悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第三章

黒い靄のその先に (其の三)

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私の首へ剣先を突き付けたまま、ジリジリと後退していくガブリエル。
ノア王子はガブリエルから目線を逸らせることなく、じっと様子を伺う。
ピリピリとした緊張感が漂う中、首筋に剣先が触れると、先ほど切った傷口が開いた。

ジワッと違が溢れ切先が赤く染まり始めると、騎士達と距離を取るように壁際まで連れてこられる。
ガブリエルはこちらを睨みつけるノア王子とピーターを交互に見つめたかと思うと、そっと私の耳元へ顔を寄せた。

「地下室の存在がバレ、君たちの姿を見られた僕はもう終わりだ。直に黒の教団との関係も明らかになってしまうだろう……。だがこのまま捕まりたくはない。実はこういうときの為に、逃げ道を用意してあるんだ。だけどこれだけ警戒されているとなかなか難しい。だから注意をそらせる必要がある、そこにいる騎士たちのね……。僕の描いていたシナリオとは変わってしまったが……仕方がない。ねぇ、僕の可愛いリリー、君はとても役にたつ人形だったよ。最後の命令だ……」

頭に響いた不吉な言葉に、私は首にかかっていた剣を取ると、ガブリエルを隠すように前へ一歩踏み出した。
彼はニヤリと口角を上げると、私の背に身を隠す。
騎士達にバレぬようそっと足元の壁を蹴り、隠し扉を開けた。
穴をふさぐように私の体を引き寄せると、丸く開いた抜け穴を潜り抜け、外へ駆け出すガブリエル。

「リリー、僕の為に死んでくれ」

「おぃ、くそっ、裏手だ、外にいる騎士を裏へ回せ!急げ、絶対に逃がすな」

ピーターの怒号が響き渡る。
ガブリエルの命令に従い、私は剣を持ち変え己へ向けると、剣先を首へ突き立てた。

「リリー、待て、やめろ!!!」

こちらへ手を伸ばすノア王子。
しかしその手が届く前に、私は扉を通れないよう体で守りながら、剣の重さを利用し手を離す。

目の前に血飛沫が舞った。
黒に混じる赤。
痛みは感じない、血が流れだすその感覚も。
だけど私はここで死ぬんだ、そう悟った刹那、赤黒く霞んだ視界の先にエドウィンの姿が映った。

私に覆いかぶさるエドウィン。
目の前に金色の美しい瞳がはっきりと映し出される。
どうしてエドウィンがそこにいるの……?

よくわからないと目を凝らしよく見ようとしてみると、剣が突き刺さっているのは彼の背中。
剣は体を貫通し、血がポタポタと地面に垂れている。
足元に広がっていく血だまりが、私の視界を赤く染め上げた。

うそ……嘘でしょ……。
なんで、なんで、どうして?
ふと地下室へ続く扉へ目を向けると、壁伝いに点々とした血痕が棚の隙間に残っていた。

息をすることも忘れ立ち尽くす中、ふとエドウィンの吐息を感じる。
すると首筋にチリチリとした痛みを感じた。
先ほどまで感じる事の無かった感覚に、視界が一気に開けていった。

「主様が……無事でよかった」

エドウィン……?
金色の瞳が閉じられ、体の力が抜けるとエドウィンの体がゆっくりと傾いていく。
彼の重さに耐えきれなくなり、一緒に倒れ込むと私は彼の体を強く抱きしめた。

刺さっているのは間違いなく私が持っていた剣。
エドウィンの腰から奪い取った私の剣。
私がエドウィンを刺したの?
私がエドウィンを殺したの……?
どうしてこんなことに。
私は私は私はッッ。

「いやああああああああああああああああああああああああああ」

私はエドウィンの体を抱き寄せると、涙で視界が歪んでいく。
騒がしい周りの音が消え、視界が真っ赤に染まると、彼の体が冷たくなっていくのを感じた。
ゴホッと血を吐き、深く刺さった剣からあふれ出す血液。
黒いドレスに生暖かい血が吸い込まれていった。

悪夢のような惨状。
体でエドウィンを支え、両手で必死に血を抑えようとするが、どんどん溢れ出る。
嫌、嫌よ、こんなの嫌。
なんで、なんで、私のせいで……ッッ。
ポロポロと涙が溢れ、拭っても拭っても視界が滲んでいく。

「エドウィン、嫌、イヤッ、死なないで、どうしてッッ、なんで、お願い、止まって!」

「リリー、しっかりしろ。剣に触るな!」

ピーターは泣き叫ぶ私を退かすと、エドウィンの体をしっかりと支えた。
頬を叩き呼びかけるが応答はない。
剣が刺さったままの状態で、ピーターは布を用意させると、止血を始めた。
しかし溢れる血は止まらない。

「くそっ、エドウィンを城の治療室へ運べ。急げ!」

「ピーター様、私が付き添いますわ」

ピーターは怒号を飛ばすと、担架を持った救護班とピーターがエドウィンを運び出す。
トレイシーもそれに続くように外へ出ると、騎士達が慌ただしく動き出した。
私はその場で放心したまま、運ばれていくエドウィンを泣きながら眺めることしかできなかった。
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