20 / 45
☆閑話:異世界に居た彼の話:第一話(エルヴィン視点)
しおりを挟む
俺は人が嫌いだ。
権力にこびへつらう上辺だけの態度に、私利私欲のために他人を利用し、息を吐くように嘘をつく。
弱い物を蔑む視線や、他人の不幸を喜び、あざ笑うそんな人間ばかりを見てきた。
そんな中でも特に女は大嫌いだった。
派手な化粧を纏い、臭い香水を身につけ、男にすり寄る。
権力や地位を持った男、見目が良い男、上っ面だけを見て、体を差し出そうとする。
甲高い声で自分勝手な話をし、こちらの態度が悪いとすぐに怒り泣きわめく。
プライドが高く、自分を着飾ることにしか興味がない。
そうして俺は12歳で社交界に出るようになり、そんな女たちを目の当たりにしていると、女を見るだけで、嫌悪感を抱くようになった。
女には優しくしろ、とよく父上に言われていたが……底の浅い女相手に気を使うのも疲れ、俺はデビュー数か月後には、女に対して冷たい態度をとり、辛辣な言葉を投げつけるようになった。
しかしそんな態度をとっても、女たちは懲りずに俺へ近づいてくる。
城を歩けば甲高い声で叫び、煩わしいことこの上ない。
はぁ……全く女の考えることはさっぱりわからない。
わかりたくもないが……。
そうして俺が14歳になった頃から、婚約者をみつけろと両親が煩くなってきた。
まぁ……社交界デビューをしてからずっと言い続けられ……煩わしさに聞き流していた自分も悪いが……。
さすがにそろそろ、このままでいる事は限界のようだ。
通常であれば、デビューして一年以内に婚約者を作ることが、この世界では当たり前なこと。
だが人を遠ざけ続け、女を嫌っている俺には婚約者を作るなんて、出来るはずもない。
ましてや女と二人っきりで会わなければいけないと考えると、ゾッとする。
どうするべきか……このまま婚約者を作らなくて良い方法はないものか……。
そんな事に頭を悩ませながらに、珍しく部屋で引きこもっていたあの日。
カリカリ、カリカリカリッ。
俺は今年最年少で王宮の魔術師としての職に就き、魔術の研究に明け暮れる毎日。
普通であれば学園に通わなければいけない年だが……人との関りを持ちたくない俺は王宮に就職する事で、学園を免除してもらっていた。
基本研究の為、城の塔へ引きこもっている事が多いのだが……これだけ書類がたまってしまえばさすがにまずい。
だから俺はひたすらに目の前に積まれている書類を片付けていた。
書類に目を走らせる中、ふと微かに何かチカッと光った。
横目に見えたその光にペンを止め、窓のほうへ目を向けてみると、庭にある小さな池へ視線を向ける。
なんだ……何か一瞬、池がひかったような。
池を観察するようにじっと見つめてみるが、何の変化もない。
気のせいかと思い書類に目を戻そうとしたその刹那……突然池の水が爆発したような水しぶきをあげると、辺り一面を濡らしていった。
ドカーンッ、ヴァサッ、ヴァサアアアッッ。
「はぁ、……ッッ、はぁ……、はぁ、はぁ、はぁ……ッッ」
突然の事に動揺する中、庭の外に人の息遣いが耳に届く。
誰かいる……。
水しぶきの中微かに映る人影に、俺はすぐに剣を取ると、慎重に庭へと足を踏み出した。
「お前は何者だ」
俺は迷うことなく、座り込む女の細く白い首に剣先を向けた。
女はひどく驚いた様子を見せたかと思うと、体が小刻みに震えている。
水にぬれた髪からポタポタと水滴が落ち、スッと目を細めながらに女を眺めてみると、美しい漆黒の髪をひとつに束ね、吸い込まれそうな闇の瞳と視線が絡んだ。
その瞳に魅入られるように釘付けになると、目をそらすことが出来ない。
どれぐらいそうしていただろか……女に見惚れたのは生まれて初めての経験だ。
そんな自分に狼狽する中、まるで時間が止まったかのように、辺りはシーンと静まり返っている。
そんな中、ハッと我に返り慌ててその瞳から視線を逸らせると、女の露出された滑らかな肌が視界に映った。
胸と下半身の一部以外、白い滑らかな肌がむき出しになっている……なんて格好をしているんだ!!!
「何かしゃべれ。お前のその……はっ、破廉恥服装はなんだ!娼婦でも今時そんな恰好はしない!」
そう怒鳴るように声を荒げると、黒髪の美しい女は唖然としたままに、自分の体を確認するよう頭を垂れる。
そして確認が終わったのだろうか……彼女は徐に顔を上げると、不思議そうにその澄んだ目で俺へ視線を向けた。
そんな女の様子に俺はとっさに羽織っていたローブを掴みむと、女へ無造作に投げつける。
「あぁっ、くそっ、見れたものじゃない!今すぐこれを羽織れ」
すると女はローブを肩へ羽織ると、考え込むように口を閉ざした。
その様子に何も言わないのか!と強く言い放つと、勢いそのままに剣先を彼女に近づける。
切先は水が乾ききっていない白い彼女の首に軽く触れてしまうと、赤い血が静かに流れ落ちていった。
ちっ……やってしまった、泣くか……?
あぁ、くそっ、泣けばうるさくなるな……煩わしい。
これだから女は嫌いなんだ。
そう思うと、俺は嫌悪の表情を浮かべながらに視線を逸らせる。
すると美しい透き通るような声が耳に届いた。
「……っっ、あの……ローブ……ありがとうございます」
その声に慌てて顔を向けると、女は泣く様子もなく、真っすぐに俺を見つめていた。
なんなんだ、この女は……?
この状況下で礼言い放った女に驚く中、しかしよく考えてみると、この女危機感がなさすぎではないかと呆れ、俺は深いため息をついた。
よくわからない女だ……。
だがとりあえずこんなところで話していてもしょうがないだろう。
この女が一体何者なのかはわからないが、無断で王宮に侵入した。
さっさと捕まえて、騎士にでも預けよう。
そう考えると俺は剣を納めながらに、座り込む女の腕を強く掴みながらに、強引に立ち上がらせた。
権力にこびへつらう上辺だけの態度に、私利私欲のために他人を利用し、息を吐くように嘘をつく。
弱い物を蔑む視線や、他人の不幸を喜び、あざ笑うそんな人間ばかりを見てきた。
そんな中でも特に女は大嫌いだった。
派手な化粧を纏い、臭い香水を身につけ、男にすり寄る。
権力や地位を持った男、見目が良い男、上っ面だけを見て、体を差し出そうとする。
甲高い声で自分勝手な話をし、こちらの態度が悪いとすぐに怒り泣きわめく。
プライドが高く、自分を着飾ることにしか興味がない。
そうして俺は12歳で社交界に出るようになり、そんな女たちを目の当たりにしていると、女を見るだけで、嫌悪感を抱くようになった。
女には優しくしろ、とよく父上に言われていたが……底の浅い女相手に気を使うのも疲れ、俺はデビュー数か月後には、女に対して冷たい態度をとり、辛辣な言葉を投げつけるようになった。
しかしそんな態度をとっても、女たちは懲りずに俺へ近づいてくる。
城を歩けば甲高い声で叫び、煩わしいことこの上ない。
はぁ……全く女の考えることはさっぱりわからない。
わかりたくもないが……。
そうして俺が14歳になった頃から、婚約者をみつけろと両親が煩くなってきた。
まぁ……社交界デビューをしてからずっと言い続けられ……煩わしさに聞き流していた自分も悪いが……。
さすがにそろそろ、このままでいる事は限界のようだ。
通常であれば、デビューして一年以内に婚約者を作ることが、この世界では当たり前なこと。
だが人を遠ざけ続け、女を嫌っている俺には婚約者を作るなんて、出来るはずもない。
ましてや女と二人っきりで会わなければいけないと考えると、ゾッとする。
どうするべきか……このまま婚約者を作らなくて良い方法はないものか……。
そんな事に頭を悩ませながらに、珍しく部屋で引きこもっていたあの日。
カリカリ、カリカリカリッ。
俺は今年最年少で王宮の魔術師としての職に就き、魔術の研究に明け暮れる毎日。
普通であれば学園に通わなければいけない年だが……人との関りを持ちたくない俺は王宮に就職する事で、学園を免除してもらっていた。
基本研究の為、城の塔へ引きこもっている事が多いのだが……これだけ書類がたまってしまえばさすがにまずい。
だから俺はひたすらに目の前に積まれている書類を片付けていた。
書類に目を走らせる中、ふと微かに何かチカッと光った。
横目に見えたその光にペンを止め、窓のほうへ目を向けてみると、庭にある小さな池へ視線を向ける。
なんだ……何か一瞬、池がひかったような。
池を観察するようにじっと見つめてみるが、何の変化もない。
気のせいかと思い書類に目を戻そうとしたその刹那……突然池の水が爆発したような水しぶきをあげると、辺り一面を濡らしていった。
ドカーンッ、ヴァサッ、ヴァサアアアッッ。
「はぁ、……ッッ、はぁ……、はぁ、はぁ、はぁ……ッッ」
突然の事に動揺する中、庭の外に人の息遣いが耳に届く。
誰かいる……。
水しぶきの中微かに映る人影に、俺はすぐに剣を取ると、慎重に庭へと足を踏み出した。
「お前は何者だ」
俺は迷うことなく、座り込む女の細く白い首に剣先を向けた。
女はひどく驚いた様子を見せたかと思うと、体が小刻みに震えている。
水にぬれた髪からポタポタと水滴が落ち、スッと目を細めながらに女を眺めてみると、美しい漆黒の髪をひとつに束ね、吸い込まれそうな闇の瞳と視線が絡んだ。
その瞳に魅入られるように釘付けになると、目をそらすことが出来ない。
どれぐらいそうしていただろか……女に見惚れたのは生まれて初めての経験だ。
そんな自分に狼狽する中、まるで時間が止まったかのように、辺りはシーンと静まり返っている。
そんな中、ハッと我に返り慌ててその瞳から視線を逸らせると、女の露出された滑らかな肌が視界に映った。
胸と下半身の一部以外、白い滑らかな肌がむき出しになっている……なんて格好をしているんだ!!!
「何かしゃべれ。お前のその……はっ、破廉恥服装はなんだ!娼婦でも今時そんな恰好はしない!」
そう怒鳴るように声を荒げると、黒髪の美しい女は唖然としたままに、自分の体を確認するよう頭を垂れる。
そして確認が終わったのだろうか……彼女は徐に顔を上げると、不思議そうにその澄んだ目で俺へ視線を向けた。
そんな女の様子に俺はとっさに羽織っていたローブを掴みむと、女へ無造作に投げつける。
「あぁっ、くそっ、見れたものじゃない!今すぐこれを羽織れ」
すると女はローブを肩へ羽織ると、考え込むように口を閉ざした。
その様子に何も言わないのか!と強く言い放つと、勢いそのままに剣先を彼女に近づける。
切先は水が乾ききっていない白い彼女の首に軽く触れてしまうと、赤い血が静かに流れ落ちていった。
ちっ……やってしまった、泣くか……?
あぁ、くそっ、泣けばうるさくなるな……煩わしい。
これだから女は嫌いなんだ。
そう思うと、俺は嫌悪の表情を浮かべながらに視線を逸らせる。
すると美しい透き通るような声が耳に届いた。
「……っっ、あの……ローブ……ありがとうございます」
その声に慌てて顔を向けると、女は泣く様子もなく、真っすぐに俺を見つめていた。
なんなんだ、この女は……?
この状況下で礼言い放った女に驚く中、しかしよく考えてみると、この女危機感がなさすぎではないかと呆れ、俺は深いため息をついた。
よくわからない女だ……。
だがとりあえずこんなところで話していてもしょうがないだろう。
この女が一体何者なのかはわからないが、無断で王宮に侵入した。
さっさと捕まえて、騎士にでも預けよう。
そう考えると俺は剣を納めながらに、座り込む女の腕を強く掴みながらに、強引に立ち上がらせた。
0
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

収納大魔導士と呼ばれたい少年
カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。
「収納魔術師だって戦えるんだよ」
戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる