悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

冷たい牢獄 (其の一)

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何がなんだ処理が追い付かない。
目の前が真っ暗になり、気が付けば地下牢へ連れてこられていた。
私は牢屋の中に放り込まれると、ガチャンと鍵がかけられる。
その音にようやく我に返ると、私は縋るように鉄の棒を掴んだ。

「待って、待って、お願い、ピーター!」

「気安く名を呼ぶな。下がれ」

縋るその手を足で蹴落とされると、痛みに蹲る。
ピーターは蔑んだ目で私を一瞥すると、無言のまま去っていった。
私は痛みを堪えながら体を起こすと、廊下へ向かって必死に叫ぶ。

「うぅ……ッッ、ピーター、違うの、私じゃない!お願い、信じて!」

遠ざかっていく背を見つめると、彼は一瞬立ち止まった。
しかし振り返ることなくまた歩き始めると、足音が聞こえなくなっていく。

「チッ、バカじゃねぇの。何を信じるんだよ。あいつみたいなこといいやがって……」

彼の呟きは、私に届くことなく消えていったのだった。

薄暗い湿った牢屋には誰もいなくなった。
頑丈な南京錠で扉は固く閉ざされ、石壁に囲まれる。
嘘でしょ……。
私はその場に崩れ落ちると、頭を抱えた。
ここは昔、夢で見たあの牢屋と同じ。
リリーが蹲り泣いていたあの場所。
全てが小説通りになってしまった。

手には手錠がかけられ、冷たい床と隙間風に体が震える。
辺りには誰もいない。
どうしてこんなことに……。
絶望で目の前が暗闇に染まっていく。
現行犯で捕まった私は、間違いなく死刑台に送られるだろう。
だけど中身は違う、私は何もやっていない。
こうならないように騎士という道を選んだはずだった。
私はどこで間違えたの――――――――――?

「どうして、どうして!!!何もしていない!私じゃないのに!!!」

ありったけの思いを込めて絶叫するが、声は空しくこだまするだけ。
リリーもこんな気持ちだったんだろう。
先ほどの映像が頭をよぎると、私は呆然と床を眺めた。

これは罰だろうか。
現実なのに小説の知識を利用し、リリーとなった自分の未来を受け入れず、変えてしまった私の。
ノア王子、ピーター、トレイシー、エドウィン、みんなと過ごした時間は全て無意味だったのかな。
リリーとして普通に生活して、ありきたりな幸せを得たかった。
それだけだったのに……だけどこれが正しい道なの?

前世の私と同じ。
全てが無意味でちっぽけで、何も残さずに自殺した。
あの日、私は自分の捨てた母親を調べ、勇気を出して会いに行った。
誰もいない私の唯一の血縁者。
だけどそこで見たのは、新しい家族と幸せそうに暮らす母の姿だった。
笑みが溢れる温かい家庭。
私が望んでいた場所に母がいた。
どうして自分はそこ居られなかったのか……。
どうして自分にその笑顔が向けられなかったのか……。

結局私は母に会うことなく、そのまま帰った。
父親については何もしらない。
最初からいなかったし、写真もない。
私には本当に誰もいないのだ……。

悔しくて惨めで、虚無感に襲われる。
母の姿を見るまでは嫌われているとか、何か理由があったんだと必死に言い聞かせていた。
だけど実際は、自分の存在自体に意味などなかったのだ。
どうして私は選ばれなかったの……?
どうして母は私を……。
私はただ温かさを知りたかっただけなのにーーーーー。

恨みつらみが募るが、幸せな母の姿を思い出すと、何か出来ると思えなかった。
毎日が苦しくて辛くて、負の感情に耐えられなくなっていく。
そして行き着いたのは、死という選択だった。
よく死ぬ勇気があるのなら、行動を起こせと他人はいうが、実際に行動を起こすことなんてできない。
この耐え難い苦しみから逃れたいその一心だから。

だけど実際は、楽になどならなかった。
死ぬ直前感じた事は、後悔と憎悪。
死を目前に感じた刹那、母に会っておけばよかったと、全てを壊してしまえばよかったのだと、強い感情が溢れだした。
だけどももう遅い。
目の前に水が見えると、私は痛みを感じるまでもなく死んだのだ。
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