悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第一章

芽吹いた気持ち (其の二)

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騎士学園へ戻りいつも通り訓練に励む毎日。
だけど一つだけ変わったことがある。
あの日以来、訓練場に王子がよくやってくるようになった。
今までは数年に一度、突然やってくる程度だったが今では毎日。
私の姿をじっと観察しては、何を言うわけでもなく時間が過ぎると去って行く。
目が合うと頬を赤く染めて、すぐに目を逸らされてしまう。
一体何がしたいのだろうか?

「なぁ……お前、王子に何かしたのか?」

「えぇ、いや、何もしてないはずなんだけれど……」

ピーターと顔を見合わせながら王子へ視線を向けると、じっとこちらを見つめている。
眉間に皺をよせ、考え込むような表情。
どうやら今日はご機嫌斜めのようだ。
本当になんなんだろうか……。

訓練場内でも王子の姿を気にする生徒が多く、そのたび私へ注目が集まる。
何をしでかしたのかと、そんな噂を最近耳にするのだ。
困った、何かしたのかな。

「リリー何かあるなら話してこいよ、このままじゃ毎日気が散ってしょうがないだろう」

「あーうん、そうだね。明日休憩時間にでも話しかけてみる」

翌日、訓練が終わり休憩時間になった。
私は王子が現れる場所へ向かうと、丁度やってきた彼とばったり出会う。

「ノア王子丁度良かった、何か私に御用ですか?」

尋ねてみると、ノアは驚いた様子で目を見開き固まった。
じっとその様を見つめていると、次第に頬が赤くなり、やはり目をそらされる。

「いや……その、調子はどうなのかなと思って……。体は何ともないの……?」

モゴモゴとはっきりしない彼の様子に首を傾げる。

「えぇ、心配してくれていたんですね。本当にもう元気ですよ、お心遣い痛み入ります」

「ならいいんだ。練習頑張って。あっ、怪我しないように気を付けるんだよ。何かあったら僕に言ってね。それじゃ……明日も来るから」

明日も来るんだ……。
そそくさと去っていくノア王子。
明らかにあの事件から私に対する態度が変わった。
以前までは面白いものを見つけた、そんな感じだった。
だけど今はそれとは違う気がする。
だけど嫌いという訳ではないようだし、どうしたんだろう?

寝込んでいる間も、過保護すぎるほどに病室へ来てくれていた。
こうやって訓練場まできて、心配だってしてくれているようだけど、うーん。
体の調子を見る為なら、一度くれば……ね。
去って行く彼の背を眺めながら、私はうーんと腕を組み、首を横に傾けたのだった。

王子が毎日やってくる理由は結局わからなかったが、休憩になると話しかけてくるようになった。
内容は当たり障りのない天気の話や、他愛無い雑談。

「リリー、お疲れ様。今日もいい天気だね」

「ですねぇ、ノア王子は毎日ここへ来て大丈夫なんですか?」

「あーうん、えーと、あっ、僕も剣術をしているんだ、護身術程度だけどね」

「そうなんですね。勉強も剣術も、王子となるとやっぱり色々大変そうです」

「まぁね。今度手合わせしてみる?」

「えっ、いやいや、さすがに王子様相手に剣は振れませんよ。怪我させちゃったらまずいし……」

「ふーん、そっか、ピーターとは練習するのに、僕はダメなの?……二人とも仲がいいよね」

「ピーターですか?そうですね、彼とはここへ来てからの付き合いですし、一番よく話す友人です。誰よりも剣に対して想いが強くて、みるみる強くなる彼に良い刺激を受けさせてもらっているんです」

得意げに笑って見せると、ノア王子は何とも難しい表情を浮かべていた。

こうやって小説に登場したヒーローと会話が出来るなんて、改めて考えるとすごいことだと思う。
本の中では決められた会話を読むだけ。
彼の性格や過去の事実、趣味趣向、物語を楽しむために必要な情報が用意されているだけだったから。
王子と話すのは緊張することもあるけれど、小説の中以外の彼を知れるのは、純粋に楽しかった。
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