悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

夢現 (其の二)

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ピーターは騎士学園で初めての友人だった。
負けず嫌いで、何度も挑んできた彼の姿が懐かしい。
剣を交えるようになって、彼が成長していく姿を隣で見ていた。
強くなっていく姿に、いつの間にか私が追いかけるようになって。
羨ましいと何度も思ったけど、そのたびに彼が強さを教えてくれた。
世話焼きで、いつも迷惑ばっかりかけていた気がする。
バカなことをすれば一番に叱ってくれて、私ができる事を諭し道を開いてくれた。

私ちゃんとできたかな?
ノア王子を守れたのかな……?

「お前……」

彼の唇が微かに動くが、声は聞こえない。

「ピーター、今までありがとう。私がここまでやってこれたのはあなたが居たからだよ」

本当は本人に伝えなければいけない言葉だが、それはもう叶わない。
だからせめて夢の中で……。
ポロポロと溢れ出す涙をぬぐいながら、私は必死に口角を上げた。
彼らとの大切なひと時、叶うはずのなかったこの時間を笑って過ごしたいから。

私は動かないピーターを笑みを浮かべながらじっと見つめ続ける。
消えないよう祈りながら。
映るその姿は、まるで本物ように鮮明で。
手を伸ばせば触れられそうだ。
けれど先ほどのように触れられなければ……消えてしまうかもしれない。

「ピーター」

彼の隣に影が現れると、私はゆっくりと視線を動かす。
そこには青い髪と美しいサファイアの瞳。
前世からずっとずっと私のヒーローだった彼がそこにいた。

「……ッッ、ノア王子!?どうしてここに!?」

「どうしても気になってね……居ても立っても居られなくなって、すまない。それで彼女は?」

「まだ確認できておりません。想像以上に衰弱しており、どうすればいいのか悩んでおりまして……」

「ノア王子、間違いなく彼女が主様だ!ピーターはバカだからわからないだけだ!」

「バカってお前なぁ、こういうのは慎重に進めないとダメなんだよ。こいつは信者を利用して、何人もの人を殺している極悪の教祖なんだぞ」

紅の瞳がノア王子に向けられ話始めると、柱でエドウィンが暴れている。
声はよく聞こえない、だけどその姿はリリーとして見ていた光景とよく似ていた。
思ったことを率直に言葉にするエドウィン。
感情で動くエドウィンを宥めるピーター。
冷静に対応するノア王子。

夢だとしても、また皆とこうしていられる日が来るなんて思わなかった。
そこにリリーはいないけれど……。
私は幸せに浸りながらその光景を眺めていると、ふと透き通ったサファイアの瞳と視線が絡んだ。

ノア王子。
彼に出会って私の人生が大きく変わった。
記憶を取り戻して、彼の騎士になりたいとそう進言した。
彼の護衛騎士になり、小説では知りえなかった彼の姿をたくさん知った。
澄んだ青い瞳の奥にある強さも。

頭が良くて仕事も早いのに、書類の整理が苦手でよく書類の片づけを頼まれたっけ。
変なところで怒ったり、だけど私を心配してくれる優しい瞳。
少し子供っぽいところもあったり、話好きでメモをよくとってた。
私の好みをメモしていた事実は驚いたけれど、何だか嬉しかった。
甘いものが苦手なのに、お菓子が好きだったり。
そして小説とは違うはにかんだ笑み、あの笑みを守りたかった。

「ノア王子、私はあなたの騎士になれて幸せでした」

もっと早くに伝えるべきだった。
結果はこんなことになってしまったけれど、彼の存在は何ものにも代えがたいもの。
私がリリーとして幸せだったのは、ノア王子に出会えたから。
あなたがいたから頑張れた。
最後の最後に会えて本当によかった。

気が緩んだせいなのか、視界がまた暗闇に染まっていく。
嫌だ、嫌だ、やだよ、消えないで、もう少しだけ、お願い……ッッ。
彼らの姿が消えていくその様に思わず手を伸ばす。
するとその手が握りしめられた。
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