悪役令嬢はお断りです

あみにあ

文字の大きさ
上 下
63 / 135
第三章

疑惑の調査 (其の三)

しおりを挟む
サムと分かれ私たちは貴族街へと向かう。
ガブリエル伯爵がロリコンだったかは定かではないが、女性に対して強い執着があった気がする。
中でもブロンドヘアーで、鮮やかな瞳をした女性を好んでいた。
だからトレイシーが彼の好みに合致し、誘拐されたのだ。

兎にも角にも早く何とかしないと……このままだとあの変態が幼気な少女に何をするか……。
だけどどうしようかな。
靴だけでは証拠として弱い。
一番いいのは自白だけれど、素直に聞いて教えてくれるはずなんてないだろうし。
黒の教団との繋がりを暴けば、すぐに城へ報告できるのだけれども……。
入街審査が通ってしまっている現状、そう簡単に見つからないだろう。

時間はないし、危険だけれど……現場を押さえるのが一番固い。
小説にも出てきた地下室を見つけられれば、騎士団が介入し調べるネタにはなるはず。
トレイシーが誘拐されたときに監禁されていたあの部屋。
だけどそのためには屋敷の中へ入らないと……。

「それで主様、どうするつもりなの?」

エドウィンの言葉に顔を向けると、貴族街の真ん中で立ち止まる。

「とりあえず証拠とか手がかりを見つけないと話にならない。そのためには屋敷にある地下室を見つけるのが早いと思うんだけれど……」

「地下室?地下室があるの?」

しまった……これは小説の内容だった。

「あー、えーと、誘拐したのなら少女を隠す部屋が必要でしょ。たぶんそれが地下室だと思っただけ」

誤魔化す様に笑って見せると、エドウィンは腕を胸の前で組むと考え込んだ。

「ふーん、仮にそうだとして、屋敷に侵入するの?」

そこだよね。
貴族の屋敷に忍び込むのは難しい。
見張りも多いし、防犯対策もしっかりされている。
屋敷の中も広いし、もし運よく侵入できても探し出すまでの間に捕まってしまうだろう。
だけれども時間をかけて調査する暇はない……。
となれば地下室の入り口の手がかりになる情報を、思い出すしか方法はないだろう。

地下室へ続く通路。
どうだったかな……えーと、確かノア王子がトレイシーを救出する詳細に書かれていたはず。
屋敷に突入して……そうだ、キッチン。
調理場に入って奥の部屋、そこに扉が……。
その場所で扉を見つけて現場を確認すれば、調べるネタになる。

だけど貴族の屋敷に無断で侵入するのはリスクが高すぎる。
私達は剣の技術は学んだが、隠密系の授業はまだ学び始めたばかり。
知識も実践経験もない私たちが成功するとは思えない。
となれば理由をつけて正面から行くしかないよね。

「侵入はしない、正面から行こう。っとその前に……」

私は貴族街にある雑貨店へ入ると、高そうなブローチを一つ購入した。
伯爵からすれば安い物だろうけれど、口実にはこれで十分かな。
私はそのブローチを胸ポケットに入れると、エドウィンを連れガブリエルの屋敷へ向かったのだった。

「エドウィン、何も話さず立っていてくれるだけでいい。後は私がするから」

「むむむ……わかった。だけど何かするのならその前に合図だけして。目を見て頷いてくれたらいい」

「わかった、じゃぁ行こうか」

ガブリエルの屋敷へやってくると、門番に話を通し、エドウィンと共に中へ入る。
エントラスへ入った刹那、脳に映像が浮かび上がった。
ノア王子が騎士を連れて右の廊下を進み、奥へと消え去って行く映像。
私は残像を追うように顔を向けると、執事が左の廊下へ進んで行く。
その姿に私は左の廊下を進むと、応接室へと案内された。

さっきの映像で、この屋敷の内装をはっきり思い出した。
キッチンへ続く廊下の途中に手洗い場がある、これを利用しよう。
色々と計画を模索しながら暫く待っていると、ガブリエル伯爵がやってきた。

「ようこそ、リリー殿。お話とは何かな?」

彼は向かいのソファーへ腰かけると、護衛たちは下がり壁際へと移動する。
エドウィンもそれに倣うように私の後ろへ立つと、メイドが紅茶を運んできた。

「お忙しいところすみません。先ほど捕らえた少年についてなのですが……」

私は胸ポケットから、先ほどかったブローチを取り出すと机へ並べる。

「これは……女性もののブローチだね?どうしたのかな?」

「少年が持っていた物なのです。もしかしたらガブリエル伯爵殿に関係する持ち物かと思いまして」

ガブリエルは興味深げにブローチを手に取ると、すぐに眉を寄せた。

「いや、これは僕のではないよ。こんな安っぽいブローチを僕が買うわけないだろう」

「もちろん、それは重々承知しております。ですので……あの時連れられていた護衛の方のではと……。安いとおっしゃっても、平民には到底購入出来ない金額でしょうし、どなたかへの贈り物であれば困っていると思いまして」

ガブリエルは騎士の一人を呼び寄せると、ブローチを手渡した。

「ふむ、それもそうだね、確認してみよう。少し時間をもらえるかな?ここでお茶でも楽しんでいてくれ」

ガブリエルは立ち上がると、騎士と共に扉へ向かう。
メイドが新しいお茶を注ごうとする姿に立ち上がると、彼を引き留めた。

「あのすみません、お手洗いをお借りしたいのですが……」

「メイドに案内させよう」

メイドは手にしていたポットを置くと、こちらですと歩き始めた。
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

借金のカタとして売り飛ばされそうな貧乏令嬢です。結婚相手が誰になるのか天使様に尋ねてみたら、天使様もとい小悪魔と結婚することになりました。

石河 翠
恋愛
祖父の死後、借金の返済に追われるようになった主人公。借金のカタに売り飛ばされそうになった彼女は、覚悟を決めるためにある呪いに手を出す。その呪いを使えば、未来の結婚相手がわかるというのだ。 ところが呼び出したはずの「天使さま」は、結婚相手を教えてくれるどころか、借金返済のアドバイスをしてきて……。借金を返済するうちに、「天使さま」に心ひかれていく主人公。 けれど、「天使さま」がそばにいてくれるのは、借金を返済し終わるまで。しかも借金返済の見込みがたったせいで、かつての婚約者から再度結婚の申し込みがきて……。 がんばり屋で夢みがちな少女と、天使のように綺麗だけれど一部では悪魔と呼ばれている男の恋物語。 この作品は、アルファポリス、エブリスタにも投稿しております。 扉絵は、exaさまに描いていただきました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

処理中です...