悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

黒の教団 (其の一)

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そこからあまり覚えていない。
気が付いた時には、城の病室にいた。
どうやって戻ってきたのか思い出せない。
利き手にはゴツイ包帯、首にもグルグルと巻かれている。
痛みはないが、虚無感のようなものを感じると視界がぼやけた。

私はおもむろに体を起こしグッと拳を握りしめると、包帯に血が浮かび上がる。
ガブリエルを殴った感触が鮮明に蘇ると、苛立ちと悔しさが込み上げた。
あいつのせいだと叫んだ言葉も……。
違う、全部私のせい、私のせいだ……。
涙が溢れそうになるのを堪えると、血だらけのエドウィンの姿が目の前に広がった。

エドウィンは?
エドウィンがどうなったのか確かめないと……。
反射的に立ち上がろうとすると、視界がグルンッと反転した。
脳が揺れ体から力が抜けていくと、視界が闇に染まっていった。

次に目を開けた時には、ノア王子がベッド脇に座っていた。
目覚めた私を嬉しそうに眺める彼。

「リリー、もう大丈夫だよ」

大きな手で頭を撫でられると、胸が苦しくなる。
何も大丈夫なんかじゃない……私がエドウィンを……。
私は重い腕を持ち上げると、ノア王子へ手を伸ばした。

「エドウィンは……?」

彼の腕をギュッと握ると、また視界がかすんでいく。
混沌とする意識の中、私は何とか意識を繋ぐと言葉を紡いだ。
しかしまたすぐにノア王子の姿が霞むと、声を聞き取ることが出来ない。
そのまま瞳を閉じると、私はまた深い眠りに落ちていった。

そんな状態が続く中、私はようやく目覚めると、改めて医者の診察を受けた。
私はどうも三日間ほど昏睡していたようだ。
全体が非常にだるく、頭がはっきりしない。
目だった外傷はないが、どうもこれの倦怠感はガブリエルに飲まされたお茶が原因らしい。
あのお茶には人の意識を麻痺させる毒草が使われていたのだとか。

毒が切れたばかりの状態で、あれだけ動き回っていた事実が信じられないよと、先生が呆れていた。
無理に動いたせいもあり、毒が抜けきるまで思った以上に時間がかかったそうだ。

診察を終えベッドへ寝かされると、テーブルの上に飾られた鮮やかなカーネーションが揺れていた。
ノア王子が用意してくれたのだろうか?
ひらひらと広がる花びらを見つめていると、ピーターが病室へやってきた。

「リリー、大丈夫か?」

彼の声に顔を向けると、すぐに口を開いた。

「ピーター、エドウィンは、エドウィンはどうなったの……?」

聞くのが怖い、だけど聞かないわけにはいかない。
私はゴクリと唾を飲み込むと、紅の瞳を真っすぐに見つめ返した。

「安心しろ、エドウィンは無事だ。それよりも自分の心配をしておけ」

無事なんだ、よかった……本当によかった……。
彼が無事だったのだと改めて知り涙が溢れ出る。
あのままエドウィンが死んでいれば、もうこの世界で生きて行くなんて出来ないと思っていたから……。
溢れる涙を拭っていると、彼はベッド脇へ腰かける。
私の頬へ手を伸ばし涙を拭ったかと思うと、額を指先で軽く弾いた。

「いたっ」

驚き涙が引っ込むと、彼を恐る恐る見上げる。

「リリー、一人で勝手なことすんな。どれだけ心配してたと思ってんだ。こっちの身にもなれ」

私はシュンと肩を落とすと、ヒリヒリする額を撫でた。

「ごめんなさい」

「次何かするときは必ず俺に相談しろよ。……でっ、なんであんな恰好してたんだ?……あいつに何かされたのか?」

ピーターは私を覗き込むと、紅の瞳と視線が絡む。

「大丈夫、何もされてない。あの服は……ガブリエル伯爵に着替えさせられただけ……」

鎖へ吊るされたトレイシーへ触れる自分の姿が鮮明に蘇ると、言葉を詰まらせる。
私がをしようとしていたとは口が裂けても言えない。
どこの痴女。
トレイシーには本当に申し訳ない事をしてしまった……。
思い出すと恥ずかしさに心の中で悶える。

「本当か?」

様子の可笑しい私の姿に、ピーターは真意を探るような視線を見せた。

「うん、本当に何もされてないよ。ドレスなんて数年ぶりで、あんな場所で着ることになるとは思わなくて……、似合ってなかったよね」

恥ずかしさを隠す為、はははと乾いた笑いを見せると、ピーターの瞳がゆっくりと近づいてくる。
顎をクィッと持ち上げると、紅の瞳に私の姿がはっきりと映し出された。

「そんなことねぇよ、似合ってた。あいつの趣味ってのが気に食わねぇけどな」

「へぇ!?」

真剣なピーターの表情。
予想外な返答にドギマギしていると、頬に熱が集まっていく。
どういう意図で言っているのか、冗談なのか、本気のなのかわからない。
なんと答えていいのか狼狽していると、トントントンとノックの音が病室に響いた。
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