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第二章
作戦開始 (其の三)
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盗賊たちは円陣をジリジリと狭めながら近づいてくる。
剣を構え男たちを威嚇しながら逃げ道を探すが、そんな隙間は見当たらない。
「大人しく降参すれば、痛い目にあわなくてすむぞ」
「ほらほら、怖がらなくていいぞ~、優しくしてやるからさ、ガハハ」
「こいつは売りもんじゃねぇんだろう。ならいいよな?」
「まぁいいんじゃねぇか。俺も混ぜろよ」
さすがに7人相手はきついか……このままだと追い詰められる。
チラッと北へ視線を向けると、煙はまだ上がったままだ。
ここから離れて、もう少し時間を稼がないと……。
私は剣から手を離し、地面へ落とすと静かに両手を上げる。
「おっ、もう降参か?賢い判断だ」
正面から嘲笑いながら近づいてくる無精ひげの男へ顔を向けると、目線は谷間にくぎ付けで、手が気持ち悪くこまねいている。
無精ひげの男の体格は他の者より小柄。
狙うなら彼で決まり。
私は胸のボタンをもう一つ外すと、男へ見せつける。
ゲスい笑いが深くなると、歩くスピードが速くなった。
もう少し、後一歩……。
男との距離を測りながら、土の上を滑らせるように右足を前へ出す。
今だ!
腰を大きくひねり、脚を上げると油断していた男の首へと見事命中。
呻く男を蹴飛ばしすり抜けると、そのまま南へ走り去った。
「いってぇっ、オラッ、待てやぁ、ゴラァァッッ」
「お前何やってんだよ!」
私は脇目もふらずに走ると、ピーターから引きはがすように、テントの隙間を駆け抜ける。
後ろから追いかけてくる男たち。
騒ぎを聞きつけたのか、気が付けば仲間が10人ほどに増えていた。
しかし足はそれほど速くなく、追い付かれる気がしない。
このまま逃げ続ければ時間を稼げる。
後ろを注視しながら、南に延びる坂を駆け上がろうとした刹那、突然死角から伸びてきた腕に捕らえられた。
咄嗟に体の向きを変えると、私は捕らえられた腕を軸に飛び上がる。
そのまま蹴りを繰り出すが、脚は片手で受け止められた。
なっ、どうしてッッ!?
「おい!お前らああああ、こんな小娘に遊ばれてるのか?しっかりしろよ!」
慌てて振り払い脚を下げると、捕まれた腕に力が入り、骨がミシミシと嫌な音をたてた。
「あ”あ”ぁぁぁッッ、くぅッ、いッッ……はぁっ、ああああッッ」
腕を締め上げられ、ボキッと骨が折れると、痛みに意識が飛びそうになる。
ダメッ、ここで意識を失うわけにはいかない……ッッ。
痛みに耐えながら視線を上げると、先ほど洞窟にいた頭領が、男たちを怒鳴りつけている。
彼らは小さな悲鳴を上げ怯えると、頬をヒクヒク痙攣させ、泳いだ目で口を開いた。
「おっ、お頭、いやーちょっと遊んでやってただけですって。なぁ?」
「あぁ!こんな小娘相手に手こずるはずないっすよ!」
しどろもどろで答える男たちに、頭領は舌打ちすると苛立ちをあらわにする。
「本当に口だけは達者だな。チッ、それにしても、いつの間に逃げ出したんだ?狼どもが手引きしたか?猪口才な真似を」
頭領はだるそうに首を左右へ傾げると、柵へ顔を向け叫んだ。
「今すぐ捕らえている人狼の娘を数人連れてこい、あいつらの前で殺してやる、見せしめだ」
男たちは「はいいいいいい」と返事を返すと、あたふたとしながら柵へと走って行った。
仲間がいなくなった今、逃げるチャンス。
だが振り払える力はない。
腕が私よりも倍以上太く、体格もデカイこの男から逃げる方法は……。
私は痛みを堪え虚勢を張ると、頭領を睨みつける。
「ほう、腕が折られても怯えないのか。いいなぁ、その目。俺はなぁ、強気な女が好みなんだ。屈服させる快感、たまんねぇ、考えるだけでゾクゾクするぜ」
頭領は私の髪を掴むと、顔を寄せニタニタと笑う。
気持ちの悪いその顔に、私は挑発するように唾を吐きかけると、頭領から笑みが消えた。
「良い根性してんじゃねぇか」
頭領は空いた手で唾を拭くと、私の髪を引っ張り体を持ち上げ、壁に向かって投げつけた。
圧倒的な力の差になすすべもない。
背中から壁にぶち当たり、折れた腕に激痛が走ると、痛みに悶えた。
何とか体を起こし壁にもたれかかるが、これ以上動かせない。
頭領はゆっくりとこちらへ近づいてくると、楽しそうに私へ覆いかぶさった。
乱れた服をビリビリは剥ぎ取り、胸元がはだけあらわになると、膨らみを鷲掴みにされる。
男が触れた感触に悪寒が走った。
胸の奥からこみあげる恐怖を、必死に抑え込む。
唇をギュッとかむと、血の味が口に広がった。
しっかりしないと……。
ノア王子の騎士である私が、こんな男に負けるわけにはいかない。
剣を構え男たちを威嚇しながら逃げ道を探すが、そんな隙間は見当たらない。
「大人しく降参すれば、痛い目にあわなくてすむぞ」
「ほらほら、怖がらなくていいぞ~、優しくしてやるからさ、ガハハ」
「こいつは売りもんじゃねぇんだろう。ならいいよな?」
「まぁいいんじゃねぇか。俺も混ぜろよ」
さすがに7人相手はきついか……このままだと追い詰められる。
チラッと北へ視線を向けると、煙はまだ上がったままだ。
ここから離れて、もう少し時間を稼がないと……。
私は剣から手を離し、地面へ落とすと静かに両手を上げる。
「おっ、もう降参か?賢い判断だ」
正面から嘲笑いながら近づいてくる無精ひげの男へ顔を向けると、目線は谷間にくぎ付けで、手が気持ち悪くこまねいている。
無精ひげの男の体格は他の者より小柄。
狙うなら彼で決まり。
私は胸のボタンをもう一つ外すと、男へ見せつける。
ゲスい笑いが深くなると、歩くスピードが速くなった。
もう少し、後一歩……。
男との距離を測りながら、土の上を滑らせるように右足を前へ出す。
今だ!
腰を大きくひねり、脚を上げると油断していた男の首へと見事命中。
呻く男を蹴飛ばしすり抜けると、そのまま南へ走り去った。
「いってぇっ、オラッ、待てやぁ、ゴラァァッッ」
「お前何やってんだよ!」
私は脇目もふらずに走ると、ピーターから引きはがすように、テントの隙間を駆け抜ける。
後ろから追いかけてくる男たち。
騒ぎを聞きつけたのか、気が付けば仲間が10人ほどに増えていた。
しかし足はそれほど速くなく、追い付かれる気がしない。
このまま逃げ続ければ時間を稼げる。
後ろを注視しながら、南に延びる坂を駆け上がろうとした刹那、突然死角から伸びてきた腕に捕らえられた。
咄嗟に体の向きを変えると、私は捕らえられた腕を軸に飛び上がる。
そのまま蹴りを繰り出すが、脚は片手で受け止められた。
なっ、どうしてッッ!?
「おい!お前らああああ、こんな小娘に遊ばれてるのか?しっかりしろよ!」
慌てて振り払い脚を下げると、捕まれた腕に力が入り、骨がミシミシと嫌な音をたてた。
「あ”あ”ぁぁぁッッ、くぅッ、いッッ……はぁっ、ああああッッ」
腕を締め上げられ、ボキッと骨が折れると、痛みに意識が飛びそうになる。
ダメッ、ここで意識を失うわけにはいかない……ッッ。
痛みに耐えながら視線を上げると、先ほど洞窟にいた頭領が、男たちを怒鳴りつけている。
彼らは小さな悲鳴を上げ怯えると、頬をヒクヒク痙攣させ、泳いだ目で口を開いた。
「おっ、お頭、いやーちょっと遊んでやってただけですって。なぁ?」
「あぁ!こんな小娘相手に手こずるはずないっすよ!」
しどろもどろで答える男たちに、頭領は舌打ちすると苛立ちをあらわにする。
「本当に口だけは達者だな。チッ、それにしても、いつの間に逃げ出したんだ?狼どもが手引きしたか?猪口才な真似を」
頭領はだるそうに首を左右へ傾げると、柵へ顔を向け叫んだ。
「今すぐ捕らえている人狼の娘を数人連れてこい、あいつらの前で殺してやる、見せしめだ」
男たちは「はいいいいいい」と返事を返すと、あたふたとしながら柵へと走って行った。
仲間がいなくなった今、逃げるチャンス。
だが振り払える力はない。
腕が私よりも倍以上太く、体格もデカイこの男から逃げる方法は……。
私は痛みを堪え虚勢を張ると、頭領を睨みつける。
「ほう、腕が折られても怯えないのか。いいなぁ、その目。俺はなぁ、強気な女が好みなんだ。屈服させる快感、たまんねぇ、考えるだけでゾクゾクするぜ」
頭領は私の髪を掴むと、顔を寄せニタニタと笑う。
気持ちの悪いその顔に、私は挑発するように唾を吐きかけると、頭領から笑みが消えた。
「良い根性してんじゃねぇか」
頭領は空いた手で唾を拭くと、私の髪を引っ張り体を持ち上げ、壁に向かって投げつけた。
圧倒的な力の差になすすべもない。
背中から壁にぶち当たり、折れた腕に激痛が走ると、痛みに悶えた。
何とか体を起こし壁にもたれかかるが、これ以上動かせない。
頭領はゆっくりとこちらへ近づいてくると、楽しそうに私へ覆いかぶさった。
乱れた服をビリビリは剥ぎ取り、胸元がはだけあらわになると、膨らみを鷲掴みにされる。
男が触れた感触に悪寒が走った。
胸の奥からこみあげる恐怖を、必死に抑え込む。
唇をギュッとかむと、血の味が口に広がった。
しっかりしないと……。
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