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第三章
ヒロインとの出会い (其の三)
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あの日聞いた話は、もちろん誰にも話していない。
ノア王子とトレイシーの仲が深まっていたと知れて嬉しかった。
もう少しイチャイチャシーンを見たいところだけれどね。
トレイシーとの仲は相も変わらず順調。
正直最初は、何かあったときに疑われないよう、悪役令嬢じゃないよとわかってもらうための打算もあった。
だけど今は本当に親友のような存在。
最近彼女は差し入れのお菓子を手に、訓練場にもやってくる。
そして彼女が来るようになってから、ノア王子は訓練場へ来なくなった。
二人の関係がバレないよう気を付けているんだろうか。
青年騎士の間で可愛い侍女がやってくるとあっという間に有名になり、噂を聞きつけた少年騎士の生徒達もお昼になると、青年騎士用の訓練場へやってくる始末。
そして今日もお昼の合図が響くと、騎士たちが色めき立つ中、トレイシーは私の名を呼んだ。
「リリー様、お疲れ様ですわ。これよかったら」
手渡されたのはレモンを蜂蜜に付けた御菓子。
羨ましと生徒たちの視線が集まる。
「いつもありがとう」
「いえ、リリー様に喜んでいただけるのなら、いくらでもご用意しますわ」
可愛らしい笑みに私もつられて笑うと、レモンを掴みパクッと一口。
「美味しい、訓練の疲れが一気に吹き飛んだ。昨日のクッキーは食後に頂いたよ。とっても美味しかった」
「ふふふ、でしょう~、リリー様の事を考えて作った料理ですもの、当たり前ですわ」
ニコニコ笑みを浮かべ、私の腕を取ると甘えるようにくっつく。
こうして慕ってくれるのはもちろん嬉しいのだが、会いに来る相手を間違えているんじゃないか、そんな事が頭を過った。
どうなんだろう……。
忍恋だけれど、ノア王子とどこまで進んでいるのか気になる。
休憩時間は私に会いに来ているし、仕事が終わった後もノア王子に会っている素振りはない。
二人が密会しているのを見たのは、一度きりだし。
「ねぇ、今日は午後から城で仕事なの。よかったらこのままお昼を食べに行かない?」
「はい、喜んで!」
彼女は満面の笑みで答えると、早く行こうとばかりに腕をグイグイと引っ張った。
お城と宿舎の通りにある食堂へ入ると、空いている席へ腰かける。
まだお昼の時間になったばかりで、人はまばら。
「リリー様とご一緒出来るなんて嬉しいですわ。ところで騎士学園の方は皆さん女性に飢えておられるのですか?リリー様へ会いに行く度に、ギャラリーが増えている気しますの」
注文を済ませ料理を待っていると、トレイシーは顎に手を置き上目遣いでこちらを見上げた。
男性であれば思わずキュンッとしてしまいそうな仕草だ。
「ふふふ、トレイシーは騎士学園で有名になっているよ。とっても可愛い侍女がいるってね。可愛い女の子を見たいと思うのが、男の人なんじゃないかな」
「そういうものですか~可愛いのはわかってますけど、私より美しくて可愛いリリー様と毎日お会いできているのに、皆さま変わってらっしゃいますわ」
「私は同級生だし、女の子って枠じゃないと思う。そんな風に言ってくれるのはトレイシーだけだよ。嬉しい」
トレイシーは本当にリリー様は可愛いですわ!、と力強く力説し始めると、何とも居た堪れない気持ちになった。
料理が運ばれ食べ始めると、無言で手を進める。
一息ついたタイミングを見計らって口を開くと、彼女は口元をナプキンで拭きながら目線を向けた。
「ところで……トレイシーは……」
そこで言葉を詰まらせると、私は苦笑いを浮かべる。
ノア王子とどうなのとは聞けない。
……なんと聞けばいいのか。
お付き合っている人はいるの?
これは……王子と侍女との身分違いの恋だと答えずらいよね。
ノア王子を好き?
この質問は直球過ぎる……。
「リリー様、どうされたのですか?」
不思議そうに首を傾げる彼女の姿に、ハッと我に返ると、目線を逸らせながら口を開く。
「あー、えーと、ごめんね。トレイシーは気になっている人がいるのかなぁと思って、ははは」
何だかかなり遠回しな質問になってしまった。
けれど現状聞けるのは、これぐらいだろう。
彼女はスッと体を引くと、真っすぐにこちらへ顔を向けた。
「えぇいますよ、気になる人。ですが……友人としてしか見らていない気がしますわ」
友人?でもこの間の話は……?
バレたらどうするのか……あれは何だったんだろう?
いやでも、王子との秘恋なら正直に答えられないのか……。
確か彼女はノア王子の紹介でこの城へ来たはず。
小説では二人が子供だった頃出会っていた、そんな設定があった。
付き合っているけれど、まだ友人の壁を壊せないでいるという事だろうか。
「トレイシーは気立てもいいし可愛いし、一緒にいて楽しい。いつもの可愛いトレイシーを見せていれば、きっとすぐに恋人になれるんじゃないかな。それか自分から攻めてみると……大胆にアプローチするのは、恥ずかしいかもしれないけれど、一番効果的かもしれない」
「そうかしら……。アプローチ……うーん、結構頑張っているんですけれどね……」
珍しく弱気に笑う彼女の瞳には、なぜか戸惑いと悲しさが浮かんでいた。
ノア王子とトレイシーの仲が深まっていたと知れて嬉しかった。
もう少しイチャイチャシーンを見たいところだけれどね。
トレイシーとの仲は相も変わらず順調。
正直最初は、何かあったときに疑われないよう、悪役令嬢じゃないよとわかってもらうための打算もあった。
だけど今は本当に親友のような存在。
最近彼女は差し入れのお菓子を手に、訓練場にもやってくる。
そして彼女が来るようになってから、ノア王子は訓練場へ来なくなった。
二人の関係がバレないよう気を付けているんだろうか。
青年騎士の間で可愛い侍女がやってくるとあっという間に有名になり、噂を聞きつけた少年騎士の生徒達もお昼になると、青年騎士用の訓練場へやってくる始末。
そして今日もお昼の合図が響くと、騎士たちが色めき立つ中、トレイシーは私の名を呼んだ。
「リリー様、お疲れ様ですわ。これよかったら」
手渡されたのはレモンを蜂蜜に付けた御菓子。
羨ましと生徒たちの視線が集まる。
「いつもありがとう」
「いえ、リリー様に喜んでいただけるのなら、いくらでもご用意しますわ」
可愛らしい笑みに私もつられて笑うと、レモンを掴みパクッと一口。
「美味しい、訓練の疲れが一気に吹き飛んだ。昨日のクッキーは食後に頂いたよ。とっても美味しかった」
「ふふふ、でしょう~、リリー様の事を考えて作った料理ですもの、当たり前ですわ」
ニコニコ笑みを浮かべ、私の腕を取ると甘えるようにくっつく。
こうして慕ってくれるのはもちろん嬉しいのだが、会いに来る相手を間違えているんじゃないか、そんな事が頭を過った。
どうなんだろう……。
忍恋だけれど、ノア王子とどこまで進んでいるのか気になる。
休憩時間は私に会いに来ているし、仕事が終わった後もノア王子に会っている素振りはない。
二人が密会しているのを見たのは、一度きりだし。
「ねぇ、今日は午後から城で仕事なの。よかったらこのままお昼を食べに行かない?」
「はい、喜んで!」
彼女は満面の笑みで答えると、早く行こうとばかりに腕をグイグイと引っ張った。
お城と宿舎の通りにある食堂へ入ると、空いている席へ腰かける。
まだお昼の時間になったばかりで、人はまばら。
「リリー様とご一緒出来るなんて嬉しいですわ。ところで騎士学園の方は皆さん女性に飢えておられるのですか?リリー様へ会いに行く度に、ギャラリーが増えている気しますの」
注文を済ませ料理を待っていると、トレイシーは顎に手を置き上目遣いでこちらを見上げた。
男性であれば思わずキュンッとしてしまいそうな仕草だ。
「ふふふ、トレイシーは騎士学園で有名になっているよ。とっても可愛い侍女がいるってね。可愛い女の子を見たいと思うのが、男の人なんじゃないかな」
「そういうものですか~可愛いのはわかってますけど、私より美しくて可愛いリリー様と毎日お会いできているのに、皆さま変わってらっしゃいますわ」
「私は同級生だし、女の子って枠じゃないと思う。そんな風に言ってくれるのはトレイシーだけだよ。嬉しい」
トレイシーは本当にリリー様は可愛いですわ!、と力強く力説し始めると、何とも居た堪れない気持ちになった。
料理が運ばれ食べ始めると、無言で手を進める。
一息ついたタイミングを見計らって口を開くと、彼女は口元をナプキンで拭きながら目線を向けた。
「ところで……トレイシーは……」
そこで言葉を詰まらせると、私は苦笑いを浮かべる。
ノア王子とどうなのとは聞けない。
……なんと聞けばいいのか。
お付き合っている人はいるの?
これは……王子と侍女との身分違いの恋だと答えずらいよね。
ノア王子を好き?
この質問は直球過ぎる……。
「リリー様、どうされたのですか?」
不思議そうに首を傾げる彼女の姿に、ハッと我に返ると、目線を逸らせながら口を開く。
「あー、えーと、ごめんね。トレイシーは気になっている人がいるのかなぁと思って、ははは」
何だかかなり遠回しな質問になってしまった。
けれど現状聞けるのは、これぐらいだろう。
彼女はスッと体を引くと、真っすぐにこちらへ顔を向けた。
「えぇいますよ、気になる人。ですが……友人としてしか見らていない気がしますわ」
友人?でもこの間の話は……?
バレたらどうするのか……あれは何だったんだろう?
いやでも、王子との秘恋なら正直に答えられないのか……。
確か彼女はノア王子の紹介でこの城へ来たはず。
小説では二人が子供だった頃出会っていた、そんな設定があった。
付き合っているけれど、まだ友人の壁を壊せないでいるという事だろうか。
「トレイシーは気立てもいいし可愛いし、一緒にいて楽しい。いつもの可愛いトレイシーを見せていれば、きっとすぐに恋人になれるんじゃないかな。それか自分から攻めてみると……大胆にアプローチするのは、恥ずかしいかもしれないけれど、一番効果的かもしれない」
「そうかしら……。アプローチ……うーん、結構頑張っているんですけれどね……」
珍しく弱気に笑う彼女の瞳には、なぜか戸惑いと悲しさが浮かんでいた。
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