悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

黒の教団 (其の四)

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「お嬢ちゃん、ここになんか用かい?」


 …ウサギは絶対絶命の危機に直面していた。



ーー遡ること数時間前


 いつも通り家の掃除、洗濯、諸々の仕事と、マローネからもらった野菜の苗に水をあげ、そろそろ昼食にしようとリビングに向かうと、

「…書類?」

 ネロには全く理解出来ない内容の書類がテーブルに置いてある。そしてご丁寧に提出日の日付も記載されており…。

「今日…だな」

 何回確認しても本日提出日の書類。それが目の前にある。
 理解はできないが内容的にアルジェントのものであろう。

(…これも使用人の仕事だよね、うん)

 普段お世話になっているアルジェントの困り事を見逃すわけにはいかない。
 自分が生活できているのは誰のおかげだ?アルジェント(雇用主)だ!!


 ということで、先日教えてもらったアルジェントの職場にこうしてビビり散らかしながら来たわけで…それが冒頭である。

 アルジェントの職場はデート(仮)の時に絶対近づかないと心に誓ったはずが…フラグの回収がとても早いネロである。


「ひぇ…」

 アルジェントよりも逞しくガタイの良いクマ獣人を前に早くも帰りたい気持ちが強くなる。
 
 プルプルと震え涙目になったネロと、急に泣きそうになるウサギに困惑顔のクマ。とてもカオスな絵面である。

「あ、あの…、アルジェント・コルティの使用人で…。書類を届けに参りました…」
「おお!副隊長の使用人か!それは失礼した。…オッケーついて来い!」

 辿々たどたどしく必死に伝えるネロの声は果たしてちゃんと聞こえたのだろうか。「書類を受け取ってくれるだけで良いのですが…」と言いたくとも言えないチキンなネロは、仕方なくクマ獣人の後を追う。
 
(……ん?今、副隊長って言った?)

 ネロは噂話などにも疎いので知らなかったわけだが…ああ見えてアルジェントは警備隊の副隊長、剣も体術も優秀、侯爵家の三男、それでいて独身。

 クールな性格で女性からのアプローチに全く靡かないが、逆にそれがいい!と王都中の女性に人気のイケメンなのである。アルジェント目当てで街に出る女性も居るほどだ。



 警備隊の職場は殆どが王都の警備に出ているため人は少ないが、たまにすれ違う隊員に珍しいモノを見るような目で見られてしまい、ネロはタジタジである。

 しばらく歩いた後、立派なドアをノックしスタスタと部屋に入って行くクマ。
 「置いて行かないで!!」と泣きそうになりながら必死について行くウサギ。

「副隊長、お客さんですよ~」
「ん?」
 
 執務室らしいその部屋の奥、立派な椅子にアルジェントが座っている。
 そんなアルジェントはネロを視界に入れると吃驚する。

「ネロ!?どうしてこんな所に…な、なんで泣きそうに…  このクマに何かされたのか?」
「副隊長人聞き悪いですって…」

 なぜか泣きそうな顔のネロが職場にいるため、アルジェントはとても動揺する。

 一方で、とても心配した顔でネロを慰めている副隊長に対し、
 普段の鬼副隊長はどうしたんだ…とクマも動揺した。


「…そうか、書類を持って来てくれたのか。態々すまなかった。ありがとう、助かったよ」

 にこやかにお礼を言っているオオカミを見ながらクマは思う。これは誰だ…と。
 普段の何事にも容赦のない超絶無慈悲な鬼副隊長と同一人物なのか…と。
 あ、これ見てはいけないものだ…と察し瞬時に空気に徹する。

「お役に立ててよかったです…!」

 アルジェントの役に立てたのは嬉しいが執務室の異様な
 雰囲気(ほぼクマによる)を感じ、ネロは思う、もう早く帰りたいと。
 そしてネロは気づく、クマが虚無顔になっていることを。




「じゃあ気をつけて帰るんだぞ。今日は早めに帰れると思うから」
「はい、お仕事頑張ってください!」


 こうしてその後オオカミはご機嫌で仕事をし、
 クマは死にそうな顔をしていたのであった。
 
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