流れ着いた先は異世界でした。~誰がなんと言おうと、必ず元の世界へ帰りますから!

あみにあ

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☆閑話:異世界に居た彼の話:第八話

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そうして彼女が戻らないままに、6年の月日が流れ、俺は23歳になった。
父から聞いた話だが、彼女は俺よりも6歳年上だったらしい。
彼女の事は同じ年か……むしろ年下だと思っていたから驚きだった。
あれから6年……俺は彼女と同じ年になったのかと、改めて実感する。
だが彼女の姿はどこにもない。

6年たった今でも、彼女の姿は鮮明によみがえるんだ。
天真爛漫な彼女の笑み、心地よい彼女の声。
忘れる事などない。

俺は未だ婚約者も作らず、彼女を待ち続けていた。
帰ってくる保証などどこにもないのに。
両親はこんな俺に呆れ何も言ってはこなくなった。

こんな親不不幸者の俺だが……この6年続けた研究の功績が認められ、魔導師の中ではトップの役職である、王直属の魔術師へ就任した。
そんな中、ライト殿下は昨年結婚した。
彼は王族だ、子孫を成すことも仕事の一つ。
俺のように……待つことは出来なかったのだろう。
彼の心がまだ彼女に囚われたままでいるのか……それはわからないけどな……。


俺は今日も部屋で一人、魔術板を描きながら、ふと星が瞬く夜空を見上げた。
月が輝き雲一つない、美しい夜空。
そんな夜空を見上げながらに庭へ出ると、今も尚日課である池の方へ足をを進めていく。

「彼女は元気だろうか……。なぁ、本当に戻ってくると思うか?」

そんな不安な気持ちががポロリと言葉になって零れ落ちると、俺は池の前にしゃがみ込み、魚をじっと見つめてみる。
今日も相も変わらぬ池の様子に、馬鹿な事をしたと部屋に戻ろうと池に背をむけた刹那、大きな爆発音が轟いた。
俺はとっさに剣をとり、周辺を注意深く見渡す。
すると黒い人影が水しぶきの向こう側から、薄っすらと浮かび上がってきた。
もしかして……彼女が……いや、まだわからない。
俺は気配を殺しゆっくりと近づいていくと……そこには6年前と変わらない彼女が横たわっていた。
求めて続けていたその姿に俺は剣を落とすと、慌てて彼女の傍へと駆け寄る。

彼女だ。

本当に戻ってきた。

帰ってきてくれた。

今度こそ彼女に伝えよう。

俺は濡れた彼女の体を抱き上げると、そのまま胸の中へ閉じ込めた。

「大丈夫か?しっかりしろ」

そう何度も声をかけてみるが、彼女に反応はない。
俺は焦って彼女の呼吸を確認すると、胸はゆっくりと上下に揺れている。
その様にほっと胸なでおろす中、すぐに自分のローブを脱ぐと、冷えた彼女の体へ優しく巻き付けた。
そうして急いでメイドを呼び彼女を着替えさせ、俺のベットへと運んでいく。

目覚めたらすぐに伝えよう。

俺のこの気持ちを。

愛しい彼女を目の前に、俺は心が満たされていくのを感じた。

しかし現実とは残酷だった。

ようやく彼女に再会できたのに、なかなか目を覚まさない。

医者にも見せたが、どこにも異常はないと話す。

何か魔術がかかっているのかと、調べてみたがそれもなかった。

なぜ彼女は目覚めないのか。

どうして、どうして、どうして……ッッ。

ようやく会えたのに。

目を覚ましてくれ。

声を聞かせてほしいんだ。

もう一度笑った顔を見せてくれ。

お前が側にいてくれるなら何だってする……だから頼む。

どうか彼女を助けてくれ……。

冷たい彼女の手を握りしめたまま、強く願うが彼女が目覚める事なかった。





そうして彼女が目覚めぬままに、ひと月がたった。

息はしているようだが……深い眠りについたまま。

食べることも出来ない為、体の維持は魔術で行っている。

しかしそれも長く維持はできないだろう。

俺は彼女の手を握りしめて、傍に居る事しかできない。

日に日にやせ細っていく彼女の姿に目の前が闇に染まっていく。

どうして目を開けないんだ。

頼む、頼む、どうか目覚めてくれ……。

このまま彼女が目覚めなければ、彼女は死んでしまう。

不安と絶望に胸が押しつぶされていく中、頬に涙が伝っていく。

そのとき突然声が聞こえたんだ。

最初は幻聴か……と思いながらも恐る恐るに顔を上げると、そこには薄っすらと目を開けた彼女の姿があった。

 「おはよう」

懐かしく愛しい彼女の声。
ずっと聞きたかったその声を。
やっと、やっと……ッッ。
言いたいこと、伝えたいことがいっぱいあるんだ。

しかし言葉よりも先に体が動いていた。
俺は彼女を思いっきりに抱きしめると、美しい漆黒の瞳から涙がこぼれ落ちていく。
その泣き顔も愛おしくて、離す事なんて出来ない。

どうして泣いているんだ?そう問いかける事も出来ぬまま、俺は只々抱きしめていた。
彼女がそこにいることを確認するように。

もうどこにもいかないでくれ。

どうかこの胸の中、今だけは俺のものでいてくれ。

愛してるんだ、大好きなんだ。

彼女が初めて人を好きなる事を教えてくれた。

もう絶対に手放さないからな。
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