流れ着いた先は異世界でした。~誰がなんと言おうと、必ず元の世界へ帰りますから!

あみにあ

文字の大きさ
上 下
33 / 45

異世界へ行った彼女の話:第二十七話

しおりを挟む
坊主を渡らせてどれぐらい時間がたったかの……ある日坊主はどうやってかはわからぬが……魔術を使い、この岩のトンネルへと戻ってきおった。
死んだ魚のような目をした坊主が、突然儂の前に現れたのじゃ。
想像以上に成長したあやつの姿にそりゃ驚いた。
なんせこんなに生きられるはずがなかったのじゃからな。

なぜ来たのか?そう問いかけるとな、坊主はお前さんが魔力を帯び倒れたとそう話した。
そこでピンっときたんじゃ……。
まさか儂も……このようなことは想定しておらんかった。

あやつはお嬢さんの生命力を吸収して、生きておる事実に。
坊主の成長を見る限り単純計算すれば……お主の生命力は後数年で消えてしまうところまで吸収しておった。
だからお主が倒れた。
吸収した生命力は戻せないのが世の理、そして坊主は心を病んだ。

俺はなんてことをしてしまったんだ。

愛する彼女を利用し、彼女の人生を奪いながらに俺は生きていた。

彼女の側に居続けた俺はなんて愚かなんだろうか。

俺はどうしたらいい、どうすれば彼女を救えるんだ。

こんなはずじゃなかった……彼女の人生を狂わせる事など望んでいない。

悄然とする坊主に何の言葉もかけられんかった。
異界の渡りを許した儂に責はある。
儂もこんな事になるとは思っておらんかった。
何とかしてやらねば……そんな時ある事を思いついたんじゃ。

儂は提案したんじゃ、お主をこの世界へ渡そうとな。
あちらの世界へ渡れば、地球で数年の命だとしても、向こうでは何十年の命になるじゃろう。
方法はお主をこの場所へ連れて来るだけでいい。
その提案を聞いた坊主はようやく瞳に光が戻ってなぁ、だがいくつか不安要素があったようでな。
それは儂の魔力をあやつに与え解決したんじゃ。
そうして坊主はすぐさまお主の元へ急ぎ帰っていった。

そしてあの日、坊主はお主を海へ投げた。
お主から離れたあやつは消滅していったがなぁ……。

鯰の言葉に頭が真っ白になって行く中、もうグレンに会えない現実に、心が壊れそうなほどに痛み始める。

「だからじゃ、地球へ戻ればお主は死ぬ。坊主がいない世界へ戻る理由はないじゃろう。新しい世界に戻りんしゃい。最後に彼からの預かった手紙じゃ、もっておいき」

鯰はどこから取り出したのか……器用に尾ひれを使い真っ白な封筒を私の前へ差し出した。
私は狼狽する中、震える手を伸ばすと、封筒を受け取る。
その瞬間、突然強い海流が流れ出すと、空気の泡が辺りを包み始める。

「この場所はもうすぐ消える。さすればここは只の池にもどるじゃろう。そろそろ時間じゃ」

息が……苦しい……魔術はまだ効いているはずなのに……。
必死に水中で陣を描こうとするが、海流が激しくそんなどころではない。
嘘……ッッ、嫌、待って、待って!!!
そう叫んでみるが、声は泡に溶け鯰にはとどく事はない。

「本当にすまなかった。全ては儂のせいなんじゃ……」

息苦しさに悶える中、洞窟が細かい泡にとけていくと、鯰の姿が霞んでいく。

「人間の人生を狂わせるつもりはなかったんじゃ。こんな謝罪では許してはもらえんだろうが……儂はおまえさんに坊主の分も生きてほしいと望んでおる」

水が私を押し上げていく中 体が強く引き寄せられると、水渦に飲み込まれる。
陣で照らしていた光が消え、空気の泡が激しく舞い上がる中、視界が闇へ染まっていった。
息苦しさに意識が遠のいていく中、私はグレンの名を何度も何度も心の中で叫ぶ。

グレン、グレン、グレン……ッッ。

本当にもう会えないの?

あなたは死んでしまったの?

ねぇ、どうして言ってくれなかったの?

生命力なんていくらでもあげたのに……。

あなたのいない世界に価値などないのに……。

私が生きてこられたのは彼が居たから……。

あなたのいない世界なんて耐えられないの。

だから約束したじゃない。

ずっと一緒にいようって……。

なのに私に生きろと言うの……?

あなたのいない世界で……?

次第に朦朧としてくる中、私は手紙をしっかり握りしめると、ゆっくりと意識を手放した。





ふと目を開けると、よく知る海辺へ佇んでいた。
隣には愛しいグレンの姿。
今までは全て夢だったんだ。
嬉しさに彼を抱きしめようとすると、グレンはなぜか首を横に振った。

「ごめんね。手紙を返してほしいんだ」

「手紙?」

私はそっと右手を持ち上げると、そこには鯰からもらった封筒がクシャクシャに握りしめられていた。
手紙……じゃあれは夢じゃなかった……?

「これ?でも……これはあなたが……」

「うん、だけど君の新しい人生に必要ないと思うんだ。だから……ね。君には俺の生まれた世界で幸せになってほしい」

グレンは私から手紙を奪うと、ニッコリと笑みを浮かべながらにその姿が薄れていく。

「待って!!!」

そう必死に手を伸ばすが、私の手は空を切り、彼の姿は消え去ってしまった。
どこへ行ったの?
辺りをグルリと見渡してみると、波がゆっくりと引いていく砂浜で、よく知る海の家が見える。
私達が暮らしていたあの家。

懐かしい気持ちでじっと家を眺めていると、ふと異変に気が付いた。
そっと目を閉じ心を落ち着かせる中、周りの音が一切聞こえない。
波の音も、風の音も、砂の音も……。
耳が聞こえなくなってしまったのだろうか、とあーと声を出してみると、その音ははっきりと耳にとどいた。

もう一度顔を上げ辺りへ目を向けてみると、人の姿はどこにもなく、道路には車も走っていない。
明らかに不自然なその光景に、私はその場でガクッと膝をついた。

「私はやっぱり戻れなかったんだ……そして彼はもういない」

そう呟いた瞬間、テレビの電源が切れるようにプツリッと視界が闇に染まっていった。





ふと眩しい光に瞳を開けると、そこは見覚えのある部屋だった。

真っ白なテーブルに豪華なデザインの壁、窓の外には大きな池が見える。

寝起きで頭がぼうっとする中、手から温かい熱を感じ、私は徐に視線を向けると、そこにはエルヴィンが俯きながらに、私の手をしっかり握りしめていた。
またこの世界へ戻ってきたんだ……。
そう心の中で呟くと、私は彼の姿に笑みを浮かべながらに、ゆっくりと口を開く。

「おはよう」

するとエルヴィンは目を見開きながらに顔を上げると、頬には大粒の涙が流れていた。
彼のエメラルドの瞳を見つめていると、私が知るエルヴィンよりも大分大人に成長している。
そんな姿に戸惑う中、彼は私の体を抱きしめると、その腕は微かに震えていた。
あぁ……そっか、時間の流れが違うからかな……。

私が去って行ってから、どれぐらい時間が流れたのだろう。
彼はこんな私を待っていてくれていたのかな……。
震える彼の体をそっと抱き返し、熱を感じながらに胸の中へ顔を埋めていると、私の頬に水滴が流れていった。

もう元の世界へは戻ることが出来ない事実。

そして彼に会うことは出来ない事実に。

彼がいないこの世界でどうすればいいのかわからないけど……私はこの世界で生きていくしかない。

彼がそう望んでいるのだから……。

エルヴィンの腕の中で新たな思いを胸に、そっと瞳を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...