悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第三章

黒い靄のその先に (其の四)

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なんて愚かな事をしてしまったのか。
エドウィンが死んだら……私のせいだ……。
絶望の淵に突き落とされ、涙が止まらない。
後悔の念に駆られ、私は血だまりをただ見つめるだけ。

どうすることも出来ず座りこんで居ると、誰かが私の肩を強く握った。
おもむろに顔を上げると、青い瞳が映り込む。

「リリー、しっかしして。催眠が解けたようだね、よかった。地下室に居た少女二人も助け出したから安心して。だけど泣くのは後だよ」

ノア王子は頬に伝う涙を拭うと、真剣な表情を見せた。

「ガブリエルが逃げた。裏手に回った騎士の報告では、逃げた形跡は見つからず、姿すら見つけられていない。街の門へ手配済みだが、現れる気配はない。ねぇリリー、彼の居場所に心当たりはないかい?」

ノア王子は問いかけながらハンカチを取り出すと、泣きはらした目を拭いた。
ハンカチには化粧の後が付き、拭いた箇所が肌色に染まっている。
彼の居場所……?
もうそんなのどうでもいい。
エドウィンが死んでしまうかもしれない。
私のせいで……私が、私が……。

先ほどグッタリとしたエドウィンの姿が何度も脳裏に過ると、考えが上手く定まらない。
サファイアの瞳を見つめたまま、茫然自失になっていると、ピーターが戻ってくる。
私の姿にピーターは紅の瞳に怒りが浮かぶと、私の腕を掴み強引に引き上げた。

「しっかりしろ、リリー!お前はガブリエルを捕まえるためにここへ来たんだろう。エドウィンが体を張ってお前を守ったんだ。情けねぇ姿晒してんじゃねよ!泣くのも後悔するのも、あのクソ野郎を捕まえてからにしろ!」

腕から伝わるピーターの熱。
紅の瞳に情けない私の姿が映し出されると、ようやく私は息を吸い込んだ。
そうだ、私はガブリエルを捕まえに来た。
エドウィンとトレイシーを巻き込んで……二人を傷つけてまで……。
証拠を掴みたかった。
あの男を野放しに出来ないと思った。
そう……このままあいつを逃がすわけにはいかない。

私は脚に力を入れ立ち上がると、流れる出る涙を拭う。
そうだ、ピーターの言う通り。
エドウィンに救われた命、私に出来ることは……。
私はノア王子とピーターを見つめると、ごめんと呟いた。
グッと拳を握り自分自身へ喝を入れると、ぽっかりと空いた抜け道を見つめた。

小説であいつはこの屋敷で捕まった。
秘密の逃げ道なんて話はなかった。
だけど……トレイシーを誘拐したとき感じた違和感。

あの緑地公園から屋敷へ戻った経路がわからない。
周りに馬車はなかった、馬車が走れそうな道もなかった。
だけど貴族がわざわざ歩いてくる距離ではない。
ならなぜあんな場所にトレイシーを連れてこいと言ったのか。
人気のない場所なら近場でいくらでもあるのに……。

それに用水路の音、頭に浮かんだ映像。
私は窓から外へ飛び出すと、無我夢中で走って行った。

「おい、リリー、待て!」

私へ続くように、ピーターとノア王子が追いかけてくる。
庭を突っ切りシーンと静まり返る貴族街へ出ると、私は街の出入り口と逆の方角へ進む。
日中の晴れ渡った空と違い、月は見えず曇天で覆われ今にも雨が降り出しそうだ。

貴族街を抜け市街地へ出ると、灯りの無い道を門とは逆の方向へ進んで行く。
ポタポタと雨が降り始めたかと思うと、ザーザーと一気に降り始めた。

「リリー、そっちは街門から離れるぞ?逃げるなら逆だろう?」

ピーターの声が耳にとどくが、答えている時間はない。
雨で視界が悪くなっていく。
早くしないとあいつに逃げられてしまう。
湿り始める土を強く蹴ると、私は緑地公園の中へ入って行った。

トレイシーを連れて歩いた道。
先ほどまで後ろから聞こえていた二人の足音が聞こえない。
けれど立ち止まるわけにはいなかった。

雨が勢いを増し、ぬかるみに何度も足を取られそうになる。
横殴りの雨に髪もドレスもぐしょぬれだ。
足にまとわりつくドレスをそのままに、私は無我夢中で走り続けた。

風景を思い出しながら、私はなんとかトレイシーを連れてきたあの場所へたどり着いた。
視界が悪い中、辺りを見渡しトレイシーと来た時の事を思い出す。
用水路の音が聞こえたのは向こうだった。
そちらの方角へ歩いていくと、今にもつぶれてしまいそうなボロボロの小屋を見つけた。
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