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第三章
手掛かりは
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太陽が傾き辺りが暗くなっていく。
サムは唇をギュッと噛むと、無言のまま俯いていた。
カチカチカチ時間だけが過ぎていく中、居ても立っても居られなくなったのか、ピーターは立ち上がる。
「リリーがまだ戻ってこねぇ……ノア王子もまだだ。……先に調べてみるか」
ピーターは少し出てくると、サムへ言い残すと宿舎を後にした。
太陽が沈み、月が浮かび始めた頃、ピーターが部屋へ戻ってくる。
手には数枚の書類。
ペンを片手にソファーへドサッと腰かけた。
「リリーは朝からエドウィンと街へ行ったようだが、街からは出ていない。城にも行っていない。夕刻に城の傍の緑地公園で姿を見たと目撃情報があったが……まだ戻ってきてないんだよな。消灯まで後数時間か……。サム、リリーとはどこで会ったんだ?」
尋ねられた言葉にサムは緊張した面持ちで顔を上げると、ピーターを見つめる。
「あの、えーと、市街地にある茶屋の傍で……」
「市街地か……はぁ……足取りがわかんねぇな。やっぱりノア王子を待つしかないのか」
苛立った様子でペンで紙をトントン叩いていると、ノックの音が響いた。
「ピーター、ノア王子が戻られたようだぞ」
「おぉ、サンキュー。サム行くぞ」
ピーターは上着を羽織ると、サムへ顔を向ける。
サムはソファから立ち上がると、急ぎ足でピーターの背を追いかけた。
城の回廊を進んでいる途中、正面からノア王子がやってきた。
「ピーターすまない、遅くなった。トレイシーが見当たらなくてね」
「トレイシーが……?それよりもノア王子、リリーにどんな任務を任せたんですか?あいつまだ戻ってきていないんですよ」
ノア王子は首を傾げると、ピーターの後ろに立っていたサムへ顔を向ける。
「任務……?何のことかな?それにその子供は?」
「へぇっ!?リリーから彼が重要な参考人だとメモをもらったんですが……ノア王子の指示ではないのですか?」
「いや、僕からはなにも指示していないよ。はぁ……また彼女トラブルに首を突っ込んだのかな?」
ピーターとノア王子は顔を見合わせため息を吐くと、後ろから侍女が現れた。
「あの、ノア王子、トレイシーなんですが……。リリー様に呼ばれたと夕刻に街へ行かれたようですわ」
「リリーがトレイシーを?最近二人の間に何かあったみたいだからな。その話をするためか?いやだが、わざわざ街へ呼び出すなんて珍しいな……」
ノア王子はピーターの言葉を聞きながら考え込むと、侍女へ顔を向けた。
「トレイシーは別棟へ戻っている?」
「いえ、その……まだですの」
重い沈黙が流れる中、窓から覗く月が辺りを照らし始めていた。
ピーターはノア王子が来るまでに調べた内容を報告し始めると、サムは俯きギュッと拳を握りしめる。
今にも泣き出しそうな表情を浮かべていると、報告を聞き終えたノア王子がサムへ顔を向けた。
「サムと言ったかな?本当に何も知らないのかい?」
優しく問いかけたその言葉には、何とも言えない威圧感を感じる。
サムはガタガタと体を震わせながら顔を上げると、涙を浮かべながら口を開いた。
「あの……嘘をついてごめんなさい。リリーさんに話すなって言われて……。全部僕のせいなんです……」
サムはリリーに話したことを伝えると、ピーターとノア王子は呆れた様子で頭を抱えた。
「あいつ、本当に突っ走りすぎだ。エドウィンも強引に止めろよな……」
「はぁ……全く同感だね。呆れて何も言えないよ。話をまとめると、リリーはガブリエル伯爵宅へ向かい事件に巻き込まれたと言う事だね。そしてそれにトレイシーも巻き込まれているか……まずいね。一人で外出するなとあれほど念を押していたんだが……」
ノア王子は深いため息をつくと、現状を把握し頭を悩ませる。
「ですが三人とも戻って来ないという事は、ガブリエル伯爵宅で何かを見つけたと言う事ですよね?」
「まぁそうなるかな。だが……」
ピーターは腰の剣を確認すると、城の出口へと歩き始める。
「ピーター、待て。この程度の情報ではガブリエル伯爵宅には踏み込めない上、騎士も動かせないだろう。今行ったとしても門前払いされて終わりだ」
ピーターは足を止めおもむろに振り返ると、紅の瞳をまっすぐノア王子へ向けた。
「強引に踏み込みます。あの伯爵について良い噂をきかない。早急に助け出さないと」
「仮に踏み込んだとしよう、もし三人を見つけだせなかったらどうする?屋敷に居るとは限らない。他の場所へ移されていたら?それに君の家は彼と同じ伯爵家だが、彼の父上は重鎮貴族の一人だ。不利なのは君。一人で向かうのは得策ではない」
ピーターは拳を握りしめると、苛立った様子でクソッと地面を強く蹴った。
「ならどうすればいいんですか!」
難色を示すノア王子。
そこに別の侍女がやってきた。
「あの、お取込み中に申し訳ございません。リリー様がガブリエル伯爵のところへ行ったと聞こえたのですが……」
今にも泣きそうな表情でノア王子とピーターを交互に見つめる侍女。
その様に二人は顔を向けると、彼女はグッと涙を堪え、ゆっくり話し始めた。
「先日……ガブリエル伯爵が黒の教団に関係しているとの噂をお話ししたんです。……もしかしたらそれが原因かもしれません……根も葉もない噂だと何度も説明したのですが……」
ノア王子は目を見開くと、侍女に詰め寄った。
「黒の教団だって?だが彼は入街検査をクリアしているだろう」
「ですから本当にただの噂だと説明致しました。ですが……何か引っかかっている様子で……」
「はぁ……また女の勘というやつか。黒の教団か……。リリーが調べようとするなら、何かしらあるのかもしれない。噂について詳しく聞かせてくれ。内容によっては伯爵宅へ踏み込む手段になるかもしれない」
ノア王子はピーターとサム、そして侍女を連れて応接室へ向かうと、三人を助け出す算段を立てたのだった。
サムは唇をギュッと噛むと、無言のまま俯いていた。
カチカチカチ時間だけが過ぎていく中、居ても立っても居られなくなったのか、ピーターは立ち上がる。
「リリーがまだ戻ってこねぇ……ノア王子もまだだ。……先に調べてみるか」
ピーターは少し出てくると、サムへ言い残すと宿舎を後にした。
太陽が沈み、月が浮かび始めた頃、ピーターが部屋へ戻ってくる。
手には数枚の書類。
ペンを片手にソファーへドサッと腰かけた。
「リリーは朝からエドウィンと街へ行ったようだが、街からは出ていない。城にも行っていない。夕刻に城の傍の緑地公園で姿を見たと目撃情報があったが……まだ戻ってきてないんだよな。消灯まで後数時間か……。サム、リリーとはどこで会ったんだ?」
尋ねられた言葉にサムは緊張した面持ちで顔を上げると、ピーターを見つめる。
「あの、えーと、市街地にある茶屋の傍で……」
「市街地か……はぁ……足取りがわかんねぇな。やっぱりノア王子を待つしかないのか」
苛立った様子でペンで紙をトントン叩いていると、ノックの音が響いた。
「ピーター、ノア王子が戻られたようだぞ」
「おぉ、サンキュー。サム行くぞ」
ピーターは上着を羽織ると、サムへ顔を向ける。
サムはソファから立ち上がると、急ぎ足でピーターの背を追いかけた。
城の回廊を進んでいる途中、正面からノア王子がやってきた。
「ピーターすまない、遅くなった。トレイシーが見当たらなくてね」
「トレイシーが……?それよりもノア王子、リリーにどんな任務を任せたんですか?あいつまだ戻ってきていないんですよ」
ノア王子は首を傾げると、ピーターの後ろに立っていたサムへ顔を向ける。
「任務……?何のことかな?それにその子供は?」
「へぇっ!?リリーから彼が重要な参考人だとメモをもらったんですが……ノア王子の指示ではないのですか?」
「いや、僕からはなにも指示していないよ。はぁ……また彼女トラブルに首を突っ込んだのかな?」
ピーターとノア王子は顔を見合わせため息を吐くと、後ろから侍女が現れた。
「あの、ノア王子、トレイシーなんですが……。リリー様に呼ばれたと夕刻に街へ行かれたようですわ」
「リリーがトレイシーを?最近二人の間に何かあったみたいだからな。その話をするためか?いやだが、わざわざ街へ呼び出すなんて珍しいな……」
ノア王子はピーターの言葉を聞きながら考え込むと、侍女へ顔を向けた。
「トレイシーは別棟へ戻っている?」
「いえ、その……まだですの」
重い沈黙が流れる中、窓から覗く月が辺りを照らし始めていた。
ピーターはノア王子が来るまでに調べた内容を報告し始めると、サムは俯きギュッと拳を握りしめる。
今にも泣き出しそうな表情を浮かべていると、報告を聞き終えたノア王子がサムへ顔を向けた。
「サムと言ったかな?本当に何も知らないのかい?」
優しく問いかけたその言葉には、何とも言えない威圧感を感じる。
サムはガタガタと体を震わせながら顔を上げると、涙を浮かべながら口を開いた。
「あの……嘘をついてごめんなさい。リリーさんに話すなって言われて……。全部僕のせいなんです……」
サムはリリーに話したことを伝えると、ピーターとノア王子は呆れた様子で頭を抱えた。
「あいつ、本当に突っ走りすぎだ。エドウィンも強引に止めろよな……」
「はぁ……全く同感だね。呆れて何も言えないよ。話をまとめると、リリーはガブリエル伯爵宅へ向かい事件に巻き込まれたと言う事だね。そしてそれにトレイシーも巻き込まれているか……まずいね。一人で外出するなとあれほど念を押していたんだが……」
ノア王子は深いため息をつくと、現状を把握し頭を悩ませる。
「ですが三人とも戻って来ないという事は、ガブリエル伯爵宅で何かを見つけたと言う事ですよね?」
「まぁそうなるかな。だが……」
ピーターは腰の剣を確認すると、城の出口へと歩き始める。
「ピーター、待て。この程度の情報ではガブリエル伯爵宅には踏み込めない上、騎士も動かせないだろう。今行ったとしても門前払いされて終わりだ」
ピーターは足を止めおもむろに振り返ると、紅の瞳をまっすぐノア王子へ向けた。
「強引に踏み込みます。あの伯爵について良い噂をきかない。早急に助け出さないと」
「仮に踏み込んだとしよう、もし三人を見つけだせなかったらどうする?屋敷に居るとは限らない。他の場所へ移されていたら?それに君の家は彼と同じ伯爵家だが、彼の父上は重鎮貴族の一人だ。不利なのは君。一人で向かうのは得策ではない」
ピーターは拳を握りしめると、苛立った様子でクソッと地面を強く蹴った。
「ならどうすればいいんですか!」
難色を示すノア王子。
そこに別の侍女がやってきた。
「あの、お取込み中に申し訳ございません。リリー様がガブリエル伯爵のところへ行ったと聞こえたのですが……」
今にも泣きそうな表情でノア王子とピーターを交互に見つめる侍女。
その様に二人は顔を向けると、彼女はグッと涙を堪え、ゆっくり話し始めた。
「先日……ガブリエル伯爵が黒の教団に関係しているとの噂をお話ししたんです。……もしかしたらそれが原因かもしれません……根も葉もない噂だと何度も説明したのですが……」
ノア王子は目を見開くと、侍女に詰め寄った。
「黒の教団だって?だが彼は入街検査をクリアしているだろう」
「ですから本当にただの噂だと説明致しました。ですが……何か引っかかっている様子で……」
「はぁ……また女の勘というやつか。黒の教団か……。リリーが調べようとするなら、何かしらあるのかもしれない。噂について詳しく聞かせてくれ。内容によっては伯爵宅へ踏み込む手段になるかもしれない」
ノア王子はピーターとサム、そして侍女を連れて応接室へ向かうと、三人を助け出す算段を立てたのだった。
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