流れ着いた先は異世界でした。~誰がなんと言おうと、必ず元の世界へ帰りますから!

あみにあ

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異世界へ行った彼女の話:第二十話

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そうして街へ到着すると、窓から見える西洋な風景に胸が高鳴っていく。
この世界へ来て一年、一度も街へ出たことはなかった。
お金もないし、外出したいという機会もなかったもんね。
それに……元の世界へ戻るための研究に必死だった。

こうして街の様子を改めて眺めてみると、本当に私の居た世界とは全然違う。
車なんて走っていないし、道もコンクリートで舗装されておらず、電信柱もたっていない。
私の世界へ来る前の彼は……この街を歩いていたのだろうか。
そんな事を考えながらに、過ぎ去っていく街並みを、私は只々じっと眺めていた。

そうしてようやく馬車が止まると、エルヴィンは徐に立ち上がる。
その姿につられるように体を起こすと、彼は私の手をさりげなく握りしめた。
エスコートされるままに外へ出ると、砂利道をしっかりと踏みしめる。
ゆっくりと辺りを見渡してみると、賑わう街並みに胸が躍った。

すごい……何だか新鮮だな。
キョロキョロと辺りを眺めていると、エルヴィンは私の手を引きながらに、目の前に見える店の中へと足を向ける。
店の外観は、年季が入り、綺麗とは言い難い。
そっと扉の向こう側へ目を向けてみると、店内は薄暗いのだろう……はっきりとみる事が出来ない。
何の店だろう……。

わからないまま彼に連れられるように店内へと入っていくと、そこは見たこともない不思議な空間だった。
薄暗い店内に、点々と光がともっている。
光の色は様々で、星が瞬いているかのように幻想的だった。

私は覗き込むように光へ目を向けると、そこには魔術が描かれている宝石のようなものが飾られている。
この魔術……変わっているわね。
光をメインに、う~ん……風の魔術も練り込まれているわ。
一体どんな効果があるのかしら……?

「いらっしゃい~エルヴィン坊ちゃま。おぉ、珍しいねお供以外のお連れさんかい?」

店内の奥から聞こえる声に顔を向けると、そこには紳士的なお爺さんが佇んでいた。
その姿に私は慌てて頭を下げると、ほっほほと楽しそうな笑い声が耳に届く。

「おやおや、別嬪なお嬢さんだねぇ。とうとうエルヴィン坊ちゃんも婚約者を……」

「違う!こっ、こいつはただの同僚だ!」

お爺さんの言葉を遮るようにエルヴィンは声を荒げると、繋がれていた手をパッと離した。
そんな彼の様子に私は苦笑いを浮かべると、そっと彼から距離を取る。
これほどはっきり否定されると、気まずいものがあるなぁ。
まぁ……婚約者なんて、よそ者でしかも年齢差を考えても当然の対応だけどね。

そうして何やら話し合う二人を横目に、私は店内を歩いてみると、ふと気になる魔術板が目に映った。
それはとても複雑で、何を描いているのかさえ分からない。
こんな魔術もあるのねぇ。
そう繁々と魔術板を眺めていると、ふと隣に人の気配を感じた。

「ほっほっほ、この魔術板が気になりますかいな?」

お爺さんの言葉に素直に頷くと、彼は魔術板へと手を伸ばした。
そのまま私の前へ差し出すと、クシャと皺をよせニッコリと笑みを深めて見せる。

「難しい魔術式じゃろ。どうじゃ一度使ってみるかい?」

「宜しいのですか?」

恐る恐る魔術板を受け取ると、お爺さんはコクリと深く頷いて見せる。
その様子に私は魔術板へゆっくりと魔力を流し込んでみると、板が茶色く光っていく。
その光は私を包みこむように覆っていくと、目の前が赤茶色に染まっていった。
なっ、何これ……。
驚きのあまり目を見開き固まる中、耳とお尻の方に違和感を感じる。
うぅ……ちょっと何が起こっているの!?
次第に強くなっていく光に思わず瞳を閉じると、辺りが真っ白に染まっていった。

暫くしようやく光がおさまる気配を感じると、私は恐る恐るに目を開ける。
そうして魔術板を確認してみると、何も変化はないようだ。
一体何の魔術だったのかしら……?

「おっ、お前!!なっ、何だその姿は!」

後方から聞こえたその声に振り返ると、目を大きく見開いたエルヴィンと視線が絡む。
彼の言葉に徐にショーウィンドーへ目を向けてみると、そこに自分の姿は映し出された。
姿……?
首を傾げながらに映り込む自分の姿へ視線を向けると、そこには白のワンピース姿に獣耳と長い尻尾がのぞかせている。

「ひゃっ、なっ、なにこれ!?」

私は慌てて頭についた耳と尻尾を触ってみると、どうやら作り物ではなく、触った感触が伝わってくる。
ひぇぇぇぇ、本物!?
えっ、どうなっているの!?

「ほほほっ、その魔術板の効力は面白いじゃろ~。人間が獣になれるのじゃ。お遊びで作ってみたんじゃがなかなか良いなぁ~」

はぁ!?獣になれる……?
お爺さんの言葉に疑問符が浮かぶ中、私はハッと勢いよく振り返った。

「これ!?いやいや……ええええ。どうすれば戻るの?」

「そうじゃなぁ、数十分もすれば戻るじゃろ。じゃがもったいないの~、よく似合っておるのに」

お爺さんは私の姿をまじまじと見つめたかと思うと、とんでもないことを口走る。
いやいや……こんなコスプレ感満載……恥ずかしい……。
私は咄嗟に耳を手で覆うと、なぜか尻尾がひとりでに揺れ始める。
そんな自分の様子に恥ずかしさのあまりにその場から逃げ出すと、私は二人の視界から外れるように身を隠した。






********おまけ********

「新しい魔術板じゃが、えぇじゃろ」

「バカ、おっさんが何やってるんだよ!!!」

「ほほほほ、そんなに顔を真っ赤にして可愛いの~」

先ほどの恥ずかしそうにする彼女の姿が頭をよぎると、どんどん熱が高まっていく。
弱弱しい小動物みたいで……ああぁ何を考えているんだ!!
何とも言えぬ思いが胸にこみ上げる中、俺は爺さんをキッと睨みつけると、蹲る彼女の傍へと向かっていく。

「……大丈夫か?」

そう声をかけてみると、彼女は瞳を潤ませながらに顔を上げた。
その姿に俺は思わず視線を逸らせると、激しく波打つ心臓を必死に抑え込んでいた。

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