悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第二章

救出作戦 (其の五)

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あれやこれや考えながら苦笑いで黙っていると、エドウィンはすぐさま私をピーターから引き剥がす。

「近い、離れろ。リリーは俺のだ」

敵意のこもった鋭い瞳に、ピーターは降参するように手を挙げると、私から距離を取る。
その様に私はエドウィンの腕から飛び降りると、集まった人狼たちへ顔を向けた。

「話は後にしましょう。早くあなたたちの仲間を助けに行かないと、時間はあまりないわ」

話を軌道修正するべく叫ぶと、皆頷き山道を駆け上がり始めた。

ピーターは彼らの後に続き、足場の悪い山道を必死に駆け上がる
私はというと……またエドウィンに抱きかかえられていた。
自分で歩くと言っても下ろしてくれない。
こういうものなのだろうか……大分過保護のようだ。

「あぁ、くそっ、人狼ってのはすげぇな。こんな急勾配を、あんなスピードで登れるかよ」

ブツブツと文句をいうピーター。
だが人狼たちは誰も聞いていないようだ。
暫く進むと、彼らは一斉に立ち止まった。

「これ以上進めない。臭いが……ッッ、くぅッ、ウゥ……ッッ」

エドウィンは私を下ろすと、その場から後退る。
クンクンと鼻を鳴らしてみるが、何の匂いもしない。
……全然わからない。
ピーターも同じようで、人狼たちの様子に首を傾げ鼻を鳴らしていた。

「なんだ、変な匂いはないようだが……」

「彼らの嗅覚は人間より鋭いらしいの。ここからは二人で行きましょう」

「おう、ところでリリー、剣はどうした?まさか無手で戦うつもりか?」

あぁ忘れてた……、無手はさすがに厳しい……。
辺りをキョロキョロ見渡し武器になる物を探していると、鼻をつまみながらエドウィンが駆け寄ってくる。

「何を探している?」

「武器が欲しいの、何かいいものはない?」

エドウィンは少し考えた後走り出すと、すぐに戻ってきた。

「これでいい?」

手に持っていたのは、古い剣。
多少さびてはいるが、使えそうだ。
私は剣を左の腰に差すと、位置を調整した。

「ありがとう、これで戦える」

「主様、絶対に怪我をしないで。危ないと思ったらすぐに戻ってきて。約束だからね」

「えぇ、わかったわ」

心配するエドウィンの頭をなでると、大丈夫だと笑って見せる。
納得したのかはわからないが、エドウィンはコクリと頷くと、山の方を指さした。

「ここを真っすぐ進めば、俺たちの村がある。匂いが消えたらすぐに駆け付けるから」

エドウィンはゆっくりと顔を近づけると、またペロリと唇を舐めた。

「ちょっ、お前っ、なにやってッッ、はぁ!?」

光が溢れる様を、ピーターは口を半開きにしたまま、唖然と眺めている。
エドウィンは人間の姿から狼の姿へ変わると、四足歩行で森の中へと消えて行った。

「おい、今のは何なんだ」

ピーターは我に返り私の肩を掴むと、不機嫌な顔でこちらを睨む。

「えっ、さぁ、私にもわからないんだよね。ただ私の唇を舐めれば変身できるみたいなの」

「なんだそれ……わけわかんねぇ……はぁ……」

何とも疲れた表情を浮かべるピーターを横目に、私は足を進めると、険しい山道を進んで行った。

木の根っこに足を掛け、一歩一歩慎重に登って行く。
敵はどこにいるかわからない、村はまだ見えてこない。
息をひそめ、音を立てないよう慎重に進んで行くと、薄っすらと篝火が浮かび上がった。
そこで初めて、異臭が鼻につく。

臭いわけではないが、強烈な香り。
前世にあった線香のような独特な香りだった。
村はもうすぐ……。
篝火を目印に進もうとした刹那、肩がグイッと引っ張られる。
何かと思い顔を向けると、ピーターが東の方角を指さした。

その先にはゴツイ男が二人。
手には大きな斧とサーベルが握られている。
見目は山賊そのものだった。

私はすぐに身を顰めると、ルビーの瞳を見つめながら深く頷いた。
斜面に這いつくばり、彼らの視界に入らないよう、大回りでよじ登って行くと、匂いがさらにきつくなっていった。


★おまけ(エドウィン視点)★

やっと見つけた俺の主様の前に、突然現れたいけ好かない男。
馴れ馴れしくて、主様と話す姿を見るとイライラする。
主様もあいつに気を許していて、柔らかい表情を見せるんだ。
それがさらに苛立つ。

分かってる。
主様は主様で、俺と出会う前にいろんな人に会ってると知っている。
だけどこのイライラはどうしようもない。

人狼に伝わる文献に書いてあった。
主様に対しての異常な執着心。
主様が自分と違う性別の場合、それはさらは強くなる。
今までの人狼たちはこれに耐えていたのかと思うと、正直驚きだ。
主様は俺のだと主張したくて、ずっとくっついていた。
だけど全然満足できないんだ。

ピーターって男と主様で村へ行かせるのは嫌だった。
だけどこのままじゃぁ、仲間がみんな殺されてしまう。
主様は一番大切。
だけど仲間も大切で。
仕方がないが……あの男に主様を託すしかない。
戦わなくていい、煙消してくれれば、後は俺が殺るから。

怪我しないでと伝えたけれど、不安で不安で仕方がない。
さっき触れた主様の唇の味を確かめる。
甘く酔いそうなほどに甘美で。
優しく暖かな彼女の香り。

煙が消えれば仲間全員で突撃する。
それまで絶対に無事でいてくれ。
俺の主様
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