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異世界へ行った彼女の話:第十七話
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私はじっと足元を見つめ続ける中、彼は私のすぐそばで足を止めると、黒い靴が視界に映る。
彼の顔を見ることも出来ぬままに、その場に硬直していると、強い風が吹き抜けた。
庭の草木が揺れガサガザと音が耳に響く中、エルヴィンが深く息をつく様子に、自然と肩が小さく跳ねる。
「……会場にあんたの姿がなくて、ずっと探してた。だが……まさかこんな人気のない場所で、第一王子と一緒にいるとはな……。一体二人っきりで、こんなところで何をしていたんだ?」
静かに放たれる言葉に、なぜか責められているような気持ちになると、私は慎重に言葉を紡いでいく。
「えっ、あの……彼……えーと、殿下が私の世界の話を聞きたいとおっしゃったので……。それで……あのっ、ここで話をしていました……」
「話……あんたはあんな至近距離で、見つめあいながらに男と話をするのか?」
「えっ、いや、あれは……その……私が泣いているのを心配してくれて……うぅ……」
思わず謝りそうになる中、何とかそこで言葉を止める。
彼から不穏なオーラがビシビシと突き刺さる中、私は未だに顔を上げることが出来ないままだ。
これは相当怒っている……怖いよ……。
そこそこ長い付き合いの中、彼は表情をあまり変えることはないが……不機嫌になると口調ですぐにわかる。
今まさにその状況だ。
「なら……どうして泣いていたんだ?……何かされたのか?」
「ちっ、違うよ!!!その……前の世界を思い出したら、なんだか懐かしくなって、それで思わず涙が……」
私は訴えかけるように顔を上げると、エメラルドの瞳が私を見定めるようにじっと見つめていた。
その瞳に魅入られる中、彼はゆっくりと腕を持ち上げると、そっと私の頬へ添える。
「はぁ……何もなくて安心した。いきなり居なくなるな。……あんたは俺の……パートナーなんだからな……」
「えっ、あっ、そうだよね……。心配をかけてごめんなさい」
そう項垂れるように頭を下げると、何とも言えない沈黙が二人を包みこむ。
長い静寂に私は耐えきれなくなると、話題を変えるように、手にしていた袋を持ち上げて見せた。
「そっ、そうだ、15歳の誕生日おめでとう。あのね、私からもプレゼントがあるんだ。その……宝石とか花とか……そんな良い物じゃないんだけれど……」
エルヴィンは私の言葉に大きく目を見張ると、袋をじっと見つめている。
すると彼は少しばかり表情を緩めると、先ほどの緊迫していた雰囲気が少し和らいだ。
「……ありがとう……もらってもいいのか?」
「へへっ、これは物じゃないんだ。ねぇ、こっちへきて」
私はエルヴィンの手を引くと、先ほどのテラスへと誘っていく。
彼を椅子へ座らせ、袋から魔術板を取り出すと、私は彼を残したまま庭へと出ていった。
キョロキョロと辺りを見渡しながらに、広々と開かれた場所を見つけると、私はそこに袋から取り出した魔術板を一列に綺麗に並べていく。
そうして魔術板を並べ終わると、私はテラスへ座るエルヴィンへ大きく手を振った。
「空を見ていてね。いくよ~~!」
そう合図を出すと、私はすぐさましゃがみ込み、魔術板に描かれた陣を一つ一つ円で囲んでいった。
描いた陣それぞれ円の大きさを変えながらに、発動するまでの時差を作っていく。
そうして一つ目の陣がゆっくりと発動すると、辺りに大きな音がこだました。
バンッ!!!、……パンッ、バーンッ。
魔術板から勢いよく紅の光が飛び出すと、そのまま真っすぐに天へと昇っていく。
そうして真っ赤な光が空中で弾け飛ぶと、丸い大輪の花が夜空に咲き乱れた。
よし、完璧ね!
夜空に咲いた花はあっという間に消えると、時間をずらした次の魔法陣が発動していく。
黄の花、緑の花、青の花、桃の花、白の花と様々な花が夜空を彩る中、懐かしいその音に、元の世界で彼と訪れた夏祭りの風景がよみがえった。
浴衣を着て……あの日はとても蒸し暑かったなぁ。
手を繋ぎながらに、浜辺で見た大きな花火。
花火を見た彼は子供みたいにはしゃいでいたっけ……懐かしいな。
元の世界へ戻ったら……彼と一緒にまた祭りへ行ってみよう。
私は幾重にも重なる大輪に咲いた花火を見上げると、自然と笑みがこぼれ落ちていった。
それにしてもこの花火を作るのは大変だったなぁ。
試作は紙の上で何度も何度も書き直して、色を調整しながら花火の形を作って……。
火薬の代わりに魔術で何とかなるものの、一番大変だったのは、真っすぐに打ち上げる事だった。
本当の打ち上げ花火のようにしっかりした筒があればいいのだけれど、紙に描かれる陣にはそんなものは存在しない。
そんな中で、試行錯誤しながらに、いくつも魔術を組み合わせてようやく完成した時の感動といったら……。
達成感が半端なかったなぁ。
感慨深い思いで打ち上げられる花火を見守る中、セットした魔術板は残り少なくなっていた。
私の世界で400年の歴史を繋いでいた花火。
夏の風物詩である花火はこの世界にはない。
グレンも知らない様子だったし、大丈夫だと思ったけれど……念のためオリヴィアに試作で作った花火を見せ、この世界にないことは、しっかりリサーチ済みだ。
本当は夕日を創り出したかったのだけれども、魔術での光はどうして夕日の色を作り出せなかった。
今回は間に合わなかったけれど……でもいつか……私が元の世界へ戻る前に、エルヴィンにも見せてあげたいな。
そうして全ての花火が打ち上げられ、私はテラスへと戻ると、そこには夜空を見つめたまま茫然とした彼の姿があった。
****お知らせ****
お読み頂きまして、ありがとうございます(*´Д`)
第十一話・第十四話へ挿絵を追加致しました!
ドレス姿の主人公&タキシードエルヴィン
ライト&主人公の美しいイラストです!
ぜひ一度見て頂けると嬉しいです(*'ω'*)
彼の顔を見ることも出来ぬままに、その場に硬直していると、強い風が吹き抜けた。
庭の草木が揺れガサガザと音が耳に響く中、エルヴィンが深く息をつく様子に、自然と肩が小さく跳ねる。
「……会場にあんたの姿がなくて、ずっと探してた。だが……まさかこんな人気のない場所で、第一王子と一緒にいるとはな……。一体二人っきりで、こんなところで何をしていたんだ?」
静かに放たれる言葉に、なぜか責められているような気持ちになると、私は慎重に言葉を紡いでいく。
「えっ、あの……彼……えーと、殿下が私の世界の話を聞きたいとおっしゃったので……。それで……あのっ、ここで話をしていました……」
「話……あんたはあんな至近距離で、見つめあいながらに男と話をするのか?」
「えっ、いや、あれは……その……私が泣いているのを心配してくれて……うぅ……」
思わず謝りそうになる中、何とかそこで言葉を止める。
彼から不穏なオーラがビシビシと突き刺さる中、私は未だに顔を上げることが出来ないままだ。
これは相当怒っている……怖いよ……。
そこそこ長い付き合いの中、彼は表情をあまり変えることはないが……不機嫌になると口調ですぐにわかる。
今まさにその状況だ。
「なら……どうして泣いていたんだ?……何かされたのか?」
「ちっ、違うよ!!!その……前の世界を思い出したら、なんだか懐かしくなって、それで思わず涙が……」
私は訴えかけるように顔を上げると、エメラルドの瞳が私を見定めるようにじっと見つめていた。
その瞳に魅入られる中、彼はゆっくりと腕を持ち上げると、そっと私の頬へ添える。
「はぁ……何もなくて安心した。いきなり居なくなるな。……あんたは俺の……パートナーなんだからな……」
「えっ、あっ、そうだよね……。心配をかけてごめんなさい」
そう項垂れるように頭を下げると、何とも言えない沈黙が二人を包みこむ。
長い静寂に私は耐えきれなくなると、話題を変えるように、手にしていた袋を持ち上げて見せた。
「そっ、そうだ、15歳の誕生日おめでとう。あのね、私からもプレゼントがあるんだ。その……宝石とか花とか……そんな良い物じゃないんだけれど……」
エルヴィンは私の言葉に大きく目を見張ると、袋をじっと見つめている。
すると彼は少しばかり表情を緩めると、先ほどの緊迫していた雰囲気が少し和らいだ。
「……ありがとう……もらってもいいのか?」
「へへっ、これは物じゃないんだ。ねぇ、こっちへきて」
私はエルヴィンの手を引くと、先ほどのテラスへと誘っていく。
彼を椅子へ座らせ、袋から魔術板を取り出すと、私は彼を残したまま庭へと出ていった。
キョロキョロと辺りを見渡しながらに、広々と開かれた場所を見つけると、私はそこに袋から取り出した魔術板を一列に綺麗に並べていく。
そうして魔術板を並べ終わると、私はテラスへ座るエルヴィンへ大きく手を振った。
「空を見ていてね。いくよ~~!」
そう合図を出すと、私はすぐさましゃがみ込み、魔術板に描かれた陣を一つ一つ円で囲んでいった。
描いた陣それぞれ円の大きさを変えながらに、発動するまでの時差を作っていく。
そうして一つ目の陣がゆっくりと発動すると、辺りに大きな音がこだました。
バンッ!!!、……パンッ、バーンッ。
魔術板から勢いよく紅の光が飛び出すと、そのまま真っすぐに天へと昇っていく。
そうして真っ赤な光が空中で弾け飛ぶと、丸い大輪の花が夜空に咲き乱れた。
よし、完璧ね!
夜空に咲いた花はあっという間に消えると、時間をずらした次の魔法陣が発動していく。
黄の花、緑の花、青の花、桃の花、白の花と様々な花が夜空を彩る中、懐かしいその音に、元の世界で彼と訪れた夏祭りの風景がよみがえった。
浴衣を着て……あの日はとても蒸し暑かったなぁ。
手を繋ぎながらに、浜辺で見た大きな花火。
花火を見た彼は子供みたいにはしゃいでいたっけ……懐かしいな。
元の世界へ戻ったら……彼と一緒にまた祭りへ行ってみよう。
私は幾重にも重なる大輪に咲いた花火を見上げると、自然と笑みがこぼれ落ちていった。
それにしてもこの花火を作るのは大変だったなぁ。
試作は紙の上で何度も何度も書き直して、色を調整しながら花火の形を作って……。
火薬の代わりに魔術で何とかなるものの、一番大変だったのは、真っすぐに打ち上げる事だった。
本当の打ち上げ花火のようにしっかりした筒があればいいのだけれど、紙に描かれる陣にはそんなものは存在しない。
そんな中で、試行錯誤しながらに、いくつも魔術を組み合わせてようやく完成した時の感動といったら……。
達成感が半端なかったなぁ。
感慨深い思いで打ち上げられる花火を見守る中、セットした魔術板は残り少なくなっていた。
私の世界で400年の歴史を繋いでいた花火。
夏の風物詩である花火はこの世界にはない。
グレンも知らない様子だったし、大丈夫だと思ったけれど……念のためオリヴィアに試作で作った花火を見せ、この世界にないことは、しっかりリサーチ済みだ。
本当は夕日を創り出したかったのだけれども、魔術での光はどうして夕日の色を作り出せなかった。
今回は間に合わなかったけれど……でもいつか……私が元の世界へ戻る前に、エルヴィンにも見せてあげたいな。
そうして全ての花火が打ち上げられ、私はテラスへと戻ると、そこには夜空を見つめたまま茫然とした彼の姿があった。
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