114 / 135
最終章
命の灯 (其の一)
しおりを挟む
深い深い闇の世界。
その中央に燻るように燃えている小さな小さな炎。
辺りを照らすほどの光もない。
それは私の生命力だ。
今まさに命の灯が燃え尽きようとしていた。
今までで一番、幸せな夢だった。
最後の最後に彼らに出会えたばかりではなく、教祖ではない、本当の自分を見せられた。
もう十分かな。
目覚めても体中が痛いし、空腹感による嘔吐とめまいもひどい。
私に向けられる憎悪にも疲れた。
このまま死ねば、民衆の前で醜態をさらさずに死ねる。
死刑台ではピーターもエドウィンも……そしてノア王子も、ゴミを見るような目で私を見るのだろう。
そんな視線に、耐えられる根性も気力も残っていない。
だからこのまま……幸せのまま死にたい。
闇へ溶け込むように炎が消えていく。
その刹那、炎を守るように暖かい風が吹き込んだ。
それは人肌とよく似ている。
すると先ほど触れたノア王子の手の温もりが、鮮明に蘇った。
さっきのは……本当に夢だったのかな。
本物のように温かかった手。
角ばった長い指に触れ、私の手を包み込んだ。
青い瞳にはっきりと映し出された私の姿。
彼の息遣いに、信じると言ってくれたその言葉。
もし……もしあれが夢じゃなく、現実だったとしたら……。
リリーが別人だと気が付いて、私を見つけてくれたのだとしたら?
絶望に変わったはずの希望が、また胸の奥で燻る。
彼らの声に励まされて、最後まで足掻き続けるんだと、牢屋に入れられたあの日に誓った。
死刑台に送られることも覚悟したはず。
どんな結果になろうとも、死ぬのは変わらない。
ここで幸せに浸り死ぬのは簡単だ。
だけど私は納得できるのだろうか?
いや、きっとできない。
心を強く、もう一度確かめないと。
もう後悔をしたくないのだから。
くすぶっていた炎がゆっくりと大きくなっていく。
深い闇を追い払うように、光が強くなると、水の波紋のように広がっていった。
・
・
・
重い瞼を持ち上げ目覚めると、目の前に真っ白な天井が映る。
ここは……?
あれ……もしかしてまだ夢の続き……?
おもむろに視線を動かすと、窓の外は暗闇に包まれている。
月は厚い雲で覆われ、明かりは部屋の蝋燭が窓に反射し揺らめていてた。
意識が次第にはっきりしてくると、ふかふかのベッドを感じる。
白いシーツに温かい毛布。
背中の痛みが和らいでいる事に気が付くと、体に包帯が巻かれ治療されいた。
何が何だかと、倦怠感を感じながらも体を起こすと、目の前に美しいサファイアの瞳が映る。
侮蔑の眼差しではない、優しい瞳。
「ノア王子……?」
確かめるように恐る恐る彼の頬へ手を伸ばすと、指先から熱が伝わってくる。
紛れもない本物。
さっきのは夢じゃなかった……?
「これは夢……?」
「いいや、現実だよ。お帰り、リリー。目覚めてくれてありがとう」
ノア王子は震える私の手を優しく握ると、包み込むように抱きしめる。
力強い彼の腕に、これは夢ではないのだと改めて実感した。
胸板に頬を寄せよく知る香りが鼻孔を擽ると、また涙がこぼれ落ちる。
本当に気が付いてくれたんだ。
最後の最後まで足掻いてみてよかった。
こんな夢みたいなことが起こるなんて。
奇跡としか言いようがない。
私は縋るように彼の服を握ると、むせび泣いた。
「うぅ、ふぅ、うわあああん、ひぃっく、私……」
「辛かっただろう……、気が付くのが遅れてしまってごめんね」
「うぅ……ッッ、ノア王子がッッ、ひぃっく、あや、うぅ……、何もッッ、ぅぅぅううう……ググッッ」
ノア王子が謝ることなんて何もありません。
そう伝えたいが、涙が止まらず言葉が続けられない。
嬉しい、嬉しい、またこの場所へ戻ってこられた。
またここで生きられるんだ。
みんなと笑いあえるんだ。
その感動に私は叫ぶようにして泣くと、涙が一気にあふれ出したのだった。
その中央に燻るように燃えている小さな小さな炎。
辺りを照らすほどの光もない。
それは私の生命力だ。
今まさに命の灯が燃え尽きようとしていた。
今までで一番、幸せな夢だった。
最後の最後に彼らに出会えたばかりではなく、教祖ではない、本当の自分を見せられた。
もう十分かな。
目覚めても体中が痛いし、空腹感による嘔吐とめまいもひどい。
私に向けられる憎悪にも疲れた。
このまま死ねば、民衆の前で醜態をさらさずに死ねる。
死刑台ではピーターもエドウィンも……そしてノア王子も、ゴミを見るような目で私を見るのだろう。
そんな視線に、耐えられる根性も気力も残っていない。
だからこのまま……幸せのまま死にたい。
闇へ溶け込むように炎が消えていく。
その刹那、炎を守るように暖かい風が吹き込んだ。
それは人肌とよく似ている。
すると先ほど触れたノア王子の手の温もりが、鮮明に蘇った。
さっきのは……本当に夢だったのかな。
本物のように温かかった手。
角ばった長い指に触れ、私の手を包み込んだ。
青い瞳にはっきりと映し出された私の姿。
彼の息遣いに、信じると言ってくれたその言葉。
もし……もしあれが夢じゃなく、現実だったとしたら……。
リリーが別人だと気が付いて、私を見つけてくれたのだとしたら?
絶望に変わったはずの希望が、また胸の奥で燻る。
彼らの声に励まされて、最後まで足掻き続けるんだと、牢屋に入れられたあの日に誓った。
死刑台に送られることも覚悟したはず。
どんな結果になろうとも、死ぬのは変わらない。
ここで幸せに浸り死ぬのは簡単だ。
だけど私は納得できるのだろうか?
いや、きっとできない。
心を強く、もう一度確かめないと。
もう後悔をしたくないのだから。
くすぶっていた炎がゆっくりと大きくなっていく。
深い闇を追い払うように、光が強くなると、水の波紋のように広がっていった。
・
・
・
重い瞼を持ち上げ目覚めると、目の前に真っ白な天井が映る。
ここは……?
あれ……もしかしてまだ夢の続き……?
おもむろに視線を動かすと、窓の外は暗闇に包まれている。
月は厚い雲で覆われ、明かりは部屋の蝋燭が窓に反射し揺らめていてた。
意識が次第にはっきりしてくると、ふかふかのベッドを感じる。
白いシーツに温かい毛布。
背中の痛みが和らいでいる事に気が付くと、体に包帯が巻かれ治療されいた。
何が何だかと、倦怠感を感じながらも体を起こすと、目の前に美しいサファイアの瞳が映る。
侮蔑の眼差しではない、優しい瞳。
「ノア王子……?」
確かめるように恐る恐る彼の頬へ手を伸ばすと、指先から熱が伝わってくる。
紛れもない本物。
さっきのは夢じゃなかった……?
「これは夢……?」
「いいや、現実だよ。お帰り、リリー。目覚めてくれてありがとう」
ノア王子は震える私の手を優しく握ると、包み込むように抱きしめる。
力強い彼の腕に、これは夢ではないのだと改めて実感した。
胸板に頬を寄せよく知る香りが鼻孔を擽ると、また涙がこぼれ落ちる。
本当に気が付いてくれたんだ。
最後の最後まで足掻いてみてよかった。
こんな夢みたいなことが起こるなんて。
奇跡としか言いようがない。
私は縋るように彼の服を握ると、むせび泣いた。
「うぅ、ふぅ、うわあああん、ひぃっく、私……」
「辛かっただろう……、気が付くのが遅れてしまってごめんね」
「うぅ……ッッ、ノア王子がッッ、ひぃっく、あや、うぅ……、何もッッ、ぅぅぅううう……ググッッ」
ノア王子が謝ることなんて何もありません。
そう伝えたいが、涙が止まらず言葉が続けられない。
嬉しい、嬉しい、またこの場所へ戻ってこられた。
またここで生きられるんだ。
みんなと笑いあえるんだ。
その感動に私は叫ぶようにして泣くと、涙が一気にあふれ出したのだった。
1
お気に入りに追加
1,275
あなたにおすすめの小説

ロザリーの新婚生活
緑谷めい
恋愛
主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。
アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。
このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
踏み台令嬢はへこたれない
IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
【お詫び】読んで頂いて本当に有難うございます。短編予定だったのですが5万字を越えて長くなってしまいました。申し訳ありません長編に変更させて頂きました。2025/02/21
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる