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第三章
黒い靄のその先に (其の五)
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私は駆け足で近づくと、間髪入れずに木製の扉を蹴破る。
中へ入ると、屋敷から運び出した荷物をせっせと詰めるガブリエルの姿。
彼の後方の床には開けっ放しの扉。
きっとこの扉は彼の屋敷へ続く隠し通路。
これがあったから、トレイシーを緑地公園へ誘ったのだろう。
ここなら誰にも見られることなく、屋敷へ戻れるから……。
彼は目を大きく見開きこちらへ顔を向けると手を止め固まった。
「リリー!?生きてッ、なっ、なぜここが!?」
「ガブリエル、覚悟しなさい!」
私はガブリエルへ飛び掛かると、腕を捕らえ後ろへ締め上げる。
痛みに暴れる彼の体を押さえつけると、逃げないよう関節技を掛けると、そのまま腕の骨を外す。
「待ってくれ、がぁっ、いたっ、待て、ああ”あ”あ”あぁ”あああああ」
痛みに悶絶するガブリエルを見つめながら、私はもう片方の腕の骨も外すと、馬乗りになり怒りに任せガブリエルの顔面を殴る。
「あなたのせいでエドウィンがッッ、あなたのせいで!!!」
違う、彼のせいじゃない。
軽率な行動が招いた私のせい。
分かっているけれど……振り上げた拳の行き先が欲しかった。
「うぅッ、ひぃっ、ガハッ、やめっ、グハッ、うぅぅぅ……ッッ」
何度も何度も彼の顔面に拳を振り下ろす。
殴りすぎて拳の骨が折れたのだろうか……ミシミシと音を立て激痛が走る。
それでも私は殴るのをやめなかった。
拳が赤く染まり始めた頃、バタバタバタと足音が響くと、ノア王子とピーターが小屋へ現れる。
「はぁ、はぁ、はぁ、リリー、こんなところにッッ」
ピーターはすぐに私の体を捕らえると、ガブリエルから引き離した。
抵抗するように必死で暴れるが、ピーターは私の体をガッチリと抱き抱える。
「離して、ピーター!」
「落ち着けリリー、こいつを殺すつもりか。もう意識はない、気絶してる」
顔が腫れ口から血を流し、ピクリとも動かないガブリエル。
私はようやく我に返ると、先ほど止まったはずの涙がまた溢れ、雨の雫と一緒に落ちていった。
★おまけ(エドウィン視点)★
俺の主様があいつの人形になってしまった。
俺が守り切れなかったから……俺のせいだ。
だけど本当の主様は中にちゃんといる。
それは魂の繋がりがあるからわかるんだ。
彼女は酷く苦しんでいる。
だからどんなことをしても早く元に戻さないと。
狼の姿へ変わったあの時、あいつを仕留めておくべきだった。
ピーターならあそこできっちり仕留めていただろう。
だけど俺には出来なかった。
主様を傷つけることが怖くて……動くのをためらった。
地下室を出て行ったあいつを追いかけて、やっと開いた扉。
何度も扉に体当たりした事で体中が痛む。
腕の傷が開き血が止まらない。
意識が朦朧とする中、過去の映像が脳裏を過った。
俺はいつもそうだった。
後先考えずに行動した結果、何も果たせない。
意気地なしで臆病者で、後先考えずに行動して……。
人狼の街に居た時も同じだ。
俺は誰よりも早く走れ、誰よりも強かった。
そう自負していた、なのに両親を守れなかった。
俺の両親は山に住む獣に襲われて死んだ。
子供はつれていけないと言われたのに、無理矢理ついて行った俺のせいで。
獣が俺を襲ってきて、立ち向かおうとしたけれど、怖くて足が動かなかった。
両親はそんな俺を庇い負傷し、俺を助けるために獣を引き付け殺された。
大事なものを守れなかった。
足が震え動けないまま、目の前で食われていく両親の姿を今でも鮮明に覚えている。
だから強くなろうと決めた。
もうこんな思いをしたくなかったから。
主が現れて今度こそって思っていた。
なのに……なのに……。
血を流しすぎたのか……意識が遠のいていくのを感じる。
その視界の隅に、主様の姿が映った。
ガブリエルに捕らえられる彼女の姿。
しっかりしろ俺。
ピーターのように格好良く救いだせなくても、必ず助けるんだ。
あの瞳の色……主様はまだ助かっていない、苦しみ続けている。
先ほどまで感じていた主様の意識が薄れていくのがわかる。
このままでは彼女自身が消えてしまうかもしれない。
それはダメだ。
俺は必死に重い体を持ち上げると、気配を消し壁沿いに主様へ近づいて行く。
音を立てず慎重に。
ガブリエルの視界に入らないよう、物陰に隠れながらゆっくりと。
その刹那、ガブリエルが壁に現れた穴を抜けて飛び出した。
彼女は剣を自らに向けると、ゆっくりと瞳を閉じる。
俺は思いっきり地面を蹴ると、主様へ手を伸ばした。
スローモーションで流れる映像。
剣先が落ちていくその様に、俺は主様の体を抱きしめる。
剣が皮膚を裂き突き刺さり貫通すると、激痛が走った。
目の前には彼女の瞳。
暗かった瞳の色が、いつもの色に戻っていくのがわかった。
彼女に怪我はない。
俺の知る主様の姿。
やっと守れたんだ。
俺は安心するように瞳を閉じると、暗闇の中へと落ちて行った。
主様の笑った姿を瞼の裏に描いて――――。
*******************************
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
第三章はここで完結いたします。
暗いお話だったかと思いますが、いかがでしたでしょうか?
ご感想等ございましたら、お気軽にコメントください。
次章よりやっと謎が徐々に明かされていきますので、ご安心ください!
(前置きが長すぎですね、すみません(-_-;)サイモン教官もまた登場しますよ!)
当初よりも話数が増えてしまい、章の追加をさせていただきました。
どうぞ最後までお付き合い頂けると嬉しいです!
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします
中へ入ると、屋敷から運び出した荷物をせっせと詰めるガブリエルの姿。
彼の後方の床には開けっ放しの扉。
きっとこの扉は彼の屋敷へ続く隠し通路。
これがあったから、トレイシーを緑地公園へ誘ったのだろう。
ここなら誰にも見られることなく、屋敷へ戻れるから……。
彼は目を大きく見開きこちらへ顔を向けると手を止め固まった。
「リリー!?生きてッ、なっ、なぜここが!?」
「ガブリエル、覚悟しなさい!」
私はガブリエルへ飛び掛かると、腕を捕らえ後ろへ締め上げる。
痛みに暴れる彼の体を押さえつけると、逃げないよう関節技を掛けると、そのまま腕の骨を外す。
「待ってくれ、がぁっ、いたっ、待て、ああ”あ”あ”あぁ”あああああ」
痛みに悶絶するガブリエルを見つめながら、私はもう片方の腕の骨も外すと、馬乗りになり怒りに任せガブリエルの顔面を殴る。
「あなたのせいでエドウィンがッッ、あなたのせいで!!!」
違う、彼のせいじゃない。
軽率な行動が招いた私のせい。
分かっているけれど……振り上げた拳の行き先が欲しかった。
「うぅッ、ひぃっ、ガハッ、やめっ、グハッ、うぅぅぅ……ッッ」
何度も何度も彼の顔面に拳を振り下ろす。
殴りすぎて拳の骨が折れたのだろうか……ミシミシと音を立て激痛が走る。
それでも私は殴るのをやめなかった。
拳が赤く染まり始めた頃、バタバタバタと足音が響くと、ノア王子とピーターが小屋へ現れる。
「はぁ、はぁ、はぁ、リリー、こんなところにッッ」
ピーターはすぐに私の体を捕らえると、ガブリエルから引き離した。
抵抗するように必死で暴れるが、ピーターは私の体をガッチリと抱き抱える。
「離して、ピーター!」
「落ち着けリリー、こいつを殺すつもりか。もう意識はない、気絶してる」
顔が腫れ口から血を流し、ピクリとも動かないガブリエル。
私はようやく我に返ると、先ほど止まったはずの涙がまた溢れ、雨の雫と一緒に落ちていった。
★おまけ(エドウィン視点)★
俺の主様があいつの人形になってしまった。
俺が守り切れなかったから……俺のせいだ。
だけど本当の主様は中にちゃんといる。
それは魂の繋がりがあるからわかるんだ。
彼女は酷く苦しんでいる。
だからどんなことをしても早く元に戻さないと。
狼の姿へ変わったあの時、あいつを仕留めておくべきだった。
ピーターならあそこできっちり仕留めていただろう。
だけど俺には出来なかった。
主様を傷つけることが怖くて……動くのをためらった。
地下室を出て行ったあいつを追いかけて、やっと開いた扉。
何度も扉に体当たりした事で体中が痛む。
腕の傷が開き血が止まらない。
意識が朦朧とする中、過去の映像が脳裏を過った。
俺はいつもそうだった。
後先考えずに行動した結果、何も果たせない。
意気地なしで臆病者で、後先考えずに行動して……。
人狼の街に居た時も同じだ。
俺は誰よりも早く走れ、誰よりも強かった。
そう自負していた、なのに両親を守れなかった。
俺の両親は山に住む獣に襲われて死んだ。
子供はつれていけないと言われたのに、無理矢理ついて行った俺のせいで。
獣が俺を襲ってきて、立ち向かおうとしたけれど、怖くて足が動かなかった。
両親はそんな俺を庇い負傷し、俺を助けるために獣を引き付け殺された。
大事なものを守れなかった。
足が震え動けないまま、目の前で食われていく両親の姿を今でも鮮明に覚えている。
だから強くなろうと決めた。
もうこんな思いをしたくなかったから。
主が現れて今度こそって思っていた。
なのに……なのに……。
血を流しすぎたのか……意識が遠のいていくのを感じる。
その視界の隅に、主様の姿が映った。
ガブリエルに捕らえられる彼女の姿。
しっかりしろ俺。
ピーターのように格好良く救いだせなくても、必ず助けるんだ。
あの瞳の色……主様はまだ助かっていない、苦しみ続けている。
先ほどまで感じていた主様の意識が薄れていくのがわかる。
このままでは彼女自身が消えてしまうかもしれない。
それはダメだ。
俺は必死に重い体を持ち上げると、気配を消し壁沿いに主様へ近づいて行く。
音を立てず慎重に。
ガブリエルの視界に入らないよう、物陰に隠れながらゆっくりと。
その刹那、ガブリエルが壁に現れた穴を抜けて飛び出した。
彼女は剣を自らに向けると、ゆっくりと瞳を閉じる。
俺は思いっきり地面を蹴ると、主様へ手を伸ばした。
スローモーションで流れる映像。
剣先が落ちていくその様に、俺は主様の体を抱きしめる。
剣が皮膚を裂き突き刺さり貫通すると、激痛が走った。
目の前には彼女の瞳。
暗かった瞳の色が、いつもの色に戻っていくのがわかった。
彼女に怪我はない。
俺の知る主様の姿。
やっと守れたんだ。
俺は安心するように瞳を閉じると、暗闇の中へと落ちて行った。
主様の笑った姿を瞼の裏に描いて――――。
*******************************
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
第三章はここで完結いたします。
暗いお話だったかと思いますが、いかがでしたでしょうか?
ご感想等ございましたら、お気軽にコメントください。
次章よりやっと謎が徐々に明かされていきますので、ご安心ください!
(前置きが長すぎですね、すみません(-_-;)サイモン教官もまた登場しますよ!)
当初よりも話数が増えてしまい、章の追加をさせていただきました。
どうぞ最後までお付き合い頂けると嬉しいです!
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします
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