流れ着いた先は異世界でした。~誰がなんと言おうと、必ず元の世界へ帰りますから!

あみにあ

文字の大きさ
上 下
45 / 45

異世界へ行った彼女の話:第二十八話

しおりを挟む
私がこの世界へ戻ってきて、目覚めてから大変だった。
最初に驚いたのはエルヴィンの姿だった。
私が知るエルヴィンはまだ線が細くて、青年って感じだったのに、目の前にいる彼は立派な成人男性だったから。

身長はあの頃よりも伸びていて、肩幅も広くて……まるで別人みたい。
最初であった頃に想像していた通り、イケメンに育っていた。
こんなイケメンさんなら、もう結婚しているだろうなぁ。
あぁ出来ることなら、彼の結婚式には出席したかった。
そんな事を思っていたんだけれど、話を聞くと、彼は未だ婚約者すらいない事実に驚いた。

驚く事が沢山ある中、一か月以上寝たきりだった為か……体が思うように動かないし、食べることも出来ない。
ベッドから起き上がれない日々が続く中、結婚し王となったライト殿下と王妃様がお見舞いにやってくる。
オリヴィアも私の姿に泣きながら抱きしめると、大粒の涙をこぼしながらに喜んでくれた。
どうやら彼女は私が居なくなってからまた城のメイドへ戻り、今では王妃付きのメイドになったようだ。

そうやってベッドで過ごす日々が続く中、私が去った日から6年もたっていた事実を聞き、狼狽していた。
池の中へ潜って、鯰に出会って数時間?そんなぐらいだったと思う。
元いた世界とこの世界の時間の流れが違うように、きっとあの池の底も時間の流れが違うのだろうと一人納得する。

一週間と二週間が過ぎゆく中、私はなぜかエルヴィンの部屋で療養生活を送っていた。
まだ多少は体にだるさが残っているけど、ようやく復活してきた。
私はベッドからノソッと起き上がり庭へと出ると、一人池の傍へとやってきた。
グレイはもういない。
鯰から受け取った手紙は、私が目覚めた時にはなくなっていた。
エルヴィンに聞いても、私の手には何も持っていなかったと言うし。
池の周辺を探して欲しいとお願いしたけれど、出てこなかった。
どこへいってしまったのだろうか。

私はユラユラと揺れる水面をじっと眺める中、金色の魚がクルクルと私の傍を回って行く。
やっぱりないな……
なんて書いてあったんのだろう。
そんな事を考えながら池をじっと眺めていると、ふと足音が耳にとどいた。

「もう起き上がっても平気なのか?あんまり無理するな」

心配そうな声に振り返ると、エルヴィンが焦った様子でこちらへ駆け寄ってくる。

「うん、大分よくなったから気晴らしにね」

そうニッコリ笑みを浮かべると、彼は支えるように私の腰へと手を回す。
その様子があまりにもスマートで何だかドキマギしてしまう中、チラッと彼へ視線を向けると、エメラルドの瞳がじっと私を見下ろしていた。
その瞳はどこか不安気に静かに揺れている。

「まだ帰りたいと願っているのか」

「ううん、みんながいう通り何をしても帰れないみたい。だからもういいの」

そう言葉にすると、グレンが死んでしまった現実に胸がギュッと締め付けられる。
私は痛みに耐えるように胸を掴むと、大きく息を吸い込んだ。

「そうか……お前はこれからどうするつもりなんだ?」

エルヴィンはそう話しながらに、腰を抱く腕を強めていく。

「うーん、どうしようかな。とりあえずお城は出て、街へ行ってみようと思ってる」

「なっ、なんで城を出て行くんだ?」

戸惑った様子の声に顔を上げると、私はニッコリ笑みを浮かべて見せた。

「今までご厚意に甘えてばかりだったから……。戻れないとわかった以上、お城でお世話になるわけには行けない。だから街へ出て、職を見つけて自活できるように頑張る」

不安だけどね……。
私の住んでいて世界とは全然違うし、簡単に職も見つけられないかもしれない。
でもグレンが私に与えてくれた人生をしっかり生きて行かなきゃ。
私は真っすぐに前を見据えると、池の向こう側に映る城壁を真っすぐに見つめた。

「……ッッ、待て、それなら俺の助手になってくれないか?今人手が足りなくてな……部屋は俺が用意する。報酬だって出す。俺にはあんたが必要なんだ」

「へぇっ!?いやいや、私は貴族様じゃないしお城に居る事自体おかしいでしょ。気遣ってくれてありがとう。優しいね」

「違う!!!」

エルヴィンはそう叫ぶと、私の腰を強く引き寄せそのまま胸の中へ閉じ込めた。

「どっ、どうしたの!?」

突然の事に戸惑う中、彼は逃がさないとばかりに強く抱きしめる。

「違う、俺は……あんたが戻ってきたら伝えたい事がいっぱいあったんだ。だけどあんたを前にしたら、なぜかなかなか言い出せなくて……。俺はずっと後悔していたんだ。あんたに何も伝えずに行かせてしまった事を……」

絞り出すような震える声に私はそっと彼の背に手を回すと、優しく包み込んだ。

「俺はあんたを引き留めたかった。でも俺は臆病で弱くて、だから見送る事しか出来なかった。でもお前が消えて……伝えることが出来ない現実に、心が壊れそうになった」

必死に伝えようとする彼の心に触れると、私はなんと返せばいいのか戸惑う。
きっとあの時彼に引き留められたとしても、私は帰っていただろう……。
でもそこまで私を想っていてくれた事実は素直に嬉しい。

「ごめんね……」

「違う、謝ってほしいわけじゃない。俺は……あんたが好きだ。愛しているんだ。今も昔もこの先もずっと。だから俺の傍に居てほしい。ただそれけなんだ!」

突然の告白に茫然とする中、抱きしめる腕の力が緩むと、私は恐る恐るに顔を上げた。
彼の顔はゆでだこのように真っ赤に染まり、恥ずかしそうに視線を逸らせる。

「えーと、それは……あの……」

「いい、答えはまだいらねぇ。あんたには大事に想っている奴がいると知っている。だけどちゃんと伝えておきたかった。あんたは俺を子供扱いしていただろう……わかってるんだ。でも今度からは俺を一人の男としてみてほしい。あんたの心からその男が消えるのかわからないけれど……俺はずっと待つよ。6年変わらなかっただ、今更変わるはずがない」

耳まで真っ赤に染めたエルヴィンは、エメラルドの瞳をこちらへ向けると、その瞳に私の姿が映し出される。
その瞳に胸の奥が小さく高鳴ると、頬の熱が高まっていくのを感じた。

「あっ、その、私は……うぅ……本当なの?」

そう弱弱しく何とか言葉にすると、彼はコクリッと深く頷いた。

「今はこれだけ我慢しておいてやる。これからは覚悟してろ」

エルヴィンは私に額へそっと顔を寄せると、チュッと唇を当てる。
驚きのあまり後退る中、私の頬もきっと彼と同じぐらい真っ赤に染まっているだろう。

「俺の助手になるように手配しておく。じゃぁまた後でな」

エルヴィンはしてやったりといった様子で口角を上げると、そのまま部屋へと戻って行く。
彼の背を姿を眺めながらに私は崩れ落ちるように膝をつくと、暫くその場所から動く事が出来なかった。





それから二人は……。






チビキャラ



****************************************
最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!
初のコラボ作品でしたが、完結が遅くなってしまって本当に申し訳ございませんでした。
またこういった形で、様々な方とコラボ作品が出来ればなぁと思っております。

玉子様、素晴らしいイラストを本当にありがとうございました。

物語はここで完結ですが、二人の後日談等、ゆっくり更新できればと思っております。
またお付き合い頂けるよう、頑張ります。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...