悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第三章

地図を片手に

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時は少し遡る。
私がガブリエルの屋敷へ向かって暫くした頃。
太陽はまだ真上に差しかかったばかり。
サムはもらった地図をギュッと握りしめると歩き始めた。
大通りへ出ようとすると、ガブリエル伯爵の腕章をつけた騎士の姿。
サムはすぐに裏路地へ戻ると、見つからないよう慎重に進んで行った。

何とか地図に書かれた場所へ到着した頃には、太陽は真上にあった。
日差しに目が眩む中、顔を上げるとそこは大きな宿舎だった。
門の前には騎士の姿。
サムは深く息を吸い込み近づいて行くと、声を掛ける。

「あの、すみません、ピーターさんを知りませんか?」

「ピーター?あー、あいつなら部屋じゃないか?ところで君は誰?」

騎士の恰好をした青年は屈み、サムの目線に合わせる。

「僕はサムと言います。えーと、リリーさんに言われて……」

「リリー?あーわかった。呼んできてやるよ」

騎士は宿舎の中へ入ると、サムは入り口で佇む。
ジリジリ熱する太陽に、額に汗が流れた。
汗を拭きとり暫くすると、青年が戻ってくる。

「悪い、部屋にいないようだ。訓練場にいるかもしれねぇが、道分かるか」

首を横へ振ると、青年は紙に訓練場迄の道筋を書き、サムへと手渡した。

「あっ、ありがとうございます!」

サムは訓練場迄の道を教えてもらうと、深く頭を下げ宿舎を後にした。

訓練場へやってくると、汗だくで剣を無心に振るうブラウンの髪の青年が一人。
ブンブンと木刀が風を切る音が響く。
サムは恐る恐る近づいてみると、独り言だろう声が聞こえてきた。

「てかなんだよ、俺を置いて二人で出かけるなんてさ……ブツブツ……」

木刀は何度も何度も同じ軌道を通る。
殺気を帯びた赤い瞳を見つめると、サムの脚が止まった。

「声ぐらいかけろよな……あぁもう、くそっ、集中出来ねぇ!」

青年は苛立った様子で木刀を投げると、サムはビクッと肩を跳ねさせる。
木刀が自分の前まで飛んでくると、サムの脚がガクガクと震えていた。
近づいてくる姿に何とか恐怖を落ち着かせると、サムはおもむろに顔を上げる。

「あっ、あの、ピーターさんですか……?」

「うん?あぁ、そうだが、お前は?」

「あの、リリーさんからこれをッッ」

サムはポケットから慌てて紙を取り出すと、両手で差し出した。
紙は汗で濡れている。
ピーターはすぐに紙を開くと、深い息を吐き出した。

「はぁ……まったくあいつ、ほんと何やってんだよ。夕刻までって……まぁいい、サム、宿舎へ行くぞ」

サムはコクリと頷くと、慌ててピーターの背中を追って行った。

宿舎へやってくると、サムはピーターの部屋へ案内される。
太陽はまだ傾き始めたばかり。
ピーターはクローゼットを開け着替えを取り出すと、訓練着を脱ぎフォーマルな服をチョイスした。
服を着替え、サムへ視線を向けると、ピーターはクローゼットの奥深くを漁り始める。

「これか……いや、少しでかいか。ならこれか」

ピーターは子供用だろう小さな服を取り出すと、サムを着替えさせた。
脱衣所から濡れたタオルを持ってい来ると、サムの体を拭き始める。

「リリーから何か聞いているか?」

サムは首を横へ振ると、俯き黙り込む。
そんな姿にピーターはクシャクシャと濡れたタオルで頭を拭くと笑ってみせた。

「気にすんな、俺がちゃんと守ってやるからな。よし、これでいいだろう。行くぞ」

「あっ、えっ、はい、えーと、どこにですか?」

「城だよ、さっさと来い」

サムは慌てた様子でピーターの背を追っていくと、城へと向かったのだった。

城へやってくると、サムはその広さと大きさに感嘆とした声を漏らす。

「すごい……綺麗……」

平民が城へ入る機会などそうそうない。
子供ならなおさらだ。
口を半開きのまま手入れされた庭園を眺めるサムの姿。
ピーターはそんなサムの姿に笑うと、少し遠回りしたのだった。

城の階段を上りやってきたのはノア王子の書斎。
トントンとノックをすると、中からノア王子の補佐官が顔を出した。

「ピーターか、どうしたんだ?」

「ノア王子に聞きたいことがありまして、おられますか?」

「悪いが今日は夕刻まで出かけられている。戻ったら連絡しよう」

ピーターは敬礼すると、サムを連れて宿舎へと戻ったのだった。
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