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第二章
救出作戦 (其の三)
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時は少し遡る。
ノア王子を乗せた馬車が隣国へと出発し、ピーターと騎士2名がその場に残る。
彼らは森の中へ入ると、私の捜索を進めていた。
「とりあえず犯人の痕跡を探ろう」
上級生の騎士が指示を出すと、ピーターは森の奥へと進んで行く。
警戒しながら慎重に捜索していると、人が通っただろう痕跡を見つけた。
「おい、こっちだ、ここを通った形跡がある」
山道からかなり離れた場所。
足跡はないが、細い枝が折れて新しい。
それに乾いた土を擦った後がある。
その声に二人が集まると、また周辺の捜索を開始する。
しかしなかなか次の痕跡が見つからない。
これほど痕跡を消していると言う事は、緻密な計画の元実行された誘拐。
だがミスは誰にでもある。
その小さなミスを見落とさずに、追跡しなければいけない。
「こっちだ、見つけたぞ」
声の方に向かって行くと、そこには足跡があった。
その足跡は南に進んでいる。
「この足跡はかなり新しい、これを追えばすぐに追いつくだろう」
「あぁ、そうだな、行ってみよう」
しかしピーターは足跡を見つめたままその場に留まる。
ここまで足跡一つ残していなかった犯人が、こんなわかりやすい痕跡を残すだろうか?
いや、一つ見つけてはいるが……ここまではっきりしたものではない。
「先に行っててくれ、俺はもう少しこの辺りを見ておく」
騎士二人はうざそうな表情を見せると、振り返ることなく歩き出す。
ピーターはそんな二人とは逆方向に歩き始めた。
暫く進むと、草むらが現れ斜めに倒れている。
明らかに人がかき分け進んだ証拠。
やはりさっきの足跡は追跡を撒くカモフラージュ。
倒れた草むらをかき分け奥へ奥へ進んで行くと、その先に泉があった。
澄んだ美しい泉で、水面には魚が遊泳する様がはっきりと映る。
泉の周りに沿って進んで行くと、そこに車輪の痕がくっきりと残っていた。
馬車の車輪だろう、それは森の奥へ続いている。
ピーターはすぐに先ほどの場所へ戻ると、そこには困った様子の騎士が二人
「ピーター、足跡が途中で消えていた。周辺に通った痕跡もない」
「これ以上調べようがないだろう、いったん戻ろうぜ」
騎士二人の言葉に、ピーターは北を指さすと、見つけた痕跡について話し始めた。
ピーターは二人を泉へ案内すると、車輪の痕を見せる。
「馬車か……これは追い付けないな」
「だな、ここからはさらに足場も悪い。深追いするなとの命令だ、いったん戻ろう」
騎士はここで捜査を終えようと提案するのに対し、ピーターは頷かなかった。
「ダメだ、この車輪の痕もいつまであるかわからない。用意周到、警戒心が強い犯人だ、必ず戻り痕跡を消すだろう」
「おい、ピーター、大事な恋人が囚われて心配なのはわかるが……」
「恋人じゃねぇ、馬鹿にするな、俺はッッ」
「まぁまぁ落ち着けよ、二人とも。ピーター聞け。ここで追いかけても、俺たち3人でどうこう出来ないだろう。敵の人数も目的も把握できていない、このまま追うのは危険だ」
ピーターはクソッと足元の石を蹴り上げる。
その様を呆れた様子で眺める二人は、下山しようと背を向けた。
「……俺は進む。敵のアジトを特定したら戻る」
「ちょっ、マジかよ」
「おい、待て!」
引き留める声に振り返ることなく、ピーターは車輪の痕を追いかけて行った。
・
・
・
草陰から見えるピーターの姿に、私は手を伸ばすと口を開いた。
「ピーッッ、んんんん」
彼の名を呼ぼうとすると、大きな手が私の口を塞ぐ。
「シー、主様ダメだよ、静かにして」
私は彼の手を叩くと、首を横へ振った。
もがきながらなんとか彼の手を外すと、金色の瞳を見上げる。
「彼は私の仲間よ、説明して協力してもらいましょう」
エドウィン難しい表情で考え込むと、私の体をガッチリ持ったまま、動こうとしない。
「そこか?そこに誰かいるのか……?」
ピーターは剣を構えたまま、恐る恐る草むらをかき分ける。
エドウィンは納得していない様子だが、私は強引にエドウィンの腕から逃れると、草むらから立ち上がった。
つられてエドウィンも立ち上がると、ガサガサと草が激しく揺れる。
「なっ、リリーッッ!?お前、後ろの男は何者だ?」
彼はエドウィンへ剣を向けると、距離を取るように後ずさる。
「ピーター、剣を下ろして、彼は味方よ。私を助けてくれたの」
「……本当なのか?」
ピーターは真意を測るように、私とエドウィンを交互に見つめた。
「主様に剣を向けるな」
エドウィンは私を守るように抱きしめると、金色の瞳を細目、ピーターを睨みつける。
「あるじさまだと……?お前、本当何やってんだ?これはどういうことなんだ?どんだけ心配したとッッ、お前はいつも勝手な行動をしすぎだ。何かするなら先に俺に相談しろ!」
「ごめんなさい。ピーター怒らないで、ねぇ。これには色々事情があるのよ、それよりもお願いがあるの。彼らを助けるのに協力してくれない?」
ピーターはその言葉に深いため息をつくと、疲れた様子で剣を下ろしたのだった。
ノア王子を乗せた馬車が隣国へと出発し、ピーターと騎士2名がその場に残る。
彼らは森の中へ入ると、私の捜索を進めていた。
「とりあえず犯人の痕跡を探ろう」
上級生の騎士が指示を出すと、ピーターは森の奥へと進んで行く。
警戒しながら慎重に捜索していると、人が通っただろう痕跡を見つけた。
「おい、こっちだ、ここを通った形跡がある」
山道からかなり離れた場所。
足跡はないが、細い枝が折れて新しい。
それに乾いた土を擦った後がある。
その声に二人が集まると、また周辺の捜索を開始する。
しかしなかなか次の痕跡が見つからない。
これほど痕跡を消していると言う事は、緻密な計画の元実行された誘拐。
だがミスは誰にでもある。
その小さなミスを見落とさずに、追跡しなければいけない。
「こっちだ、見つけたぞ」
声の方に向かって行くと、そこには足跡があった。
その足跡は南に進んでいる。
「この足跡はかなり新しい、これを追えばすぐに追いつくだろう」
「あぁ、そうだな、行ってみよう」
しかしピーターは足跡を見つめたままその場に留まる。
ここまで足跡一つ残していなかった犯人が、こんなわかりやすい痕跡を残すだろうか?
いや、一つ見つけてはいるが……ここまではっきりしたものではない。
「先に行っててくれ、俺はもう少しこの辺りを見ておく」
騎士二人はうざそうな表情を見せると、振り返ることなく歩き出す。
ピーターはそんな二人とは逆方向に歩き始めた。
暫く進むと、草むらが現れ斜めに倒れている。
明らかに人がかき分け進んだ証拠。
やはりさっきの足跡は追跡を撒くカモフラージュ。
倒れた草むらをかき分け奥へ奥へ進んで行くと、その先に泉があった。
澄んだ美しい泉で、水面には魚が遊泳する様がはっきりと映る。
泉の周りに沿って進んで行くと、そこに車輪の痕がくっきりと残っていた。
馬車の車輪だろう、それは森の奥へ続いている。
ピーターはすぐに先ほどの場所へ戻ると、そこには困った様子の騎士が二人
「ピーター、足跡が途中で消えていた。周辺に通った痕跡もない」
「これ以上調べようがないだろう、いったん戻ろうぜ」
騎士二人の言葉に、ピーターは北を指さすと、見つけた痕跡について話し始めた。
ピーターは二人を泉へ案内すると、車輪の痕を見せる。
「馬車か……これは追い付けないな」
「だな、ここからはさらに足場も悪い。深追いするなとの命令だ、いったん戻ろう」
騎士はここで捜査を終えようと提案するのに対し、ピーターは頷かなかった。
「ダメだ、この車輪の痕もいつまであるかわからない。用意周到、警戒心が強い犯人だ、必ず戻り痕跡を消すだろう」
「おい、ピーター、大事な恋人が囚われて心配なのはわかるが……」
「恋人じゃねぇ、馬鹿にするな、俺はッッ」
「まぁまぁ落ち着けよ、二人とも。ピーター聞け。ここで追いかけても、俺たち3人でどうこう出来ないだろう。敵の人数も目的も把握できていない、このまま追うのは危険だ」
ピーターはクソッと足元の石を蹴り上げる。
その様を呆れた様子で眺める二人は、下山しようと背を向けた。
「……俺は進む。敵のアジトを特定したら戻る」
「ちょっ、マジかよ」
「おい、待て!」
引き留める声に振り返ることなく、ピーターは車輪の痕を追いかけて行った。
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草陰から見えるピーターの姿に、私は手を伸ばすと口を開いた。
「ピーッッ、んんんん」
彼の名を呼ぼうとすると、大きな手が私の口を塞ぐ。
「シー、主様ダメだよ、静かにして」
私は彼の手を叩くと、首を横へ振った。
もがきながらなんとか彼の手を外すと、金色の瞳を見上げる。
「彼は私の仲間よ、説明して協力してもらいましょう」
エドウィン難しい表情で考え込むと、私の体をガッチリ持ったまま、動こうとしない。
「そこか?そこに誰かいるのか……?」
ピーターは剣を構えたまま、恐る恐る草むらをかき分ける。
エドウィンは納得していない様子だが、私は強引にエドウィンの腕から逃れると、草むらから立ち上がった。
つられてエドウィンも立ち上がると、ガサガサと草が激しく揺れる。
「なっ、リリーッッ!?お前、後ろの男は何者だ?」
彼はエドウィンへ剣を向けると、距離を取るように後ずさる。
「ピーター、剣を下ろして、彼は味方よ。私を助けてくれたの」
「……本当なのか?」
ピーターは真意を測るように、私とエドウィンを交互に見つめた。
「主様に剣を向けるな」
エドウィンは私を守るように抱きしめると、金色の瞳を細目、ピーターを睨みつける。
「あるじさまだと……?お前、本当何やってんだ?これはどういうことなんだ?どんだけ心配したとッッ、お前はいつも勝手な行動をしすぎだ。何かするなら先に俺に相談しろ!」
「ごめんなさい。ピーター怒らないで、ねぇ。これには色々事情があるのよ、それよりもお願いがあるの。彼らを助けるのに協力してくれない?」
ピーターはその言葉に深いため息をつくと、疲れた様子で剣を下ろしたのだった。
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