57 / 135
第三章
騎士達の祝賀会 (其の二)
しおりを挟む
濡れた服とさらしを脱ぎ捨て、下着一枚。
本来なら寒いはずだが、アルコールのせいかまだ暑い。
布団を跳ねのけ体を丸めると、ひんやりとしたシーツを感じた。
気持ちいい……。
しかしそれは一瞬だけ。
すぐに熱を吸収すると、私は冷たさを求めるように手を伸ばした。
指先に触れたトレイシーの手が冷たく、ギュッと握ると体を引き寄せる。
「トレイシーの手、冷たくて気持ちいい」
彼女の手に火照った頬を摺り寄せると、心地よさに目を閉じた。
「……ッッ、リリー様ッッ、私を試して……ゴホンッ、いえ……何でもありません。お水を入れなおしてきますわ」
トレイシーはなぜか逃げるように手を引くと、こちらを見ることなく立ち上がる。
ベッド近くのテーブルに用意されていた水差しを手に取り傾けると、無言のままグラスに注いでいった。
いつもと違うその様に、私は揺れる視界に抗いながらおもむろに体を起こすと、トレイシーの腕を掴む。
「ごめん、トレイシー怒らないで……」
「怒ってませんわ。リリー様、離してください」
彼女は焦った様子で手を振り払う。
しまったとの表情を見せるが、すぐに目をそらせると唇を噛んだ。
そんな彼女の様子に、私はジンジンと痛む手を見つめると、涙腺が緩む。
「うぅ……トレイシーに嫌われたくない……」
「違います、違いますわ、嫌うはずありません!……あぁもう知りませんわよ」
怒ったその声にシュンっと頭を垂れ項垂れていると、彼女は私の肩を強く押した。
私はベッドへ倒れ込むと、彼女はグラスを持ち注いだばかりの水を口へ含む。
そのまま私へ馬乗りになり顔を近づけると、彼女の唇が触れ、口の中に冷えた水が流れ込んだ。
「んんん……ッッうぅぅん、……ふぅ、んんんんん」
溢れた水が口角から流れ出すと、水は頬を伝わりシーツへ落ちる。
何が起こったのか理解できない。
ただわかるのは、冷たい水が渇いた喉を潤していく感覚。
戸惑いながらもゴクリと喉を鳴らすと、ゆっくりと唇が離れ、真上にエメラルドの瞳が映り込んだ。
「リリー様、私があなたを嫌うはずありませんわ。寧ろ好きだからこそ困っているのです。私を試しておられるのですか?挑発してらっしゃるのですか?そんな潤んだ瞳を浮かべて、無防備な姿で甘えられて……さすがに我慢の限界ですわ」
真っ直ぐなその瞳から目をそらせない。
彼女はグラスを棚へ置くと、ブロンドの長い髪を持ち上げ外した。
すると中から同じブロンドのショートカットヘアーが現れる。
驚き目を見開いていると、彼女は私の手首をベッドへ縫い付けた。
いつもと違うトレイシーの姿に戸惑う。
混乱し逃げようと腕に力を入れてみるが、押さえつけられた手を振りほどけなかった。
「リリー様、私は男ですわ。こんな姿をしておりますが……男なのです。わかっておられますか?」
「えっ、あっ、うん、わかってるよ……?」
何とか言葉を紡ぐと、トレイシーは不満げな表情を浮かべる。
なぜそんな顔をするのかわからなかった。
ゆっくりと迫るトレイシー。
整った顔立ちで、まつ毛が長く、女性らしさもあるが、ショートカットになったことで男性に見えた。
中世的な顔立ちは美しく綺麗で、こうしてみると肩幅も広い。
触れる手は角ばっていて、想像以上に大きく強い力。
あれ……どうしてこんなことになっているんだろう?
「わかっていませんわ。私はリリー様に触れられると、どうしようもない感情が湧き上がるのです。その潤んだ瞳を私だけのものにしたい、そんな欲望が……」
欲望……?私に?どうして?
こんな場面、つい先日にもあった……。
ノア王子が気を付けろと忠告してくれたあの時。
だけど彼女は……男だけどノア王子の恋人で……。
目の前に居るのは物語のヒロインで親友のトレイシー。
なのになんで?
うぅ……頭が痛くなってきた……。
酔っていて考えがうまくまとまらない。
どうすればいいのか狼狽していると、彼女の吐息が唇にかかった。
本来なら寒いはずだが、アルコールのせいかまだ暑い。
布団を跳ねのけ体を丸めると、ひんやりとしたシーツを感じた。
気持ちいい……。
しかしそれは一瞬だけ。
すぐに熱を吸収すると、私は冷たさを求めるように手を伸ばした。
指先に触れたトレイシーの手が冷たく、ギュッと握ると体を引き寄せる。
「トレイシーの手、冷たくて気持ちいい」
彼女の手に火照った頬を摺り寄せると、心地よさに目を閉じた。
「……ッッ、リリー様ッッ、私を試して……ゴホンッ、いえ……何でもありません。お水を入れなおしてきますわ」
トレイシーはなぜか逃げるように手を引くと、こちらを見ることなく立ち上がる。
ベッド近くのテーブルに用意されていた水差しを手に取り傾けると、無言のままグラスに注いでいった。
いつもと違うその様に、私は揺れる視界に抗いながらおもむろに体を起こすと、トレイシーの腕を掴む。
「ごめん、トレイシー怒らないで……」
「怒ってませんわ。リリー様、離してください」
彼女は焦った様子で手を振り払う。
しまったとの表情を見せるが、すぐに目をそらせると唇を噛んだ。
そんな彼女の様子に、私はジンジンと痛む手を見つめると、涙腺が緩む。
「うぅ……トレイシーに嫌われたくない……」
「違います、違いますわ、嫌うはずありません!……あぁもう知りませんわよ」
怒ったその声にシュンっと頭を垂れ項垂れていると、彼女は私の肩を強く押した。
私はベッドへ倒れ込むと、彼女はグラスを持ち注いだばかりの水を口へ含む。
そのまま私へ馬乗りになり顔を近づけると、彼女の唇が触れ、口の中に冷えた水が流れ込んだ。
「んんん……ッッうぅぅん、……ふぅ、んんんんん」
溢れた水が口角から流れ出すと、水は頬を伝わりシーツへ落ちる。
何が起こったのか理解できない。
ただわかるのは、冷たい水が渇いた喉を潤していく感覚。
戸惑いながらもゴクリと喉を鳴らすと、ゆっくりと唇が離れ、真上にエメラルドの瞳が映り込んだ。
「リリー様、私があなたを嫌うはずありませんわ。寧ろ好きだからこそ困っているのです。私を試しておられるのですか?挑発してらっしゃるのですか?そんな潤んだ瞳を浮かべて、無防備な姿で甘えられて……さすがに我慢の限界ですわ」
真っ直ぐなその瞳から目をそらせない。
彼女はグラスを棚へ置くと、ブロンドの長い髪を持ち上げ外した。
すると中から同じブロンドのショートカットヘアーが現れる。
驚き目を見開いていると、彼女は私の手首をベッドへ縫い付けた。
いつもと違うトレイシーの姿に戸惑う。
混乱し逃げようと腕に力を入れてみるが、押さえつけられた手を振りほどけなかった。
「リリー様、私は男ですわ。こんな姿をしておりますが……男なのです。わかっておられますか?」
「えっ、あっ、うん、わかってるよ……?」
何とか言葉を紡ぐと、トレイシーは不満げな表情を浮かべる。
なぜそんな顔をするのかわからなかった。
ゆっくりと迫るトレイシー。
整った顔立ちで、まつ毛が長く、女性らしさもあるが、ショートカットになったことで男性に見えた。
中世的な顔立ちは美しく綺麗で、こうしてみると肩幅も広い。
触れる手は角ばっていて、想像以上に大きく強い力。
あれ……どうしてこんなことになっているんだろう?
「わかっていませんわ。私はリリー様に触れられると、どうしようもない感情が湧き上がるのです。その潤んだ瞳を私だけのものにしたい、そんな欲望が……」
欲望……?私に?どうして?
こんな場面、つい先日にもあった……。
ノア王子が気を付けろと忠告してくれたあの時。
だけど彼女は……男だけどノア王子の恋人で……。
目の前に居るのは物語のヒロインで親友のトレイシー。
なのになんで?
うぅ……頭が痛くなってきた……。
酔っていて考えがうまくまとまらない。
どうすればいいのか狼狽していると、彼女の吐息が唇にかかった。
0
お気に入りに追加
1,275
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。
「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」
黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。
「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」
大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。
ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。
メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。
唯一生き残る方法はただ一つ。
二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。
ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!?
ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー!
※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる