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第三章
傀儡の香り (其の二)
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彼女はコクリと頷くと、トコトコと部屋の奥へ向かい、ティーカップを手に戻ってくる。
小さな腕を上げ彼へ差し出すと、お香のような匂いが鼻孔を擽った。
この香り……人狼の村で嗅いだ物とよく似ている。
「その香り……」
「良い香りだろう。僕の事を理解し僕の為にとあの御方がブレンドしてくれた特別なお茶なんだ。まだ試作中なんだけれどね。せっかく足がつかないよう、孤児の可愛い少女を連れてきて試していたのに……。まぁ今のところは問題ないようだしきっと大丈夫だろう。夢にまで見た僕の操り人形、きっと素晴らしいだろうなぁ」
ガブリエルは心酔した様子で目を輝かせると、カップを高々と持ち上げた。
操り人形……狂っている。
こんなお茶を作り出したのは……まさか……。
「……黒の教団……?」
ボソッと呟くと、彼は目を丸くしながら、こちらへ顔を向けた。
「凄いね、そこまで調べていたのかい。誰かに話されていたら危なかった。どうやって情報を仕入れたのか知らないが、君の言う通り、僕は黒の教団の一員だ」
彼はシャツのボタンを上から二つ外すと、おもむろに胸元を開く。
そこには黒薔薇とクロスのタトゥーがはっきりと浮かび上がっていた。
「嘘でしょう……一体どうやって街へ入ったの?入街審査が厳しくなっているはずよ」
彼はまたニコニコと薄気味悪い笑みを浮かべると、どこから缶を取り出した。
その中へ手を入れ持ち上げると、肌の色と同じパウダーが流れ落ちる。
「これを塗れば、タトゥーを簡単に隠せるんだ。これも教祖様から提供してもらったものだ。素晴らしいだろう。教祖様は豊富な知識と知恵、そして特別な能力があってね、世界の全てを知り尽くしているんだ。君もどうだい?」
彼は見せつけるようにパウダーを肌へ塗り込むと、タトゥーが跡形もなく消えていった。
冗談でしょ?
なんなのこの男……。
貴族ならノア王子の事件を知らないはずがない。
なのに教団の一員になるなんて……正気じゃない。
「最低ね、あの連中が何をしたか知らないわけじゃないでしょう!この国の貴族として恥を知りなさい」
憎悪のこもった瞳で睨みつけると、お茶を持っていない彼の手が私の首を掴んだ。
頸動脈を圧迫され、呼吸が出来ない。
息が……ッッ、苦しい……。
「口の利き方には気を付けるんだ。君に何が分かる。僕はずっと苦しんできたんだ。自分の中から込み上げる欲望。押さえようとしても、すぐに溢れ出してしまいそうになる。だがあの御方は解放していいとおっしゃってくれた。だがありのままの僕を受け入れてくれる女性はいない。だから人形が必要だったんだ。君のように蔑まず婿ともなく、逃げ出そうともしない、僕につき従う随順な存在がね」
ガブリエルはニッコリ笑みを深めると、パッと首から手を離した。
「……ッッ、うぅッッ、ガハッ、くぅ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ッッ」
ガランッ、ガチャン、ガンガンッ
エドウィンが捕らえられている方向から鎖の音が響く。
「おやおや、彼はよっぽど君の事が大切なようだね。プラチナの美しい髪に、鮮やかな金色の瞳。男でなければ、彼にもこのお茶を飲ませたんだけれどね。だけど君が君でなくなった姿をみたら、彼はどんな反応をするんだろうねぇ。想像するだけでゾクゾクするよ。ふふふふふ」
気味の悪い笑い声が部屋に響き渡った。
私は呼吸を整え顔を上げると、ガブリエルを睨みつけた。
「そうそう、君が君でなくなるまえに、面白い事を教えてあげよう。僕はね、教祖様からある使命を担っているんだ。それはね、お城に居る侍女のトレイシーを捕まえて殺すことだ。だが城からあまり出でこない彼女をどうやって連れ出そうかとずっと考えていた。だけど君が居れば全てが解決するね。ねぇリリー、君は彼女ととっても仲が良いんだろう?」
ガブリエルはニヤリと口角を上げると、見せつけるようにカップを掲げる。
捕まえて殺せ……どうしてトレイシーを……?
とんでもない告白に、小説のストーリーが頭を過った。
黒の教団がトレイシーを狙うなんて……どうなってるの?
「ダメよ、絶対にさせないわ」
「させないね、ははっ、抗うことなど不可能。教祖様が彼女はこの世界の災いの元だとおっしゃっている。だから排除しなければいけないそうだ……非常に残念だよ。彼女は僕の好みドンピシャ。美しい顔立ちに、鮮やかな瞳、そして透き通るブロンドヘアー。唯一の理解者である教祖様はこんな僕のために、トレイシーを好きにしていいとおっしゃってくれた。だから彼女をここへ連れてきて可愛がってから、殺してあげようと思ってね」
ゲスな想像をしているのか、息が荒くなるガブリエルの姿が気持ち悪い。
だけどこの展開、小説と同じ……。
悪役のリリーは彼女を傷つけ殺すつもりだった。
それに代わる存在は……黒の教団なの……?
小さな腕を上げ彼へ差し出すと、お香のような匂いが鼻孔を擽った。
この香り……人狼の村で嗅いだ物とよく似ている。
「その香り……」
「良い香りだろう。僕の事を理解し僕の為にとあの御方がブレンドしてくれた特別なお茶なんだ。まだ試作中なんだけれどね。せっかく足がつかないよう、孤児の可愛い少女を連れてきて試していたのに……。まぁ今のところは問題ないようだしきっと大丈夫だろう。夢にまで見た僕の操り人形、きっと素晴らしいだろうなぁ」
ガブリエルは心酔した様子で目を輝かせると、カップを高々と持ち上げた。
操り人形……狂っている。
こんなお茶を作り出したのは……まさか……。
「……黒の教団……?」
ボソッと呟くと、彼は目を丸くしながら、こちらへ顔を向けた。
「凄いね、そこまで調べていたのかい。誰かに話されていたら危なかった。どうやって情報を仕入れたのか知らないが、君の言う通り、僕は黒の教団の一員だ」
彼はシャツのボタンを上から二つ外すと、おもむろに胸元を開く。
そこには黒薔薇とクロスのタトゥーがはっきりと浮かび上がっていた。
「嘘でしょう……一体どうやって街へ入ったの?入街審査が厳しくなっているはずよ」
彼はまたニコニコと薄気味悪い笑みを浮かべると、どこから缶を取り出した。
その中へ手を入れ持ち上げると、肌の色と同じパウダーが流れ落ちる。
「これを塗れば、タトゥーを簡単に隠せるんだ。これも教祖様から提供してもらったものだ。素晴らしいだろう。教祖様は豊富な知識と知恵、そして特別な能力があってね、世界の全てを知り尽くしているんだ。君もどうだい?」
彼は見せつけるようにパウダーを肌へ塗り込むと、タトゥーが跡形もなく消えていった。
冗談でしょ?
なんなのこの男……。
貴族ならノア王子の事件を知らないはずがない。
なのに教団の一員になるなんて……正気じゃない。
「最低ね、あの連中が何をしたか知らないわけじゃないでしょう!この国の貴族として恥を知りなさい」
憎悪のこもった瞳で睨みつけると、お茶を持っていない彼の手が私の首を掴んだ。
頸動脈を圧迫され、呼吸が出来ない。
息が……ッッ、苦しい……。
「口の利き方には気を付けるんだ。君に何が分かる。僕はずっと苦しんできたんだ。自分の中から込み上げる欲望。押さえようとしても、すぐに溢れ出してしまいそうになる。だがあの御方は解放していいとおっしゃってくれた。だがありのままの僕を受け入れてくれる女性はいない。だから人形が必要だったんだ。君のように蔑まず婿ともなく、逃げ出そうともしない、僕につき従う随順な存在がね」
ガブリエルはニッコリ笑みを深めると、パッと首から手を離した。
「……ッッ、うぅッッ、ガハッ、くぅ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ッッ」
ガランッ、ガチャン、ガンガンッ
エドウィンが捕らえられている方向から鎖の音が響く。
「おやおや、彼はよっぽど君の事が大切なようだね。プラチナの美しい髪に、鮮やかな金色の瞳。男でなければ、彼にもこのお茶を飲ませたんだけれどね。だけど君が君でなくなった姿をみたら、彼はどんな反応をするんだろうねぇ。想像するだけでゾクゾクするよ。ふふふふふ」
気味の悪い笑い声が部屋に響き渡った。
私は呼吸を整え顔を上げると、ガブリエルを睨みつけた。
「そうそう、君が君でなくなるまえに、面白い事を教えてあげよう。僕はね、教祖様からある使命を担っているんだ。それはね、お城に居る侍女のトレイシーを捕まえて殺すことだ。だが城からあまり出でこない彼女をどうやって連れ出そうかとずっと考えていた。だけど君が居れば全てが解決するね。ねぇリリー、君は彼女ととっても仲が良いんだろう?」
ガブリエルはニヤリと口角を上げると、見せつけるようにカップを掲げる。
捕まえて殺せ……どうしてトレイシーを……?
とんでもない告白に、小説のストーリーが頭を過った。
黒の教団がトレイシーを狙うなんて……どうなってるの?
「ダメよ、絶対にさせないわ」
「させないね、ははっ、抗うことなど不可能。教祖様が彼女はこの世界の災いの元だとおっしゃっている。だから排除しなければいけないそうだ……非常に残念だよ。彼女は僕の好みドンピシャ。美しい顔立ちに、鮮やかな瞳、そして透き通るブロンドヘアー。唯一の理解者である教祖様はこんな僕のために、トレイシーを好きにしていいとおっしゃってくれた。だから彼女をここへ連れてきて可愛がってから、殺してあげようと思ってね」
ゲスな想像をしているのか、息が荒くなるガブリエルの姿が気持ち悪い。
だけどこの展開、小説と同じ……。
悪役のリリーは彼女を傷つけ殺すつもりだった。
それに代わる存在は……黒の教団なの……?
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