悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第二章

作戦開始 (其の二)

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柵の周りには見張りが5人。
4人が周辺を歩き、1人がカギのかかった扉の前で座り込んでいる。
辺りは非常に見晴らしがよく、人質が逃げ出せば、すぐにわかるだろう。
弱っている彼女たちが逃げ出せるとは思っていないのか、見張りに統率感はなく、歩きながらくだらない雑談をしていた。

「人狼の女ってどんな味なんだろうな?」

「おい、やめとけよ。商品に手を出したらお頭に殺されるぞ」

「わかってるよ。言ってみただけじゃねぇか。あー、さっさと金を手に入れて街へ戻りてぇよ」

ゲスな話に不快になる。
見張りから視線を逸らせ辺りを確認すると、柵の正面に北の煙が上がっている。
西と東にあったものよりも煙が濃く、井術型に組まれた大きな焚火。
身を潜められそうな場所は見当たらない。
即ち煙を消すためには、遮る物がない中央を、横切らなければいけないのだ。

人数が限られている作戦。
方法は一つしか思い浮かばない。
私はここへ捕らえられている事を知られている。
逆にピーターはここに居る事すら知られていない。
それなら……。
私はピーターへ顔を向けると、手信号で話しを始めた。

(私がおとりになる)

指文字をピーターへ送ると、彼はダメだと首を横へ振った。

(ダメだ、危険すぎる。一人で抱えきれる人数じゃないだろう)
(それはわかっている、戦うわけじゃない、こちらへ注意を向けて逃げる)
(注意を向けるだと、どうやって?)
(それは大丈夫、考えがある)

ピーターは難しい表情を見せると、またも首を横へ振った。

(……やっぱりだめだ、ここは一度離れて別ルートで……)

渋るピーターの様子に、私は首を横へ振り返すと、紅の瞳を真っすぐに見つめる。

(もうすぐ2つの煙が消える、他のルートを探している時間はない。私が彼らを引き付けるから、その間に北の煙を消して)
(ダメだ、待て、勝手に決めるな)
(お願い、私を信じて。大丈夫、目とスピードには自信がある。知ってるでしょう?)

止めようとするピーターの手をスッと避けると、私は深く頷き、中央へと向かった。

敵を惹きつけるには、うってつけの武器を私はもっている。
相手は男ばかり……大丈夫。
私は破れた服を開き、胸に巻いていたさらしを解いた。
くっきりと谷間があらわになり、男たちの目を惹くには十分だろう。
動くのには邪魔になるけれど、それは仕方がない。

(ピーター後は任せたわ)

彼へ短いサインを送り、私はそのまま柵の前へと飛び出した。

「なんだ?女?」

「おおおお、女だ、ヒュー、こりゃぁいい眺めだな」

「うん?おい、あの服……お頭が捕らえた女騎士じゃねぁか?」

柵の周りにいた男たちがゆっくりとこちらへ近づいてくる。
視線は全員私の胸元に集まり、ゲスな笑いが気持ち悪い。
私は男たち向かって剣を構えると、大声で叫んだ。

「彼女たちを解放しなさい!」

威勢のいい啖呵を切ったつもりだが、男たちの嘲笑う声が響く。

「ガハハ、へぇ~、こいつ、面白れぇ~。一人で乗り込んできたのか?おぉ?」

「まったくお優しいことで、はっはっは」

「嬢ちゃん一人で何が出来るんだ?」

ジリジリと近づいてくる男たちの動きをじっと観察する。
目の動き、足先に動き、肩の動き、筋肉の動き。
行動するには必ず必要な動作、それを見極め最善を見つける。

壁に追い詰めれないよう警戒しながら、円を描くように時計周りに後ずさると、一人の男が襲ってきた。
私はそれをヒラリと右へ避けると、反対側の男が襲い掛かる。
剣を構え薙ぎ払い男の背へ回ると、私は柵へ向かって走った。

扉の前で座っていた男が立ち上がり、私の行く手を阻む。
すぐにバックステップで方向を変えると、北へ体を向けた。
私の姿に北で見張っていた男が反応する。
胸が揺れる様にひゅーと口笛を吹くと、剣を持ちこちらへ走ってきた。

「いい女じゃぁねぁか、捕まえたら味見していいのか?」

「おい、俺が先だ、邪魔すんじゃねぇよ」

言い合い争いながら、北の見張り二人が同時に近づいてくる。
私は柵へ手を付き飛び上がると、二人を躱し反対側へと着地した。
本来であれば攻撃に転じたいところだが、なんせ人数が多い。
剣を振りまわしている間に、捕まってしまうだろう。
倒すことが目的じゃない。

よし、これで7人。
ピーター、後は頼むわよ。
私は煙から離れるようまた向きを変えた刹那、男たちが散らばり始める。
先ほどまで一切なかったチームワークここへ来て発揮される。
一人一人襲うのではなく、逃げ道を塞ぐようにジリジリ私の周りを囲んで行った。
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