悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第二章

作戦開始 (其の五)

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ピーターは頭領へ向かって剣を構えると、ゆっくりと近づいて行く。
私の体すっぽり入るほどに大きい彼の上着。
少年騎士の頃とはまるで違う彼。
わかっていたはずなのに、ここで改めて変わったを実感した。

エドウィンはピーターを見ると、動きをとめ頭領から離れた。

「あぁん?お前は誰だ、どこから湧いてでてきたんだ?あぁん?その服……その女と同じ騎士か?」

ピーターは無言のまま。
ただただ静かに、頭領へ近づいていく。
距離を詰め間合いへ入った刹那、彼の動きが変わった。

頭領の体格はピーターの倍はある。
さすがに力では叶わないだろうとそう思っていた。
だけどピーターは、頭領に向かって真っ向から剣を振り上げる。

カキンッ、カキンッガッ、キン、キン、カッキンッッ

激しい剣戟の声が響く中、私は唖然とその光景見つめていた。
ピーターが頭領をパワーで圧倒していく様。
攻撃する暇を与えない、威力と速さ。

訓練場では見たことのない。
これが彼の本気なのだろう。
洗練された技に、圧倒的なパワー、無駄のない俊敏な動き。
速さ、力、技、全てが揃っている。
色のない冷たい瞳を見ると、体が勝手に震えていた。

気が付けば、頭領は追い詰められあたふたと慌てている。
ピーターは容赦なく剣を振ると、頭領のアキレス腱を切った。

「うあ”っ、いてぇ、い”、くっ、やべぇッッ、ちくしょ……ッッ」

痛みに蹲る頭領。
ピーターの剣先に血が滴り、それでもまだ剣を振るその姿を見て悟った。
もう私では力不足だったんだと……。

同じ土俵にたっていたと思っていた。
人を殺す覚悟もできているはずだった。
だけど私は彼のように剣を振れない。

それに彼のスピードは私よりも遥かに速く、巨体を押し退ける計り知れないパワー。
いい勝負が出来るなんて考えが、おこがましいことだったんだ。
それを彼はわかっていたからこそ、前回の試合で彼は……。

「おぃおぃ、ちょっ、ちょっと待ってくれよ。なぁ、なぁ、話そうぜ」

頭領は土を這いながらあとずさり、気が付けば壁に追い詰められている。
ピーターが近づいてくる姿に、慌てて剣を手放すと、降参すると両手を挙げた。
しかしピーターは剣を蹴飛ばし容赦なく巨体を抑えると、剣先を首へあてる。

「話す価値なんてねぇ。リリーを……俺の大切な仲間を傷つけた罪、苦しみながら死ね」

剣を引こうとしたピーターの姿に、私はハッと我に返ると力いっぱい叫んだ。

「ダメよ、ピーター、殺しちゃダメ。……ッッ、彼は黒いローブについて知っている。ノア王子の母親事件と今回の事件、同じ人物が犯人かもしれない!」

ピーターはピタッと動きを止めると、こちらへゆっくりと顔を向ける。
私と視線が交わると、冷ややかで暗い瞳が、鮮やかな紅に戻っていた。
いつもと同じピーターの瞳。
その姿にほっと胸をなでおろすと、一気に体が重くなった。
痛みは感じず、ただ全身がジンジンと熱い。
エドウィンがくぅ~んと鳴きながら近づいてくるのを最後に、視界が暗闇に染まっていった。

★おまけ(ピーター視点)★

最近リリーにどう接していいのかわからない。
この間あいつが部屋に来てから、俺の中で何かが変わりつつあった。
だけどその正体はわからない。
あいつを見ると、なんだかむずがゆいような変な感じがして。
試験で対戦したときもそれは変わらなかった。
真剣に勝負をしているはずなのに、あいつ向かって剣を触れない自分がいた。

友人になってこんなにギクシャクしたのは初めてだった。
そんな中舞い込んだ護衛の任務。
リリーが連れ去られ、俺は士官の指示を無視して探しに行った。

元気なあいつを見つけて、ほっとした。
だがあいつは予想外な事に巻き込まれていた。
加えて変な人狼に懐かれ、ずっとリリーの傍から離れない。
リリーに触れるあいつの姿に、また胸にモヤモヤとした感情が渦巻く。

てかキスするとか、あいつ正気かよ。
気にしてないとか、女としてどうなんだ?
俺がやっても、同じ態度とるのかよ。
って違う違う、なに考えてんだ俺。
あいつは親友でライバルのはずだろう。

とりあえず話を聞くと、臭いの根源を探し、人質を救出するのだとか。
これは騎士として引き受けないわけない。
無事に西と東の火元は破壊出来たが、最後に残った北の焚火。

俺はリリーの作戦に反対だった。
あいつの実力を信じていないわけじゃねぇ。
こっちの人数と時間を考えるに、この方法しかないと重々承知している。
だけど頷けなかった。

俺の引き留めを無視し、リリーは囮になりると、中央には盗賊の姿はなくなった。
俺はすぐに北へ入りぬけると、そこに人の姿。
すぐに抜刀すると、気づかれる前に仕留める。
焚火の前に到着すると、それは他の焚火よりも明らかに威力が強い。
簡単には消せない、水の量もそれほどない。

俺は炎に向かって剣を振ると、火の粉が舞い、バラバラと焚火が崩れた。
火の勢いが増し、パチパチを組んでいた木が燃え始める。
燃え尽きるまで多少時間はかかるだろうが、これで大丈夫だろう。
少し火が弱くなったところで、水をかけよう。
それでリリーの援護に向かう。

「おい、お前、何をしている」

音に反応したのか、盗賊が現れると、こちらへ切りかかってきた。
動きを見る限り対した腕ではない。
向かってくる剣を避け、男を薙ぎ払った。
それを皮切りに、わらわらと盗賊たちが集まり始める。
くそっ、こんなときに……。
雑魚ばかりだが、人数が人数だ、時間はかかる。
ようやく片付けた時には、火は大分小さくなっていた。

焚火に水をかけ、俺はすぐに中央へ向かうと、リリーの姿を探す。
暫くすると、煙はまだくすぶっているが、人狼たちの姿が見えた。
西と東の火が消えたことで、臭いが大分マシになったのだろう。
乱戦がはじまる中、俺は南へと走って行った。

そこで見つけたのは、リリーの悲惨な姿だった。
服はひどく乱れ、ズボンは切り刻まれ下着があらわになっている。
白い脚には男の手形が赤く浮かび上がり、胸元ははだけ見られる状態ではなかった。
だがヨタヨタしながら必死に立ち上がろうとする彼女の姿。

俺はすぐに駆け寄り彼女を見ると、腕が折れ、胸には赤い痣。
あちこちに切り傷があり、重症だとすぐにわかった。
だけど彼女は大丈夫だと笑みを浮かべる。

あの男に何をされそうになったのかは明白。
上着を持つ手が小刻みに震え、目は赤く腫れ泣いた跡が残っていた。
その姿に俺の中の何かが切れた。
頭の中がやけにスッキリし、憎悪と怒りだけが残る。

「許さねぇ、楽に死ねると思うなよ」

そこからはあまり覚えていない。
無心に剣振り、怯え命乞いをする男の姿を楽しんでいた。
アキレス腱を切り歩けなくしてから、ゆっくりと追い詰める。
男の首に剣先を突き立てた瞬間、リリーの声が響いた。
ハッと我に返ると、俺はようやくいつもの俺に戻ったんだ。
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