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最終章
彼の正体 (其の一)
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個室へ入ると、傷の治療を終えたピーターがそこにいた。
腕から肩に伸びる包帯が痛々しい。
私はピーターの隣へ腰かけると、ノア王子とトレイシーが向かいへ座る。
トレイシーは両手を膝の上で組むと、姿勢を正し真っすぐに私を見つめた。
「まず最初に……実は私……隣国の王子なのですわ。本当の名をトレーシー。トレイシーは姉の名前なのです」
突然の告白に目が点になると、一瞬フリーズした。
「……ッッ、へぇ!?隣国の王子って……?えぇ、えぇぇぇぇ!?」
言葉を理解し動揺すると、前のめりでトレーシーをまじまじ見つめる。
彼が王子様で、姉の名前がトレイシー。
小説の本当の主人公は彼の姉だった?
ということは……ヒロインは隣国のお姫様だったの……!?
そんなこと一言も書いていなかった。
だけどそれなら、身分さに関係なくノア王子と結ばれただろう。
チラッと隣を見ると、ピーターはそれほど驚いていない様子だ。
「ピーター、まさか知っていたの?」
「いや、まさか。だけど普通の貴族じゃないことぐらいわかっていた。ノア王子が連れてきた御方だからな。それよりもだ、男だって事実のほうが驚きだろう。まさか……リリーは知っていたのか?」
紅の瞳がこちらへ向けられると、私はウッと言葉を詰まらせる。
「えっ、うん、まぁ……いろいろあって……」
ピーターは眉を寄せ不機嫌な表情を浮かべると、なぜ知ったのかとこちらへ探るように視線を向ける。
あの状況の説明は難しい……。
苦笑いで誤魔化していると、トレーシーの声が割って入る。
「ふふふっ、さすがピーター様ですわね。それでは早速説明させていただきます。どうして彼を殺し私がここへやってきたか……順を追ってお話致します」
トレーシーは柔らかな笑みを浮かべると、想いを馳せるように話し始めた。
私と姉は双子の姉弟でした。
戦争もなく安定した情勢の中、平穏に暮らしていた。
だけれども今は違います。
国内はひどく荒れ、内戦が始まってしまった。
その発端となったのが、黒の教団のバカげた予言だったんです。
黒の教団自体は、数年前から我が国に存在していたようですが、信者も少なく気にも留めておりませんでした。
しかし教壇のトップである教祖に未来を視る力があると噂され始め、そして昨年我が国で起こった地震を予言したのです。
そこから信者の数を爆発的に増やし、勢力が一気に拡大していきました。
国の空気といえばいいんでしょうか……国民たちの雰囲気が変わっていく様に、私たちもようやく動き始めた。
しかし黒の教団の内情はもちろん、教祖の正体すらつかめない始末。
わかった事とを言えば、信者は皆黒いローブ姿で顔を隠し、シンボルは黒バラとクロス。
教祖も同じく、深くフードを被り顔を見せないばかりか、自ら発言すら行わない。
決められた集会場所はなく、不思議なパフォーマンスで信者を魅了する。
信者の中から選ばれた使途と呼ばれる幹部に言付け、それを信者へ伝え声を広げていくのです。
正体を隠すことに対して、異常なまでに徹底していて、教祖の性別はおろか、顔や名前すらわからないまま。
信教自体は自由ですので、大きくなっていくその存在に対して、私たちはおおっぴらには動けなかった。
しかし黒の教団の動向を注視していたある日、突然教祖が宣言したのです。
この国の双子の王と姫が災いの根源だと、地震も私たちのせいなのだと。
その宣言があってから、私と姉が教団から狙われるようになりました。
もちろん人殺しは重罪、王族を殺すなんて即刻死刑です。
ましてやそんな怪しい教団の根拠も何もない言葉で殺すなんて言語道断。
ですが……信者たちの信仰心は深く、無謀にも城内へ侵入した何人もの信者が捕らえられました。
一般市民や貴族、騎士や執事にメイド、ありとあらゆるところに信者がいた。
しかし実行犯である信者は下っ端で、教祖について何も有力な情報は得られないままでした。
腕から肩に伸びる包帯が痛々しい。
私はピーターの隣へ腰かけると、ノア王子とトレイシーが向かいへ座る。
トレイシーは両手を膝の上で組むと、姿勢を正し真っすぐに私を見つめた。
「まず最初に……実は私……隣国の王子なのですわ。本当の名をトレーシー。トレイシーは姉の名前なのです」
突然の告白に目が点になると、一瞬フリーズした。
「……ッッ、へぇ!?隣国の王子って……?えぇ、えぇぇぇぇ!?」
言葉を理解し動揺すると、前のめりでトレーシーをまじまじ見つめる。
彼が王子様で、姉の名前がトレイシー。
小説の本当の主人公は彼の姉だった?
ということは……ヒロインは隣国のお姫様だったの……!?
そんなこと一言も書いていなかった。
だけどそれなら、身分さに関係なくノア王子と結ばれただろう。
チラッと隣を見ると、ピーターはそれほど驚いていない様子だ。
「ピーター、まさか知っていたの?」
「いや、まさか。だけど普通の貴族じゃないことぐらいわかっていた。ノア王子が連れてきた御方だからな。それよりもだ、男だって事実のほうが驚きだろう。まさか……リリーは知っていたのか?」
紅の瞳がこちらへ向けられると、私はウッと言葉を詰まらせる。
「えっ、うん、まぁ……いろいろあって……」
ピーターは眉を寄せ不機嫌な表情を浮かべると、なぜ知ったのかとこちらへ探るように視線を向ける。
あの状況の説明は難しい……。
苦笑いで誤魔化していると、トレーシーの声が割って入る。
「ふふふっ、さすがピーター様ですわね。それでは早速説明させていただきます。どうして彼を殺し私がここへやってきたか……順を追ってお話致します」
トレーシーは柔らかな笑みを浮かべると、想いを馳せるように話し始めた。
私と姉は双子の姉弟でした。
戦争もなく安定した情勢の中、平穏に暮らしていた。
だけれども今は違います。
国内はひどく荒れ、内戦が始まってしまった。
その発端となったのが、黒の教団のバカげた予言だったんです。
黒の教団自体は、数年前から我が国に存在していたようですが、信者も少なく気にも留めておりませんでした。
しかし教壇のトップである教祖に未来を視る力があると噂され始め、そして昨年我が国で起こった地震を予言したのです。
そこから信者の数を爆発的に増やし、勢力が一気に拡大していきました。
国の空気といえばいいんでしょうか……国民たちの雰囲気が変わっていく様に、私たちもようやく動き始めた。
しかし黒の教団の内情はもちろん、教祖の正体すらつかめない始末。
わかった事とを言えば、信者は皆黒いローブ姿で顔を隠し、シンボルは黒バラとクロス。
教祖も同じく、深くフードを被り顔を見せないばかりか、自ら発言すら行わない。
決められた集会場所はなく、不思議なパフォーマンスで信者を魅了する。
信者の中から選ばれた使途と呼ばれる幹部に言付け、それを信者へ伝え声を広げていくのです。
正体を隠すことに対して、異常なまでに徹底していて、教祖の性別はおろか、顔や名前すらわからないまま。
信教自体は自由ですので、大きくなっていくその存在に対して、私たちはおおっぴらには動けなかった。
しかし黒の教団の動向を注視していたある日、突然教祖が宣言したのです。
この国の双子の王と姫が災いの根源だと、地震も私たちのせいなのだと。
その宣言があってから、私と姉が教団から狙われるようになりました。
もちろん人殺しは重罪、王族を殺すなんて即刻死刑です。
ましてやそんな怪しい教団の根拠も何もない言葉で殺すなんて言語道断。
ですが……信者たちの信仰心は深く、無謀にも城内へ侵入した何人もの信者が捕らえられました。
一般市民や貴族、騎士や執事にメイド、ありとあらゆるところに信者がいた。
しかし実行犯である信者は下っ端で、教祖について何も有力な情報は得られないままでした。
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