悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第三章

操り人形 (其の二)

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暫くすると、トレイシーは小さなうめき声を上げながら目覚めた。

「うぅ……ッッ、ここは……どうなっているの……。リリー様!」

私の姿を認識すると、彼は鎖をジャラジャラと揺らし、ピクリとも動かない私の姿を見つめる。
鎖の音を聞きつけたのだろうか……ガブリエルが奥の部屋からやってきた。

手にはティーカップ。
きっと私に飲ませたお茶が入っているのだろう。

「やぁやぁ、お目覚めのようだね。可愛いお姫様」

「あなたは……何なの?これはどういうことなの!リリー様これは……どうなさったのですか……?」

トレイシーひどく取り乱し、泣きそうな瞳を私へ向ける。
ごめん、トレイシー……本当にごめんなさい……。
この物語を知っているという驕りが招いた私のミス。
思い付きのずさんな計画。
己の浅はかさを後悔するが……今更遅い。

ガブリエルは軽い足取りで私の隣へやってくると、体を寄せ耳元でささやいた。
その言葉に体が動き始めると、私は地面に落ちているナイフを拾い上げる。
切先にはキャサリンの血がこびりついたまま。

「あぁ、美しい、本当に美しい。僕の理想だ。さぁさぁ、このお茶を飲んで」

ガブリエルはトレイシーの言葉を無視し、ティーカップを口元へ近づける。
トレイシーは私と同じように、強烈な臭いに顔を背けると、怒りの瞳を浮かべた。

「何なのよ、これ!飲むわけないでしょう!気持ち悪い、近づかないで!リリー様、リリー様しっかりしてください!……ッッ」

トレイシーは血の付いたナイフを見ると、顔から血の気がなくなっていく。

「気持ち悪いか……悲しいね。早くこのお茶を飲まさないと……。残念だけど、君の声はリリーに届かないよ。彼女はね、僕の人形になったんだ。君もすぐ人形にしてあげるから」

「何を言っているの?リリー様に何をしたの!人形ですって?どういうことなのよ!」

悲痛な声で叫ぶトレイシー。
ガブリエルはまた耳元で囁くと、私はナイフを首元へ突き立てた。

「ちょっと、何しているの!?リリー様、リリーさま、やめて!」

首に切っ先が当たり、血が首筋を流れていくが、痛みも血の温もりも何も感じない。

「君がこのお茶を飲んでくれたら止めてあげるよ」

ガブリエルはニッコリ微笑むと、トレイシーへカップを近づける。

「飲むわ、飲むからやめさせて!……ッッ、こんなこと許されないわよ!」

私と同じように憎しみの籠った瞳を浮かべるトレイシー。
私のことはいいから、お茶を飲まないでと叫ぶが……伝える方法はない。
トレイシーは鋭い瞳でガブリエルを睨み付けると、ティーカップへ口を近づけ一気に飲み干した。
ダメッッ、トレイシーまで……私のせいで……ッッ。

ゴクンッと喉が鳴り、ガブリエルはそっとトレイシーへ近づくと口を開く。

「君の主は僕だ。僕の命令には絶対服従。可愛い可愛いトレイシー」

あぁ……トレイシーが……。
目の前が暗闇に染まっていく。
どうすることも出来ぬまま、緑の瞳をじっと見つめていると、一瞬瞳が暗い色に変化したが、すぐに鮮やかな瞳へ戻った。

「はぁ!?何を言っているの。命令に絶対服従、ありえないわね!」

トレイシーの放った言葉に、ガブリエルは目を見開くとフリーズした。

「……どういうことだ……失敗……そんなわけ……いやいや、なぜ……?まさか……ッッ」

ガブリエルは焦った様子で私からナイフを取り上げると、トレイシーへ向かって振り下ろした。

メイド服が裂かれ、肌があらわになる。
ガブリエルは服を左右にめくると、真っ平らな胸板を見て唖然とした。

「まさか、そんな……こんなに美しく可憐なのに男なのかい……?」

トレイシーはキッとガブリエルを睨み付けると、ニヤリと口角を上げた。

「えぇ、そう、残念ね、私は男よ」

悄然とする彼を挑発的に嘲笑うトレイシーの姿にひやひやする。
トレイシー刺激しちゃだめ。
彼は本物の変態なのよッッ。

「男……なんてことだ……。このお茶は男に効果はない。いや、だが、……こんなにも美しいのに……ブツブツブ」

男には効果がない。
良かった、それならトレイシーは操られない。
だけど……男だとバレてしまって大丈夫なのかな……?
いやいやいや、今はそんなことより、ここから脱却する方法を考えないと……。
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