流れ着いた先は異世界でした。~誰がなんと言おうと、必ず元の世界へ帰りますから!

あみにあ

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◆閑話:異世界へ渡った彼と彼女の話:第四話

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チュンチュン

窓から差し込む朝日に、私は目を覚ました。
うぅ……ソファーで寝たから体が痛い……。
私は大きく背伸びをし、視線をベットへ移すと、昨日運んできた彼の姿がない。
起きたんだ……でもどこに行ったのかな?

私は慌てて外へ出ると、そこには眩いほどの朝日に照らされた彼の姿が目に映る。
それはまるで美しい一枚の絵画のようで……。
ふわぁ……イケメンはなにやっても絵になるなぁ。
そんな幻想的な姿を眺める中、彼はハッと慌てた様子で振り返ると、私の傍へと駆け寄ってきた。

「すみません。助けて頂きありがとうございます」

美しい礼に、ハキハキとしゃべる日本語に驚く中、私にニカッと笑ってみせた。

「ううん、ところで体調は大丈夫?」

そう問いかけてみると、彼は大丈夫だと笑顔で応える。
眩しい笑顔に見惚れる中、イケメンの破壊力の凄まじさに頬が熱くなったのは秘密だ。

「すみません。ここはどこでしょうか?私はどこに居ましたか?あなたは?」

「えーと、ここはね……」

私は彼の質問に一つ一つ応えていく中、どうも彼は自分の名前も、どこから来たのかも、なぜここにいるのかも、何もわからないとの事だ。
その事実に私は、彼が記憶喪失なのだと理解した。
そんな彼を一人で放り出す事も出来ず、私は悩んだ末、彼との共同生活が始まった。

「記憶が戻るまでだからね!」

そう言い聞かせると、彼はわかりましたと深く頷いて見せた。

彼との共同生活は思ったよりも大変だった。
土足で家に入ろうとしたり、家事の一切が出来なかった。
冷蔵庫や、電子レンジ、洗濯機に、エアコン、テレビ、どれも知らないようでマジマジと見つめる毎日。

街へ出れば、道路を走る車に驚き、トラックを見たときには、驚きのあまりひっくり返ったのはいい思い出。
後は……自動ドアやエレベーター、エスカレーターにも興味津々だ。
スーパーに入れば商品の多さ、人の多さに、目を輝かせる。
そんな彼と一緒にいると、彼には私が必要なのだと感じ、氷っていた私の心が次第に温まっていくのがわかった。

そんな彼と過ごす私の生活は、さらに慌ただしくなっていった。
彼は名前もわからなければ、戸籍もわからないから働く事も出来ない。
顔立ちから考えるにきっと外国の人だろう。
彼に家事を教え、家の事をまかると、私はせっせとアルバイトでお金を稼いでいた。
二人分の食費に光熱費、やっぱりお金がかかるなぁ。

そうして数ヶ月たった頃、彼は少しずつだが、何かの拍子に記憶を取り戻すようになった。
そして思い出した記憶を私によく話してくれた。

彼はお城で暮らしていたらしく、電気はなく魔術を使い生活をおくっていたらしい。
そんな突拍子もない内容に信じることは出来なかったけれど……彼の話はファンタジーの物語の様で、とても興味深かった。

そんな事を思う中、ふと西へ沈む夕陽をみたときに彼が呟いたんだ。

「俺の住んでいた場所では太陽が移動して、海に沈む風景は見れなかった」

なんでも彼のいた世界は太陽が動かず、時間がたつと太陽の色が変わって夜になるらしい。

もちろんどんどん出てくる非現実的な話を、最初まったく信じていなかった。
彼は作家さんだったのかもしれないとか、夢と現実が混ざっているのだろう、そう考えていた。
だけど彼の話はあまりにも鮮明で、何かを想うように話す表情を見ていると、私は彼が本当に別の世界からきたんじゃないか、と考えるようになっていった。

不思議な彼との生活が続く中、それが当たり前の日常になっていく。
そんなある日、私はいつものようにアルバイトへ出掛けていった。

「行ってくるね」

そう手を振って見せると、彼はにっこり笑って、いってらっしゃいと見送ってくれた。

この頃になると彼は完璧に家事をこなし、家を守るすばらしい奥さん(男だけど)になっていた。
彼はどこに嫁に出しても、きっとやっていけるだろな。

そんなどうでもいい事を考えながらバイトを終え、いつものように夜道を帰っていた。
今日はケーキを買う為、いつもとは違う道。
彼と出会ってからちょうど2年の月日が流れた。
1年目はお互い忙しく祝えなかったからね……。
今回こそは彼とお祝いをしようと思い、頻発してケーキを買ったんだ。

生まれた日がわからないから、彼との出会いを祝おう事で。この日が特別になればと思う。
彼の喜ぶ顔を想像しながらに、私はいつもは通らない道を急ぎ足で家路を急いだ。

その途中、突然声をかけられた。
男の声に立ち止まり、徐に振り返ると、そこには黒いパーカーを深く被った、がたいの男が佇んでいた。
私は首を傾げて男を見つめる中、彼はゆっくりとこちらに近づいてくると、私の前で立ち止まる。

「君の事をずっと見ていたんだ。君が中学生だった頃、初めて君を見て……一目ぼれだった。でも僕には話しかける勇気もなくて、年齢もまったく違う君と、どうやって接点をもてばいいかわからなかった。ずっとただ見つめていたんだ。ねぇ……いつも一緒にいるあの男は誰?いつかいなくなるだろうと思っていたのに、ずっといるあの男。君は僕の物になるはずなのに……。君を一人にして、ほとぼりが冷めた頃に君を慰めて、僕の物にしたかった……。なのにどうして、ねぇ……?まぁいいや、さぁ僕についてきて。君は僕のものなんだから」

そうボソボソと呟く中、私は恐怖で体が震え始める。
すると男は、私の腕を掴み、そのまま強引に引っ張った。
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