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第三章
ヒロインとの出会い (其の四)
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とある昼下がり。
私はノア王子に頼まれ、書庫から数冊の本を持ち出すと、回廊を進んでいた。
経済学の本に倫理学の本、心理学の本と難しそうなものばかり。
えーと、これを執務室に運んでおくんだっけ。
指示された部屋に本を並べ、回廊へ出て戻ろうとした刹那、バシャンと水が飛び散る音が耳にとどいた。
何だろうと思い、庭の方へ向かってみると、同僚だろう侍女二人と全身びしょ濡れのトレイシーの姿。
「あら、居たの?ごめんなさい、気が付かなくて」
手にバケツを持った侍女は、隣の侍女と顔を見合わせると、トレイシー見て嘲笑う。
トレイシーは濡れた髪をかきあげると、挑発するように二人を睨みつけた。
「いえ、こちらこそこんなところに居て悪かったわ。年を取ると視界が狭くなると言いますものね~。気が付かなくてごめんなさい。お・ば・さ・ん・た・ち」
言い返したその言葉に私は目を見開くと、空いた口がふさがらない。
侍女二人は、年齢30歳ぐらい、おばさんと言われたことはないだろう。
彼女の言葉に侍女二人は顔を真っ赤にすると、トレイシーを強く睨みつける。
「おばっ、失礼ねッッ」
「なっ、先輩に向かってなんて口きくのよ」
「あら、本当のことを言っちゃダメでした?だって私だったら気が付きますもの。だから視界が狭くなったのかなぁと思いまして、ふふふ」
「このッッ」
侍女はカッと目を見開くと、近くに置いてあったバケツを持ち上げ、トレイシーへ向かって投げつける。
その姿に私は慌てて間に滑り込み、トレイシーを守るように、バケツをキャッチする。
しかしバケツは逆さを向き、ザバーンッと頭から水を被った。
「えっ、あっ、あぁ、ッッ、リリー様ッッ!?もっ、申し訳ございません、あぁ、これは、どうしましょうッッ」
「リリー様ッッ、どうして!?」
冷たい……。
全身ビショビショ、肌に布が張り付き、服の中にも水が入った。
私はゆっくりとバケツを置くと、笑みを浮かべ、あわあわと狼狽する彼女たちへ顔を向ける。
「3人とも落ち着いて、私は大丈夫だから。それとバケツは人に向かって投げる物じゃないわ。とりあえず二人は仕事があるでしょう。すぐに戻ったほういい。トレイシーのことは私に任せて」
「えっ、ですが……、その……あの……これは……」
「大丈夫だから、行きなさい」
言い聞かせるよう強めの口調で言い聞かせると、二人は慌てた様子で逃げて去って行った。
「リリー様、ごめんなさい。あぁ……ずぶ濡れですわ……、私のせいで……本当にごめんなさい」
トレイシーは悲し気な表情を浮かべハンカチを取り出すが、濡れていて使い物にならない。
濡れたハンカチを見つめながら、彼女はシュンと肩を落とした。
「私は平気。それよりもトレイシー、逆なでしちゃダメ。あぁ言う輩には言い返さず、私や長へ報告するべきよ」
トレイシーの濡れた髪へ触れると、彼女は不服そうに顔を上げる。
「それはわかっていますわ……だけどあの人たち、私がいるの知っていて水を撒いたのですわよ」
「うん、わかるんだけど……。はぁ……とりあえずそのままだと風邪をひいてしまう。近くに私の宿舎があるから、そこで着替えましょう」
私はトレイシーの手を取ると、宿舎へと連れて行こうと手を握った。
「えっ、リリー様のお部屋ですか!?リリー様のお部屋……行きたいッッのですけど……いやいやいや、ダメですわ。私は大丈夫ですの」
「そんな遠慮しないで、お風呂もあるし、早く着替えて温まったほうがいい。風邪をひいたら大変だよ」
トレイシーはなぜか頬を赤く染めると、ひどく取り乱した。
「おっ、お風呂ッッ、リリー様のッッ!?あっ、いえ、その、あの……だっ、大丈夫ですわ」
「いいからいいから、行きましょう」
遠慮しているのだろう、戸惑うトレイシーを強引に引っ張ると、私はそのまま宿舎へ引きずって行った。
私はノア王子に頼まれ、書庫から数冊の本を持ち出すと、回廊を進んでいた。
経済学の本に倫理学の本、心理学の本と難しそうなものばかり。
えーと、これを執務室に運んでおくんだっけ。
指示された部屋に本を並べ、回廊へ出て戻ろうとした刹那、バシャンと水が飛び散る音が耳にとどいた。
何だろうと思い、庭の方へ向かってみると、同僚だろう侍女二人と全身びしょ濡れのトレイシーの姿。
「あら、居たの?ごめんなさい、気が付かなくて」
手にバケツを持った侍女は、隣の侍女と顔を見合わせると、トレイシー見て嘲笑う。
トレイシーは濡れた髪をかきあげると、挑発するように二人を睨みつけた。
「いえ、こちらこそこんなところに居て悪かったわ。年を取ると視界が狭くなると言いますものね~。気が付かなくてごめんなさい。お・ば・さ・ん・た・ち」
言い返したその言葉に私は目を見開くと、空いた口がふさがらない。
侍女二人は、年齢30歳ぐらい、おばさんと言われたことはないだろう。
彼女の言葉に侍女二人は顔を真っ赤にすると、トレイシーを強く睨みつける。
「おばっ、失礼ねッッ」
「なっ、先輩に向かってなんて口きくのよ」
「あら、本当のことを言っちゃダメでした?だって私だったら気が付きますもの。だから視界が狭くなったのかなぁと思いまして、ふふふ」
「このッッ」
侍女はカッと目を見開くと、近くに置いてあったバケツを持ち上げ、トレイシーへ向かって投げつける。
その姿に私は慌てて間に滑り込み、トレイシーを守るように、バケツをキャッチする。
しかしバケツは逆さを向き、ザバーンッと頭から水を被った。
「えっ、あっ、あぁ、ッッ、リリー様ッッ!?もっ、申し訳ございません、あぁ、これは、どうしましょうッッ」
「リリー様ッッ、どうして!?」
冷たい……。
全身ビショビショ、肌に布が張り付き、服の中にも水が入った。
私はゆっくりとバケツを置くと、笑みを浮かべ、あわあわと狼狽する彼女たちへ顔を向ける。
「3人とも落ち着いて、私は大丈夫だから。それとバケツは人に向かって投げる物じゃないわ。とりあえず二人は仕事があるでしょう。すぐに戻ったほういい。トレイシーのことは私に任せて」
「えっ、ですが……、その……あの……これは……」
「大丈夫だから、行きなさい」
言い聞かせるよう強めの口調で言い聞かせると、二人は慌てた様子で逃げて去って行った。
「リリー様、ごめんなさい。あぁ……ずぶ濡れですわ……、私のせいで……本当にごめんなさい」
トレイシーは悲し気な表情を浮かべハンカチを取り出すが、濡れていて使い物にならない。
濡れたハンカチを見つめながら、彼女はシュンと肩を落とした。
「私は平気。それよりもトレイシー、逆なでしちゃダメ。あぁ言う輩には言い返さず、私や長へ報告するべきよ」
トレイシーの濡れた髪へ触れると、彼女は不服そうに顔を上げる。
「それはわかっていますわ……だけどあの人たち、私がいるの知っていて水を撒いたのですわよ」
「うん、わかるんだけど……。はぁ……とりあえずそのままだと風邪をひいてしまう。近くに私の宿舎があるから、そこで着替えましょう」
私はトレイシーの手を取ると、宿舎へと連れて行こうと手を握った。
「えっ、リリー様のお部屋ですか!?リリー様のお部屋……行きたいッッのですけど……いやいやいや、ダメですわ。私は大丈夫ですの」
「そんな遠慮しないで、お風呂もあるし、早く着替えて温まったほうがいい。風邪をひいたら大変だよ」
トレイシーはなぜか頬を赤く染めると、ひどく取り乱した。
「おっ、お風呂ッッ、リリー様のッッ!?あっ、いえ、その、あの……だっ、大丈夫ですわ」
「いいからいいから、行きましょう」
遠慮しているのだろう、戸惑うトレイシーを強引に引っ張ると、私はそのまま宿舎へ引きずって行った。
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