悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第三章

操り人形 (其の五)

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エドウィンは狼の姿になると、鎖を振り払い、ガブリエルへ牙を向ける。
やった、そのまま噛みつくのよ!

「なっ、んだ、これは!?リリー、僕を守れ」

驚きのあまり尻餅をついたガブリエルはそう叫んだ。

私は飛び掛かるエドウィンの前へ回り込むと、ガブリエルを守る。
もう、何なのこの体はッッ!
エドウィンは突然立ちふさがった私の姿に、首と尻尾で慌てて方向を変えると、壁を足で蹴り上げ着地した。

「エドウィン様は……人狼だったの……?」

トレイシーはボソッと呟くと、唖然としながら狼を見つめる。

「ガルルルルッッ」

ガブリエルは服を払いながら立ち上がると、階段の方へと後退る。
彼の動きに合わせるように、私も移動すると、エドウィンは飛び掛かる事を躊躇した。

「ふぅ、危ないところだった。まさか人狼が紛れ込んでいると驚きだね。リリー、僕が戻ってくるまでに、その獣を殺しておくんだ」

床に転がったナイフを拾い上げると、私はエドウィンへ向かって構える。
嘘でしょ……私がエドウィンを殺す……?
嫌、嫌、止まって、お願い!!!
差し込んだ光が消えて行くと、視界がまた黒く塗りつぶされていった。

★おまけ(エドウィン視点)★

主様が俺に向かって剣を構える。
階段を上って行くガブリエルの足音が遠ざかり扉がバタンと閉まった。
あいつを追いかけないと……。
主様を元に戻すんだ。

階段へ向かおうとするが、主様がすかさず前へ回り込む。
主様はスピードと技術重視の騎士。
襲い掛かる彼女の姿に、俺は床を蹴ると振り下ろされるナイフを避けた。
それを予測していたのだろう、避けた先で彼女と目が合う。
手にしていたナイフが着地地点に投げられると、俺は片足で高く飛び上がった。

彼女は壁に刺さったナイフをすぐに回収すると、追撃するように地面を蹴った。
早い、この姿で怪我をさせずに主様を止めることは難しい。
もう一度主様に触れて人型へ戻りたいが、戦闘モードの彼女に近づける気がしなかった。

仕方がない……。
俺は半人の姿に変わると、二足で立ち彼女を待ち構える。

「主様、しっかりして。俺は主様と戦いたくない、傷つけたくないんだ」

彼女へ叫んでみるが、攻撃の手は緩まない。
背後に回って動きを止めようとするが、その行動は察知され、ナイフが振り下ろされる。
尻尾にナイフがかすり、白い毛が宙を舞った。

「エドウィン様、私の鎖を外せますか?二人でならきっとリリー様を止められますわ!」

俺はトレイシーへ顔を向けると、頑丈な手枷が天井に吊り上げられている。
鍵はない……あの鋼鉄を噛み切れるか?
いや、無理だ。

俺は彼女の攻撃をかわしながら、武器になりそうな物を探す。
奥の部屋へ続く扉を蹴り飛ばし中へ入ると、ベッド脇に立てかけられた剣を見つけた。
柄には王の紋章、俺の剣と主様の剣。
俺はすぐにその剣を握ると、彼女のナイフを受け止める。
主様の剣を空いた手で広い腰へ刺すと、彼女の暗い瞳をじっと見つめた。

彼女の力は変わっていない。
グッと剣を押し込むと、彼女はジリジリと後退する。
そのまま彼女の体をベッドへ向かって弾き飛ばすと、俺は隣の部屋へ駆け込んだ。

ピーターに教えてもらった剣術。
一点に力を集中するんだ。
俺はトレイシーの手枷を見つめると、思いっきり剣を振りあげた。
力を入れる感覚、動きの正確さ。
全てを手枷に触れる一点に集中させる。

カキンッと鈍い音が響くが、手枷はまだ繋がったまま。
俺はもう一度剣を振り上げた刹那、トレイシーが叫んだ。

「エドウィン様、リリー様がッッ!」

真後ろに迫っているのは気配で気がついていた。
だけどトレイシーの言う通り、俺一人では主様を止められない。

「リリーさま、やめて!!!」

トレイシーが叫ぶのと同時に、短剣が投げられる。
ガチャンッと音が響いた刹那、シュンと風を切り裂く音と共に腕に鈍い痛みが走った。

主様は俺の腕に刺さったナイフを回収しようと飛び掛かる。
それに合わせて手枷が外れたトレイシーは後ろへ回ると、彼女を捕らえた。
暴れる彼女を必死に抑えるトレイシー。
見た目はこんなだが、男なら彼女の動きを止められるだろう。

「エドウィン様大丈夫ですか?」

「あぁ、ありがとう」

俺は腕に刺さったナイフを引き抜くと、血が流れ出す。
傷は浅い大丈夫、さっさとあの男を捕らえないと……。

「主様、俺が絶対に元に戻すから」

「えっ、ちょっと、リリーさまはこのままですの!?」

襲い掛かろうとする主様にはっきり宣言すると、トレイシーの言葉を無視し俺は階段を駆け上がって行った。
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