悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第三章

噂話

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色々とあった祝賀祭。
考える事が山ほど増えた。
一つ目は小説のストーリーとは大きく外れてきている事実。
トレイシーが男で、ノア王子を愛していない。
ノア王子も同じ……これだと恋愛小説として成り立っていない。
これは記憶のある私が色々と行動してしまったからだろうか……。

それともう一つ。
トレイシーが私を好きだという事実。
予想もしてないかった突然の告白に、どう返事をしていいのかわからない。
あの日からトレイシーと会うのが気まずく、避け続けている。

部屋に来ても居留守を使い、彼女を見かければ隠れてしまう。
事情を知らないピーターやエドウィンに詮索されたが、笑って誤魔化し乗り切っている。
お城でバッタリ会ってしまったら回れ右で逃げ出して、あの日からトレイシーと真面に話していない。
何とも情けないが……どうすればいいのかわからない。

だってトレイシーは小説のヒロインで、私は彼の敵だった。
ノア王子と結ばれるんだってそう信じていたし。
だけどここは現実で、あぁもう、上手く考えがまとまらない。
どんな顔をして会えばいいのかわからない。

今日も私はお城の業務を終えると、寄り道せず真っすぐ宿舎へ帰ってきた。
城に居る時間が長ければ長いほど、トレイシーに会ってしまうリスクが増えるから。
だけどこうして一人の時間が増え、改めて考える時間は出来た。
今まで学園生活、ノア王子の護衛、騎士の雑用で忙しかったし……。

私は改めて自室の机に向かうと、ノートを広げる。
昔に、ここが小説の世界だと気が付いた時にメモしていたノート。
最初のページ以外何も書かれていない。
私はペラッとページを捲ると、ペンを走らせていく。
確か本では、ノア王子とトレイシーの心が通じ合い、今時期からリリーの嫌がらせが始まるのだ。
そういえば嫌がらせ中で大きな事件があった気がする。

確かあれは……トレイシーが変態貴族に監禁される話だった。
変態貴族はリリー下部。
どうやって変態だと知ったのかはわからないけれど、二人は親密な中だった。
私も令嬢として過ごしていれば、どこかのタイミングで知ったのかもしれない。
想像するだけで気持ち悪い……。

っと今はそんなことよりも……。
日ごろ一人でお城の外へ出ない彼女が、何かの理由で街へやってきたところを狙われる。
そのまま地下室で監禁されて……そこに間一髪で助けにくるのがノア王子。
挿絵もついていて恰好よかったんだよね。
まぁ……監禁事件の首謀者は悪役のリリーなんだけど……。
変態貴族の情報を仕入れたリリーが、間接的にトレイシーの事をその貴族に教え、そうなるようそそのかしたのだ。

もちろん今の私は、そんな依頼をする理由もないしやっていない。
だけどストーリーが変わってきている今、この事件はどうなるんだろう。
そういえばその変態貴族の名前は……あれ、何だっけ……。
ノートにペンで叩きながら必死に思い出そうとするが、結局思い出すことは出来なかった。

翌日、もやもやしながら回廊を進んでいると、ふとメイド達の話し声が耳にとどいた。

「ねぇ知っている?隣国で王族が殺された話」

「嘘っ!?誰に?」

「なんでも黒の教団という怪しい連中らしいわ」

「聞いたことがあるわ、確かオカルト系よね?未来を予知したとかそんな」

「えぇ、実際には見た事ないんだけれど、親戚が隣国に住んでいて……。それでね、何でもガブリエル伯爵と似た方が黒の教団におられたらしいのよ」

黒の教団……ガブリエル伯爵、そうだ、ガブリエル!
トレイシーを監禁した変態貴族。
彼が黒の教団と関係あるってこと?
これは只の偶然……それとも……。

現状トレイシーの傍で守ってあげることは出来ない。
なら様子見で見に行ったほうが、いいかもしれない。

「えぇ、嘘でしょう?あのガブリエル伯爵様がそれって大問題じゃない。隣国でそんな事件があった連中と関わっているなんて知れたら……」

「大きな声出さないで。はっきり姿を見てないのよ、ただ似ていただけ。それに黒の教団の関係者を排除するために、入街審査も厳しくなっているから、たぶん違うと思うんだけれど……」

私はコッソリメイド達の後ろへ回り込むと、トントンと軽く肩を叩いた。
ビクッと大きく肩を跳ねさせたメイドの腕を握ると、ニッコリと笑みを浮かべる。

「ねぇ、その話し詳しく教えてくれる?」

「へぇっ!?リリー様!?あの、今のは違いますわ。その根も葉もない噂で……お聞かせするお話では……」

「わかってる、それでもいい。誰も言わないから少しだけ教えて……ね」

メイド二人は顔を見合わせながらも、はいっと小さく返事を返すと詳しい詳細を教えてくれたのだった。

メイド達の話を信憑性を確認するため、個人的にガブリエル伯爵について調べてみた。
彼は先週から一週間ほど隣国へ出街していて、メイドの証言と一致する。
そんな彼は昨日、王都へ戻ってきたようだ。
入街の際、黒の教団についての調査をされたが、それらしい物は出てこなかった。
だけど火のない所に煙は立たぬ、もう少し調べてみる必要はあるだろう。

メイドから話を聞いた数日後、運よく騎士の休日日がやってきた。
仕事や学園へ行きながらだと調べられることは限られる。
この機会に詳しく調査してみよう。
リリーである私が依頼することはありえないが、正直トレイシーはメイドたちだけではなく、令嬢たちにも評判が悪い。
私が依頼していなくても別の誰かがもしかしたら……。

★おまけ(ノア王子)★

トレイシーが彼女に告白した。
告白できる状況でも立場でもない彼が。
これからどうするつもりなんだと、トレイシーを探していると、中庭でリリーの姿を見つけた。
手には書類の束、書庫へ運んでいる途中だろうか?
そんな様子をじっと眺めていると、彼女は何かを見つけたのか、大きく肩を跳ねさせると、一目散に逃げ去って行く。

何を見つけたのかと視線を向けてみると、そこにいたのはトレイシー。
ひどく悲し気で、落ち込んでいる様子だ。
あまりにあからさまな避け方に、当事者ではない自分の胸がズキンッと痛む。

彼女は僕のこともそういったふうには見ていない。
それは話していてわかるんだ。
再来週に開かれる僕の誕生祭で、気持ちを彼女に伝えようと思っていた。
トレイシーに奪われる前に、動かないと、そう思っていた。
だけどあんなふうに避けられるのは……さすがに堪えるね。
僕は深いため息を吐くと、今にも泣きそうなトレイシーから視線を逸らせたのだった。
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