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第一章
女騎士への道 (其の三)
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朝早くに目覚めると、士官と山へ体力づくりに精を出す。
太陽が昇り始めた頃に訓練場へ戻り、教官の元で剣術を学ぶ毎日。
木刀の構えを習い、素振りの練習。
楽しくはない地味な作業。
だが何事も基礎が大事というのは、前世で嫌という程理解している。
木刀なんて握ったことがなく、構えをマスターするだけでも大変だった。
前世で剣道をやっておけばよかったなぁ、と考えることもしばしば。
けれど毎日練習していると、次第に木刀が手に馴染んでくる。
思い通りに剣先が動くようになると、楽しいと思い始めた。
基礎が出来上がると、対人稽古が始まり、剣の型を覚えていった。
「なかなか様になってきたね」
「ありがとうございます!」
まだまだだとわかっているが、褒められると素直に嬉しい。
木刀を下ろし前に立つ教官を見つめると、笑顔を返す。
「君のいいところは、軽いフットワークと素直で真面目なところ、それに根性もある。だが男と対等にやっていくには、足りないところが多いね。それを補うにはその無駄にいい目を利用するしかない。私の動きを見てしっかりトレースするの能力、動きをよく観察出来ている。そのいい目を有効に使う戦法でいこう。だけどその目を生かすにはスピードが必要になる。明日から訓練メニューを変えようか」
私は大きく頷くと、自分の中に広がる可能性にワクワクした。
下半身を鍛えるトレーニングと、実戦練習として教官の剣を避ける訓練が始まった。
最初は散々だった。
教官の木刀が私の頭を何度落ちたことか……。
剣が振り下ろされてから避けるのでは間に合わない。
相手の動きを見て、リズムや癖、足先や目線、筋肉の動きを見て相手の動きを予測する。
そんな練習を積み重ね戦法を確立させると、サイモン教官の推薦で騎士学園へ行くことになった。
宿舎で顔見知りの生徒もいるが、こうやって騎士学園で出会うのは初めて。
騎士学園は年齢によって3つのクラスにわけられている。
見習い騎士(10歳~12歳)
少年騎士 (13歳~15歳)
青年騎士 (16歳~18歳)
私は今年14歳になる為、少年騎士として入学したのだった。
最初は教官以外の誰かと訓練出来ることにワクワクしていた。
けれど現実はそう甘くない。
女の入学は私が初めてで、もちろん訓練場では針の筵。
男ばかりの縦社会で、令嬢が入ってきたのだ、当たり前の反応だろう。
チラチラとこちらの様子を窺う人に、あからさまに敵対した態度を見せてくる生徒。
我関せずと傍観者として無視を決め込む男たち。
反応は様々だが、歓迎されていないのは明らかだった。
トレーニングを終え訓練場へ戻っても、私の相手をしてくれる人はいない。
勇気をだしてこちらから話しかけてみても、気まずい顔をしながら一目散に逃げていく。
どうすればいいんだろう……。
私は一人訓練場の中心へやってくると、辺りを見渡し木刀を手に取った。
とりあえず一人でも出来る事をするしかない。
教官との訓練を思いだしながら、木刀を真っ直ぐに構える。
一点に集中し辺りの音が消えると、確かめるように木刀振りぬいた。
「へぇー本当に騎士になるんだ。てっきり諦めたんだと思っていたけれど」
その声に振り返ると、ノア王子が笑みを浮かべこちらへ手を振っていた。
へぇっ、王子!?どうしてこんなところに!?
確かめるように恐る恐る彼に近づいてみると、面白いものを見るように私を観察している。
「あれっきり姿を見せないから、挫折して家に引きこもっているのか思っていたんだ。社交界デビューもしないで、式典にも顔出さないからさ」
「えーと、よくわかりませんが……本気で騎士になるつもりですよ」
こうやって改めて話してみると、物語に出てくるノア王子とはずいぶん印象が違う。
物語に出てくる彼は、無愛想で冷たいイメージ。
こんな風に笑ったり軽口を言ったりするイメージではない。
まだ女嫌いではなさそうだし、それが彼を変えてしまう原因の一つなのだろうか。
「じゃぁその本気度ためさせてもらおうかな。とりあえず走ってみて」
王子に言われた通り走ると、じっとこちらを見つめる王子。
広場の外周を走り続け、一周、二周、三周……。
私が走る姿をニコニコと眺める王子。
何が楽しいのだろうか……。
20週を回った頃、
いつまで走ればいいんだろう……まだ大丈夫だけれど……。
チラチラと王子の姿を横目で確認するが、笑みを浮かべたまま。
30週、40週を超え、50週を迎えた頃、体力は限界に近づいていた。
息が切れ足元がおぼつき、ペースは最初に比べると半分ほどだ。
けれど士官との特訓に比べればまだマシ。
ヨタヨタと走り続け50週を迎えた刹那、ようやく王子の声が響いた。
「お疲れ様、もういいよ。結構やるね。社交界から消えてずっと練習したってのは本当みたいだね、見直したよ」
その声に私はその場に座り込むと、深く息を吸い込み天を仰いだ。
呼吸を整えふらつく足に力を入れ立ち上がると、王子の姿はない。
一体何だったんだろうか……。
王子が立っていた場所を眺めながら、私は深く深く息を吐き出したのだった。
翌日王子はまたやってきた。
今日は何をするでもなく、私の姿を眺めるだけ。
柵にもたれかかり腕を組む彼の肩に、ふと蝶がとまった。
その姿を見て小説のページが頭に浮かぶ。
あれ、確か王子は蝶が苦手だったはずじゃ……?
王子の姿をじっと眺めていると、彼は肩に止まった蝶を指先で救い上げ、葉へと移したのだった
太陽が昇り始めた頃に訓練場へ戻り、教官の元で剣術を学ぶ毎日。
木刀の構えを習い、素振りの練習。
楽しくはない地味な作業。
だが何事も基礎が大事というのは、前世で嫌という程理解している。
木刀なんて握ったことがなく、構えをマスターするだけでも大変だった。
前世で剣道をやっておけばよかったなぁ、と考えることもしばしば。
けれど毎日練習していると、次第に木刀が手に馴染んでくる。
思い通りに剣先が動くようになると、楽しいと思い始めた。
基礎が出来上がると、対人稽古が始まり、剣の型を覚えていった。
「なかなか様になってきたね」
「ありがとうございます!」
まだまだだとわかっているが、褒められると素直に嬉しい。
木刀を下ろし前に立つ教官を見つめると、笑顔を返す。
「君のいいところは、軽いフットワークと素直で真面目なところ、それに根性もある。だが男と対等にやっていくには、足りないところが多いね。それを補うにはその無駄にいい目を利用するしかない。私の動きを見てしっかりトレースするの能力、動きをよく観察出来ている。そのいい目を有効に使う戦法でいこう。だけどその目を生かすにはスピードが必要になる。明日から訓練メニューを変えようか」
私は大きく頷くと、自分の中に広がる可能性にワクワクした。
下半身を鍛えるトレーニングと、実戦練習として教官の剣を避ける訓練が始まった。
最初は散々だった。
教官の木刀が私の頭を何度落ちたことか……。
剣が振り下ろされてから避けるのでは間に合わない。
相手の動きを見て、リズムや癖、足先や目線、筋肉の動きを見て相手の動きを予測する。
そんな練習を積み重ね戦法を確立させると、サイモン教官の推薦で騎士学園へ行くことになった。
宿舎で顔見知りの生徒もいるが、こうやって騎士学園で出会うのは初めて。
騎士学園は年齢によって3つのクラスにわけられている。
見習い騎士(10歳~12歳)
少年騎士 (13歳~15歳)
青年騎士 (16歳~18歳)
私は今年14歳になる為、少年騎士として入学したのだった。
最初は教官以外の誰かと訓練出来ることにワクワクしていた。
けれど現実はそう甘くない。
女の入学は私が初めてで、もちろん訓練場では針の筵。
男ばかりの縦社会で、令嬢が入ってきたのだ、当たり前の反応だろう。
チラチラとこちらの様子を窺う人に、あからさまに敵対した態度を見せてくる生徒。
我関せずと傍観者として無視を決め込む男たち。
反応は様々だが、歓迎されていないのは明らかだった。
トレーニングを終え訓練場へ戻っても、私の相手をしてくれる人はいない。
勇気をだしてこちらから話しかけてみても、気まずい顔をしながら一目散に逃げていく。
どうすればいいんだろう……。
私は一人訓練場の中心へやってくると、辺りを見渡し木刀を手に取った。
とりあえず一人でも出来る事をするしかない。
教官との訓練を思いだしながら、木刀を真っ直ぐに構える。
一点に集中し辺りの音が消えると、確かめるように木刀振りぬいた。
「へぇー本当に騎士になるんだ。てっきり諦めたんだと思っていたけれど」
その声に振り返ると、ノア王子が笑みを浮かべこちらへ手を振っていた。
へぇっ、王子!?どうしてこんなところに!?
確かめるように恐る恐る彼に近づいてみると、面白いものを見るように私を観察している。
「あれっきり姿を見せないから、挫折して家に引きこもっているのか思っていたんだ。社交界デビューもしないで、式典にも顔出さないからさ」
「えーと、よくわかりませんが……本気で騎士になるつもりですよ」
こうやって改めて話してみると、物語に出てくるノア王子とはずいぶん印象が違う。
物語に出てくる彼は、無愛想で冷たいイメージ。
こんな風に笑ったり軽口を言ったりするイメージではない。
まだ女嫌いではなさそうだし、それが彼を変えてしまう原因の一つなのだろうか。
「じゃぁその本気度ためさせてもらおうかな。とりあえず走ってみて」
王子に言われた通り走ると、じっとこちらを見つめる王子。
広場の外周を走り続け、一周、二周、三周……。
私が走る姿をニコニコと眺める王子。
何が楽しいのだろうか……。
20週を回った頃、
いつまで走ればいいんだろう……まだ大丈夫だけれど……。
チラチラと王子の姿を横目で確認するが、笑みを浮かべたまま。
30週、40週を超え、50週を迎えた頃、体力は限界に近づいていた。
息が切れ足元がおぼつき、ペースは最初に比べると半分ほどだ。
けれど士官との特訓に比べればまだマシ。
ヨタヨタと走り続け50週を迎えた刹那、ようやく王子の声が響いた。
「お疲れ様、もういいよ。結構やるね。社交界から消えてずっと練習したってのは本当みたいだね、見直したよ」
その声に私はその場に座り込むと、深く息を吸い込み天を仰いだ。
呼吸を整えふらつく足に力を入れ立ち上がると、王子の姿はない。
一体何だったんだろうか……。
王子が立っていた場所を眺めながら、私は深く深く息を吐き出したのだった。
翌日王子はまたやってきた。
今日は何をするでもなく、私の姿を眺めるだけ。
柵にもたれかかり腕を組む彼の肩に、ふと蝶がとまった。
その姿を見て小説のページが頭に浮かぶ。
あれ、確か王子は蝶が苦手だったはずじゃ……?
王子の姿をじっと眺めていると、彼は肩に止まった蝶を指先で救い上げ、葉へと移したのだった
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