話していた小説のこと?」
「はい、国の名前、街の名前、リリーはもちろんですが、ノア王子にピーターやエドウィン、それにトレイシーもみんな小説で登場していました。そして小説の内容と同じ事件が起こったり、確信に変わりました。ここは小説の世界なのだと。そこでリリーはノア王子の婚約者だったんです。ですが城に現れた侍女のトレイシーがノア王子と親密になっていく様に、嫌がらせを始めるんですすよね。それがバレて断罪されてしまうんです。だからどうしても婚約者にはなりたくなくて。その結果思いついたのが騎士なることで……意味が分からな過ぎて、笑いちゃいますねよね。ははは」
私は首に手を当てると、思わず苦笑いを浮かべる。
こうして話と自分のバカさ加減に呆れてしまう。
婚約を回避するだけなら、騎士という厳しい道に進む必要もなかった。
ノア王子は青い瞳を細めると、ぼそぼそと呟く。
「婚約者になりたくないか……。まさか……君が話していた王子というのが僕で、侍女がトレイシーだった……?ありえないね……」
ノア王子は複雑そうな表情を浮かべると、ピクピクと頬を引きつらせる。
「そうです!小説はお話しした通り、身分さを乗り越えての切ないラブスートーリーでしたが。実際のトレイシーは、ノア王子と同等な身分で、結婚するのも問題なさそうですけれど」
ノア王子は頭を抱えると、深く息を吐きだした。
「はぁ……だから君はとんでもない勘違いをしていたんだね……」
疲れた様子のノア王子を横目に、ピーターが乗り出してくると、紅の瞳と視線が絡む。
「なぁ、小説の内容を知っていたから、今日ノア王子が襲われることがわかったのか?」
「うん、今日の事だけじゃない。今までの事全部。ノア王子が母親に毒を盛られる事件も、誘拐されそうになるのも……先日のガブリエルの事件も全部小説に書いてあったの。ガブリエルの事件は起こる前にどうにかしようとして……大失敗しちゃったけれど……。こういうわけだったから上手く説明できなくて、信じてとしか言えなかった」
ピーターは顎に手を当て考え込む中、エドウィンが金色の瞳を向けた。
「小説……だからあの時、俺の名前を知っていたの?」
「えぇ、そうよ。ガブリエルの件は本当にごめんなさい。軽率な行動であんなひどい怪我をさせてしまって……私が……」
「ううん、あれは名誉の負傷。村でもみんなに褒められた。それに見て、傷の痕もない!」
エドウィンは服のボタンを二つ外すと、ペラっと服を捲る。
そこに剣で刺された傷跡は跡形もなかった。
「本来であればこれほどに重傷で衰弱してる君を休ませてあげるべきだとわかっている。この怪我は僕のせいでもあるしね……。だがもう少しだけ頑張ってほしい。辛いと思うけれど、こうなってしまった経緯、何があったのか全て話してくれないかな?君の処刑が決定されている今、回避するに為にも早急に話を聞かなければ動けない。急がなければ間に合わなくなってしまう」
切羽詰まった彼の姿に、私は姿勢を正すと、青い瞳を真っすぐに見つめ返す。
「私は大丈夫です。あの、何があったのか話す前に、伝えておかなければならないことがあるんです。私はリリーですが、リリーではありません。何を言っているのかわからないですよね……。今のこの姿が本当の私で……、リリーは生粋のご令嬢だった。信じられない話しなんですが……、ノア王子に初めてお会いしたあの日に変わったんです」
「君と最初にあったのは……騎士になりたい言ったあの日だね?」
私は静かに頷くと、拳をギュッと握りしめた。
「はい、あの日私はノア王子の姿を見て、リリーになる前の自分の記憶を思い出しました。この世界とは全く異なる世界で暮らしていた記憶です。こうやって自分の姿に戻るまでは、前世の記憶を思い出したのだと思っていました。だけど私がここにいるということは、今と同様に中身が入れ替わったというのが、正解かなのかもしれません。それは置いといて……それに連なって、私が住んでいた世界にあった、ある小説の話を思い出したんです。その小説はこの世界ととても類似していて、私は直観で小説の世界へ生まれ変わったのかもしれないと……そう思いました。小説でリリーは最後断罪されてしまうんです。だからあの日、断罪を回避したい一心で、騎士になりたいと進言しました」
「断罪されないように騎士になった……?どういうこと?それに小説って、それってもしかして……君が好きだと話していた小説のこと?」
「はい、国の名前、街の名前、リリーはもちろんですが、ノア王子にピーターやエドウィン、それにトレイシーもみんな小説で登場していました。そして小説の内容と同じ事件が起こったり、確信に変わりました。ここは小説の世界なのだと。そこでリリーはノア王子の婚約者だったんです。ですが城に現れた侍女のトレイシーがノア王子と親密になっていく様に、嫌がらせを始めるんですすよね。それがバレて断罪されてしまうんです。だからどうしても婚約者にはなりたくなくて。その結果思いついたのが騎士なることで……意味が分からな過ぎて、笑いちゃいますねよね。ははは」
私は首に手を当てると、思わず苦笑いを浮かべる。
こうして話と自分のバカさ加減に呆れてしまう。
婚約を回避するだけなら、騎士という厳しい道に進む必要もなかった。
ノア王子は青い瞳を細めると、ぼそぼそと呟く。
「婚約者になりたくないか……。まさか……君が話していた王子というのが僕で、侍女がトレイシーだった……?ありえないね……」
ノア王子は複雑そうな表情を浮かべると、ピクピクと頬を引きつらせる。
「そうです!小説はお話しした通り、身分さを乗り越えての切ないラブスートーリーでしたが。実際のトレイシーは、ノア王子と同等な身分で、結婚するのも問題なさそうですけれど」
ノア王子は頭を抱えると、深く息を吐きだした。
「はぁ……だから君はとんでもない勘違いをしていたんだね……」
疲れた様子のノア王子を横目に、ピーターが乗り出してくると、紅の瞳と視線が絡む。
「なぁ、小説の内容を知っていたから、今日ノア王子が襲われることがわかったのか?」
「うん、今日の事だけじゃない。今までの事全部。ノア王子が母親に毒を盛られる事件も、誘拐されそうになるのも……先日のガブリエルの事件も全部小説に書いてあったの。ガブリエルの事件は起こる前にどうにかしようとして……大失敗しちゃったけれど……。こういうわけだったから上手く説明できなくて、信じてとしか言えなかった」
ピーターは顎に手を当て考え込む中、エドウィンが金色の瞳を向けた。
「小説……だからあの時、俺の名前を知っていたの?」
「えぇ、そうよ。ガブリエルの件は本当にごめんなさい。軽率な行動であんなひどい怪我をさせてしまって……私が……」
「ううん、あれは名誉の負傷。村でもみんなに褒められた。それに見て、傷の痕もない!」
エドウィンは服のボタンを二つ外すと、ペラっと服を捲る。
そこに剣で刺された傷跡は跡形もなかった。
1
お気に入りに追加
1,275
あなたにおすすめの小説

ロザリーの新婚生活
緑谷めい
恋愛
主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。
アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。
このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
踏み台令嬢はへこたれない
IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。

もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
【お詫び】読んで頂いて本当に有難うございます。短編予定だったのですが5万字を越えて長くなってしまいました。申し訳ありません長編に変更させて頂きました。2025/02/21

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる