29 / 45
異世界へ行った彼女の話:第二十三話
しおりを挟む
あの日エルヴィンと城へ戻ると、彼は一言も話さぬままに部屋へ戻って行った。
私はなんと声をかけていいのかわからなくて……何も出来なかった。
怪我は大丈夫かな……後でオリヴィアに聞いてみよう。
彼がいなくなった廊下を眺める中、私は部屋へ戻らず一人研究室へ向かうと、買ってもらった魔術板を取り出した。
別の生き物になる事ができる魔術。
これを使って水の中でも呼吸が出来る生き物に……。
そうなれば……深い池の底へ潜ることが出来る。
後は水圧をどうするか……。
これはシャボン玉のようなものを作って強化してみよう。
先にまずこの魔術板を解読しないと。
オリヴィアに研究室にいる事を伝え、私は誰もいない部屋の中、只々魔術板を見つめていた。
いくつも重ねられた複合魔術。
複雑だけれども解けない事はない。
私は魔術板に描かれた陣を指でなぞっていくと、ノートを取り出した。
どれぐらいそうしていたのだろうか……一つ一つの陣を読み解き、ノートへと書き記していく。
書き記した陣を魔術板へ書き込み発動させていく中、次第に特徴がつかめてきた。
この魔術板を使用した時、私は動物になった。
この土の陣木の陣これが何に変身するのか、決め手になっている。
ならここを水と木に変えればいけるのかな。
とりあえずものは試し、やってみよう。
でもこれを一つ完成させる為には、最低でも一か月はかかっちゃうな。
私は深く息を吸い込むと、体を預けるように椅子へともたれかかった。
窓から差し込む月明かりをぼうっと眺める中、ガチャリと音と共に扉が開く。
体を起こさず怠惰に扉の先へ視線を向けると、そこにはライト殿下が佇んでいた。
彼の姿に私は慌てて体を起こすと、勢いのままに立ち上がる。
「すみません、お見苦しい姿をお見せして……」
私は苦笑いを浮かべる中、彼はクスクスと肩を揺らせて笑うと、こちらへと近づいてきた。
「楽にしてくれていい。こんな時間にすまない。どうしても君に伝えたい事があったんだ。それで君の部屋に会いに行ったんだけど……研究室にいると聞いてね」
彼の声に愛しいグレンの姿が何度も頭をよぎる。
本当に声が同じでビックリするな……目を閉じれば……グレンが居るような気がする……。
私は動揺を隠すように無理矢理笑みを浮かべると、真っすぐに顔をあげた。
「私に話ですか?……どんな事でしょうか?」
彼はさりげなく私の隣へ腰かけると、手にしていた本を開いて見せる。
「これを見てほしい、王族に伝わる日録なんだ」
「へぇっ、王族の日碌!?いやいや私みたいな一般人が見ていい物じゃないですよ!」
私は思わず日録から視線を逸らせると、滅相もないと首を横へ振った。
「大丈夫。もちろん全部を見せることは出来ない。……ただ気になる言葉を見つけたから、君にぜひ見てほしいんだ。この間の生誕祭で君から話を聞いた時に、どこかで見たことがあるとずっと感じていた。記憶の片隅すぎて、見つけるのに時間がかかってしまったけれど、今日ようやく発見した」
ライトはグイッと日録なる物を視線の先へ持ってくると、私は恐る恐るに覗き込んだ。
字がズラリと書かれ、大切に保管されていたのだろう、多少の色褪せはあるが、紙は綺麗に保たれている。
「これを見て。120年前の記述なんだけどね……」
彼は文字の中から一節を指さすと、私は彼の指先を追っていく。
<太陽が動き、色が変わる。水に沈むその様は美しいと。僕も一度でいいから見てみたい>
これって……私の世界の事?
でもこの書き方だと、書いた本人は見ていない。
一体誰に聞いたのかしら……?
「君の話していた世界と、とても類似しているだろう。もしかしたら120年前に、君のように誰がこの世界へ渡ってきたのかもしれない。だが残念だけれども、これを話した人物の情報についていは一切書かれていないんだ」
昔に……誰かがこの世界へやってきた……私と同じように……。
衝撃的な事実に狼狽する中、彼はペラペラとページを捲って行くと、文章の最後にサインが書かれていた。
「ライト……?ライト殿下と同じお名前なの?」
「あぁ、僕の名前は彼から取られた物なんだ。何でも僕の姿や魔力の色が同じよく似ているらしい。それで前々の王が僕に彼の名を与えた」
彼の言葉にコクコクと頷く中、私はじっと日録を目で追っていくと、ふと兄という文字が目に飛び込んだ。
「ねぇ、この方にお兄さんが居たの?でも弟さんが王になった……?」
「あぁ、そうだ。兄は居たけれど……幼いころ水難事故で死んでしまったらしい。詳しいことは記録に残っていないんだ」
水難事故……?
彼の言葉に何か引っかかりを覚える中、私はじっと日録を見つめていた。
「あぁ、すまない。研究の邪魔をしてしまって」
「いえ、貴重な情報を頂けてとても嬉しいです。ありがとうございました」
私は日録から視線を外すと、彼を見上げるように視線を向けた。
日録を閉じると、よかったと優し気な笑みを浮かべながらに顔を寄せる。
彼は私の頬へ手を伸ばすと、冷たい彼の指先が頬を伝っていく中、なんだかむず痒い空気に、私は思わず視線を逸らせた。
すると彼は小さく笑ったかと思うと、手を引っ込め覗き込むように視線を向ける。
「ところで何の研究をしているだ?」
「へぇっ……あー、えーと、元の世界へ戻る手掛かりを見つけようと思ってまして……」
私はまだ未完成の魔術板を見せると、彼は驚いた様子で目を大きく見開いた。
「君はまだ帰ろうとしているのか?」
「はい、大事な人を残してきてしまったから……。だから無理だと言われてもあきらめきれないんです」
グレンの顔が頭によぎると、胸がギュッと締め付けられる。
きっと彼は待っている……。
「……そうか、僕も何か力になれることがあれば協力するよ」
彼は優しく笑みを浮かべると、私はありがとうございますと深く頭を下げた。
私はなんと声をかけていいのかわからなくて……何も出来なかった。
怪我は大丈夫かな……後でオリヴィアに聞いてみよう。
彼がいなくなった廊下を眺める中、私は部屋へ戻らず一人研究室へ向かうと、買ってもらった魔術板を取り出した。
別の生き物になる事ができる魔術。
これを使って水の中でも呼吸が出来る生き物に……。
そうなれば……深い池の底へ潜ることが出来る。
後は水圧をどうするか……。
これはシャボン玉のようなものを作って強化してみよう。
先にまずこの魔術板を解読しないと。
オリヴィアに研究室にいる事を伝え、私は誰もいない部屋の中、只々魔術板を見つめていた。
いくつも重ねられた複合魔術。
複雑だけれども解けない事はない。
私は魔術板に描かれた陣を指でなぞっていくと、ノートを取り出した。
どれぐらいそうしていたのだろうか……一つ一つの陣を読み解き、ノートへと書き記していく。
書き記した陣を魔術板へ書き込み発動させていく中、次第に特徴がつかめてきた。
この魔術板を使用した時、私は動物になった。
この土の陣木の陣これが何に変身するのか、決め手になっている。
ならここを水と木に変えればいけるのかな。
とりあえずものは試し、やってみよう。
でもこれを一つ完成させる為には、最低でも一か月はかかっちゃうな。
私は深く息を吸い込むと、体を預けるように椅子へともたれかかった。
窓から差し込む月明かりをぼうっと眺める中、ガチャリと音と共に扉が開く。
体を起こさず怠惰に扉の先へ視線を向けると、そこにはライト殿下が佇んでいた。
彼の姿に私は慌てて体を起こすと、勢いのままに立ち上がる。
「すみません、お見苦しい姿をお見せして……」
私は苦笑いを浮かべる中、彼はクスクスと肩を揺らせて笑うと、こちらへと近づいてきた。
「楽にしてくれていい。こんな時間にすまない。どうしても君に伝えたい事があったんだ。それで君の部屋に会いに行ったんだけど……研究室にいると聞いてね」
彼の声に愛しいグレンの姿が何度も頭をよぎる。
本当に声が同じでビックリするな……目を閉じれば……グレンが居るような気がする……。
私は動揺を隠すように無理矢理笑みを浮かべると、真っすぐに顔をあげた。
「私に話ですか?……どんな事でしょうか?」
彼はさりげなく私の隣へ腰かけると、手にしていた本を開いて見せる。
「これを見てほしい、王族に伝わる日録なんだ」
「へぇっ、王族の日碌!?いやいや私みたいな一般人が見ていい物じゃないですよ!」
私は思わず日録から視線を逸らせると、滅相もないと首を横へ振った。
「大丈夫。もちろん全部を見せることは出来ない。……ただ気になる言葉を見つけたから、君にぜひ見てほしいんだ。この間の生誕祭で君から話を聞いた時に、どこかで見たことがあるとずっと感じていた。記憶の片隅すぎて、見つけるのに時間がかかってしまったけれど、今日ようやく発見した」
ライトはグイッと日録なる物を視線の先へ持ってくると、私は恐る恐るに覗き込んだ。
字がズラリと書かれ、大切に保管されていたのだろう、多少の色褪せはあるが、紙は綺麗に保たれている。
「これを見て。120年前の記述なんだけどね……」
彼は文字の中から一節を指さすと、私は彼の指先を追っていく。
<太陽が動き、色が変わる。水に沈むその様は美しいと。僕も一度でいいから見てみたい>
これって……私の世界の事?
でもこの書き方だと、書いた本人は見ていない。
一体誰に聞いたのかしら……?
「君の話していた世界と、とても類似しているだろう。もしかしたら120年前に、君のように誰がこの世界へ渡ってきたのかもしれない。だが残念だけれども、これを話した人物の情報についていは一切書かれていないんだ」
昔に……誰かがこの世界へやってきた……私と同じように……。
衝撃的な事実に狼狽する中、彼はペラペラとページを捲って行くと、文章の最後にサインが書かれていた。
「ライト……?ライト殿下と同じお名前なの?」
「あぁ、僕の名前は彼から取られた物なんだ。何でも僕の姿や魔力の色が同じよく似ているらしい。それで前々の王が僕に彼の名を与えた」
彼の言葉にコクコクと頷く中、私はじっと日録を目で追っていくと、ふと兄という文字が目に飛び込んだ。
「ねぇ、この方にお兄さんが居たの?でも弟さんが王になった……?」
「あぁ、そうだ。兄は居たけれど……幼いころ水難事故で死んでしまったらしい。詳しいことは記録に残っていないんだ」
水難事故……?
彼の言葉に何か引っかかりを覚える中、私はじっと日録を見つめていた。
「あぁ、すまない。研究の邪魔をしてしまって」
「いえ、貴重な情報を頂けてとても嬉しいです。ありがとうございました」
私は日録から視線を外すと、彼を見上げるように視線を向けた。
日録を閉じると、よかったと優し気な笑みを浮かべながらに顔を寄せる。
彼は私の頬へ手を伸ばすと、冷たい彼の指先が頬を伝っていく中、なんだかむず痒い空気に、私は思わず視線を逸らせた。
すると彼は小さく笑ったかと思うと、手を引っ込め覗き込むように視線を向ける。
「ところで何の研究をしているだ?」
「へぇっ……あー、えーと、元の世界へ戻る手掛かりを見つけようと思ってまして……」
私はまだ未完成の魔術板を見せると、彼は驚いた様子で目を大きく見開いた。
「君はまだ帰ろうとしているのか?」
「はい、大事な人を残してきてしまったから……。だから無理だと言われてもあきらめきれないんです」
グレンの顔が頭によぎると、胸がギュッと締め付けられる。
きっと彼は待っている……。
「……そうか、僕も何か力になれることがあれば協力するよ」
彼は優しく笑みを浮かべると、私はありがとうございますと深く頭を下げた。
0
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

収納大魔導士と呼ばれたい少年
カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。
「収納魔術師だって戦えるんだよ」
戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる