悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第三章

操り人形 (其の三)

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トレイシーをここから救いだすために出来ること……思いつく方法は一つしかない。
私がエドウィンへ触れ、彼を狼の姿へ変えさせる。
そうすれば手枷足枷の意味がなくなり、鎖から逃れられるだろう。
だけどどうやってあそこまで行けばいいのか……。

視界に映るエドウィンを見つめる中、ガブリエルは乱れた姿のトレイシーをマジマジと眺めている。
衣類からのぞかせる肌へ手を伸ばすと、高揚した表情を浮かべた。

「うーん、うむ……、スベスベだ。これこれでありなのかもしれない。男の娘か、悪くない。君は僕に新しい世界を教えてくれそうだ」

「ちょっ、なんなの?気持ち悪い!触らないで!」

トレイシーはガブリエルの手を振り払おうと、手枷を激しく揺らし悪態をつく。

「ダメだよ、女の子がそんな汚い言葉……いや、男だからいいのかな?……ぶつぶつぶつ」

ガブリエルは顎に手を当てながら、トレイシーの前を行ったり来たりしたかと思うと、何か閃いたのか……目を輝かせながら立ち止まった。

「そうだ、みんなで楽しもうじゃないか。どうせ君たちは後数時間の命。楽しんだ後で、リリーが君たちを殺す。いいね、いいよ、その後にリリーが自害するんだ。最高のシナリオ、最高の役者。だが舞台を成功させるには美しい衣装が必要だ。リリーこちらへ来なさい」

ガブリエルは興奮した様子で私の名を呼んだ。
ギラギラと瞳を輝かせるその姿は変態そのもの。
視界にも入れたくないが……私は彼へ顔を向けると、手招きされる方へと歩きだす。
奥の部屋に連れ込まれると、バタンッとドアが閉められた。

部屋にはベッドにクローゼットや戸棚、そして小さなキッチンに長テーブルとソファ。
ここが彼の部屋なのだろうか。
ガブリエルは私の体へ触れると、騎士の制服を脱がせていく。
下着姿にさせられると、ガブリエルはクローゼットから黒いドレスを一着取り出した。

「君にはこのドレスがよく似合いそうだ。さぁ、これに着替えよう」

彼から黒いドレスを受け取ると、私は言われるままに袖を通す。
ガブリエルはルンルン気分で化粧道具を取り出すと、私を椅子へ座らせ化粧を始めた。
夜会にでも出るような、念入りなメイクアップ。
真っ赤な紅を塗り終わると、仕上げと言わんばかりに赤いバラの髪飾りが飾られた。

鏡に映った姿は、小説に登場したリリーの姿と、とてもよく似ている。
彼女は黒を好んでいた。
いつも夜会には黒いドレスと、派手な花の髪飾り。
胸元が大きく開き、豊富な胸をこれでもかとアピール。
自慢の体を見せ付けるために、ボディーラインが浮かぶタイトなドレスには、深いスリットが入っていた。

悪役のリリーにならぬよう努力してきたはずが……どうしてこんなことに……。
鏡に映る己の姿に言葉を失う。
小説のストーリーからは逃げられないのだろうか……?

「あぁ、美しい、完璧だ!夜会に同行させられないのが非常に残念だよ。さぁ、僕のリリー、お手をどうぞ」

こんな男にエスコートなんてされたくない。
だが私は腕を絡ませると、寄り添うように体を預けた。

先ほどの部屋を戻ると、トレイシーは私の姿に目を見開いた。
リリーになって十年近くだが、ドレスなど着たことがない。
こんな最低最悪な場所でドレスを着ることになるなんて……。

「リリー……さまですの?」

「あぁ、そうだ。美しいだろう~。僕は昔から美しい物が大好きでね。人形を着せ替え化粧をし、僕の思いのままに動かすのが好きだったんだ。だが現実の女性は人形のようにはいかなかったけれど……、まぁそれは置いといてだね」

連れられるままトレイシーの前へやってくると、ガブリエルはパチンッと指を鳴らした。

「さぁ、ショーの始まりだ」

ガブリエルはニッコリ笑みを浮かべ、私の耳元へ顔を近づけると小さな声で囁いた。

「リリー、彼を気持ちよくしてあげてくれ」

とんでもない指示に一瞬頭が真っ白になった。
気持ちよくって……嘘でしょうッッ。
ちょっ、何言ってるのこいつッッ!?
正気じゃない、ちょっとやめて、私の体止まって!!!
トレイシーへ手を伸ばす私の姿が、エメラルドの瞳にはっきりと映る。
やめて!と何度も叫ぶが、その声は届かなかった。
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