悪役令嬢はお断りです

あみにあ

文字の大きさ
上 下
35 / 135
第二章

作戦開始 (其の四)

しおりを挟む
私はキッと彼を睨み付け、折れていない手で土を握ると、顔面狙って投げつけた。

「グッ、このアマッ!!」

彼の視界を奪い怯んだ隙に、私は体を反転させると、急所へ蹴りを一発おみまいする。
そのまま巨体を押し退け、立ち上がろうと脚に力を入れた刹那、背中に激痛が走った。

「ぃたあぁっ、がはぁッッ」

拳で叩きつけられたのだろうか……。
衝撃に一瞬意識を飛ばし、気が付くと私はうつぶせで地面へ倒れ込んでいた。
後ろから馬乗りになり私の体を抑え込むと、折れた腕を痛めつける。

「くぅッ、はぁッ、離して、あぁ、あ”あ”ああああああああ」

胸を押さえつけられ、バキバキと骨が割れる音が頭に響く。
あまりの痛みに目の前がチカチカ光った。
息をするのも困難なほどの激痛。
私はぐったりと倒れ込むと、頭領は私の髪を引っ張り顔を上げさせた。

「あぁ、いてぇ!やるじゃねぇか、まだ反抗できる気力があったか。いいね、いいね~面白い。お前は売らずに、俺の女にしてやろう」

頭領は嘲笑いながら、胸元へ手を伸ばすと、膨らみを強く握る。

「いたっ、くっ、あ”あ”ぁぁぁッッ、はぁ、はぁ、ィヤッ」

「俺に逆らったらどうなるか……じっくり体に教え込んでやるからよ」

体を動かすだけで、全身に激痛が走り、もう力が入らない。
気力だけでどうこうできる限界を超えていた。
動かなくなった私の様子に、彼は私の足首を持ち上げ後ろへ引きずると、股の間へ体を入れる。
ゲスな笑いが頭に響き、気持ち悪さに嘔吐がこみあげた。

悔しさと惨めさ、屈辱に嗚咽が込み上げるが、私はそれを必死にこらえ、拳を握りしめた。
頭領は短剣を取り出し、ズボンをズタズタに切り裂む。
最後に残った布を剥がすと、下着があわらになった。
素肌が土に触れ、砂利にこすりつけられると、血が滴っていく。

今から始まるのだろう凌辱を想像すると、体が勝手に震え始める。
ゴツゴツした手が太ももをまさぐると、堪えていた涙が溢れだした。
こんな男に……ッッ。

「ワオオオオオオン、ガウッガウッ、ガッ、グルルルルッ」

諦めかけたその瞬間、獣の声が響いたかと思うと、私を抑え込んでいた重さがなくなった。
何が起こったのか、状況を把握できない。
私は何とか体を起こし恐る恐るに振り返ると、そこには白狼が頭領に乗りかかり、腕に噛み付いていた。

「なっ、いてぇッ、クソッ、退けええええ!」

頭領は手にしていた短剣を振り回すと、白狼は一度腕から離れ土を蹴り、また頭領へ向かって牙を向けた。
しかし牙は剣で受け止めると、力で弾き返され、白狼が後ろへ吹き飛ばされる。
白狼は空中で一回転し華麗に着地すると、また頭領へと向かって行った。
あの姿は……。

「エドウィン……」

ようやく脳が動き始める。
痛みが麻痺しているのだろう、先ほどの激痛が嘘のように消えていた。
けれど思うように体は動かない。

ゆっくりと辺りを見渡すと、柵の方で狼たちと盗賊との戦闘が始まっていた。
その姿に煙が全て消せたのだと、ほっと胸をなでおろす。
村から盗賊たちの悲鳴が轟き、阿鼻叫喚の様子だ。
よかった……作戦は無事成功したんだ……。

しかしまだ終わっていない。
頭領とエドウィンが戦う姿に、ボロボロになった体へ喝を入れる。
痛みはもう振り切れた、まだいける、あと少し……。
折れていない腕に力を入れ何とか立ち上がろうとしていると、先ほどの手とは違う、優しく温かい手が肩へ触れた。

「リリー、遅くなってすまない」

ピーターはボロボロになった私の姿を見ると、言葉をつまらせる。
そんな彼に大丈夫と頷くと、心配させないよう無理矢理に笑って見せた。

「へへ、ごめんなさい、思ったより苦戦してしまって……でも大丈夫」

彼は私から視線を逸らせ無言のまま上着を脱ぐと、私の肩へかける。
大きな上着をギュッと握りしめると、彼の匂いが鼻孔を擽った。
温かくて優しい香り。
ピーターはそっと私の体を抱きしめると、腰の剣を抜刀し立ち上がった。

彼を纏う空気がいつもと違う。
訓練で戦うときに感じる威圧感ではない、これは殺意。
いつもの紅の瞳ではない、赤く燃えるような憎悪が浮かぶ瞳が目に映る。
その瞳を見た瞬間、私は初めてピーターに恐怖を感じたのだった。
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

もう何も信じられない

ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。 ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。 その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。 「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」 あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。 【お詫び】読んで頂いて本当に有難うございます。短編予定だったのですが5万字を越えて長くなってしまいました。申し訳ありません長編に変更させて頂きました。2025/02/21

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

処理中です...