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異世界へ行った彼女の話:第十六話
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金色に輝く光の先に懐かしいグレンの姿が浮かび上がると、月が微かに滲み、頬に水滴が流れて落ちていく。
頬を伝う雫がゆっくりと地面へ落ちていく中、私はそっと手を持ち上げた。
するとその手が触れる前に、彼の指先が私の頬へと触れる。
冷たい彼の指先は流れ落ちる雫を救い上げると、私は慌てて後退った。
「えっ、あっ、すみません……っっ、少し懐かしい気持ちになってしまいました……」
彼は心配そうな表情を見せると、私を覗き込むように視線を向ける。
そんな彼の様子に、私は必死に涙を止めようとするが……一度あふれ出した涙は簡単にはとまらない。
あぁもう……なんで……はっ、恥ずかしい……。
早く泣き止まないと……いきなり泣き出して、彼が困っているじゃない……。
私は自分の泣き顔を隠す様に顔を背ける中、彼は徐に手を引くと、なぜか立ちあがった。
そうして私の前へ跪くと、潤んだ視界に琥珀色の瞳がはっきりと映し出される。
「すまない、悲しい思いをさせてしまった……」
「ちっ、違います!!!ここへ来て初めて、自分の世界の話を出来て、とても嬉しかった。あぁ、もうなんでとまらないのかな……っっ。これは悲しいわけではなくて……ただ……」
私は震える唇を持ち上げ無理矢理に笑みを浮かべる中、大きな手が私の頬を包みこむ。
彼は優しく俯く顔を持ち上げると、親指で涙を拭きとっていった。
「おぃ、何をしているんだ!!!」
突然の声に顔を向けると、そこにはパーティーの主役であるエルヴィンの姿があった。
彼は走ってきたのだろうか……息を切らした様子でこちらへ駆け寄ってくると、私の腕を強く引き寄せる。
握られたその手に鈍い痛むを感じる中、頬に触れていた彼の手が離れると、私はそのまま胸の中へ倒れ込む。
するとエルヴィンは私を守るように、ギュッと強く抱きしめた。
「エルヴィン殿か……」
彼は徐に立ち上がると、エルヴィンへ真っすぐに顔を向ける。
その姿にエルヴィンは驚いた様子を見せると、慌てた様子で頭を下げた。
「っっ……失礼しました……ライト殿下。ですが彼女に一体何を?……どうして彼女が泣いておられるですか?」
えっ……ライト殿下!?
この人もしかして王族なの……やばぃ……っっ。
先ほどの不躾な質問に、失礼な自分の態度が頭をよぎると、クラリと視界が歪む。
うぅ……私は王族に対してなんて失態を……。
いや……でも今は……それよりも……!!!
私はエルヴィンの胸を強く押し返すと、慌てて顔を上げた。
目の前にエメラルドの瞳が映し出される中、その瞳を見つめ返すと口を開く。
「待って、違うの!これは……あっ、そう!!目にゴミが入ってしまって、それでね、涙が止まらなくて……えーと……その……だから……」
最初に勢いはどこへやら……冷たく揺れるエルヴィンの瞳に見据えられると、声が次第に小さくなっていく。
私はその視線に耐えきれなくなり、気まずげに彼から体を離すと、もう平気だよとの意味を込め、涙をぬぐいながらに、笑みを浮かべて見せてみせた。
すると私の姿にエルヴィンは不機嫌そうな様子を見せると、呆れた様子で大きく息を吐き出した。
っっ……ひぇっ、怒ってる……。
彼のただならぬ雰囲気に顔を引きつらせる中、ライトはエルヴィンの前に佇むと、深く頭を下げた。
「エルヴィン殿、大切な客人を悲しませてしまってすまない。全て私のせいだ。だが……泣かせるつもりはなかった……」
「ちょっ、頭を上げてください。違いますよ、私が勝手に……。それよりも本当にすみません。王族の方とは存じあげておらず、失礼な態度に言動に……あぁ、本当に申し訳ございません」
私は深く深く頭を下げると、彼から逃げるように後ずさった。
ダメダメ、これ以上失態を重ねるわけにはいかない……。
その姿に彼は私の腕をとると、肩を掴み項垂れる私の体を持ち上げる。
「私は確かに王族だが……そんなにかしこまらなくても良い。先ほどのように気軽に話してくれた方がありがたい。それよりもまたあなたとゆっくりと話をしたい。今度は僕があなたを迎えに行ってもいいだろうか?」
「えっ、あっ、恐れ多い事です……」
迎えにって……いやいやいや、困る困る……。
私は恐る恐るに視線を上げ、琥珀色の瞳を見つめ返す中、彼は優し気な笑みを浮かべてみせる。
その笑みに戸惑う中、私はどう対処すれば正解なのか……頭を抱えていると、彼は私たちに背を向け回廊の方へと去っていく。
ライトの姿が消えると、静かな庭園に、エルヴィンと私が取り残された。
エルヴィンに動く気配はなく、不機嫌な様子で胸の前で腕を組むと、私をじっと睨みつけている。
その姿に私は小さく肩を跳ねさせる中、気まずい沈黙が庭園に流れていった。
うぅ……これは……相当に機嫌が悪い……。
さっき彼が現れた様子を見る限り、パーティー会場からいなくなった私を探していたのだろうか……。
あぁ、ひと声かけてから外へ出るべきだったなぁ。
後悔の念に駆られる中、エルヴィンはまた深く息を吐き出すと、動けない私の元へゆっくりと近づいてきた。
頬を伝う雫がゆっくりと地面へ落ちていく中、私はそっと手を持ち上げた。
するとその手が触れる前に、彼の指先が私の頬へと触れる。
冷たい彼の指先は流れ落ちる雫を救い上げると、私は慌てて後退った。
「えっ、あっ、すみません……っっ、少し懐かしい気持ちになってしまいました……」
彼は心配そうな表情を見せると、私を覗き込むように視線を向ける。
そんな彼の様子に、私は必死に涙を止めようとするが……一度あふれ出した涙は簡単にはとまらない。
あぁもう……なんで……はっ、恥ずかしい……。
早く泣き止まないと……いきなり泣き出して、彼が困っているじゃない……。
私は自分の泣き顔を隠す様に顔を背ける中、彼は徐に手を引くと、なぜか立ちあがった。
そうして私の前へ跪くと、潤んだ視界に琥珀色の瞳がはっきりと映し出される。
「すまない、悲しい思いをさせてしまった……」
「ちっ、違います!!!ここへ来て初めて、自分の世界の話を出来て、とても嬉しかった。あぁ、もうなんでとまらないのかな……っっ。これは悲しいわけではなくて……ただ……」
私は震える唇を持ち上げ無理矢理に笑みを浮かべる中、大きな手が私の頬を包みこむ。
彼は優しく俯く顔を持ち上げると、親指で涙を拭きとっていった。
「おぃ、何をしているんだ!!!」
突然の声に顔を向けると、そこにはパーティーの主役であるエルヴィンの姿があった。
彼は走ってきたのだろうか……息を切らした様子でこちらへ駆け寄ってくると、私の腕を強く引き寄せる。
握られたその手に鈍い痛むを感じる中、頬に触れていた彼の手が離れると、私はそのまま胸の中へ倒れ込む。
するとエルヴィンは私を守るように、ギュッと強く抱きしめた。
「エルヴィン殿か……」
彼は徐に立ち上がると、エルヴィンへ真っすぐに顔を向ける。
その姿にエルヴィンは驚いた様子を見せると、慌てた様子で頭を下げた。
「っっ……失礼しました……ライト殿下。ですが彼女に一体何を?……どうして彼女が泣いておられるですか?」
えっ……ライト殿下!?
この人もしかして王族なの……やばぃ……っっ。
先ほどの不躾な質問に、失礼な自分の態度が頭をよぎると、クラリと視界が歪む。
うぅ……私は王族に対してなんて失態を……。
いや……でも今は……それよりも……!!!
私はエルヴィンの胸を強く押し返すと、慌てて顔を上げた。
目の前にエメラルドの瞳が映し出される中、その瞳を見つめ返すと口を開く。
「待って、違うの!これは……あっ、そう!!目にゴミが入ってしまって、それでね、涙が止まらなくて……えーと……その……だから……」
最初に勢いはどこへやら……冷たく揺れるエルヴィンの瞳に見据えられると、声が次第に小さくなっていく。
私はその視線に耐えきれなくなり、気まずげに彼から体を離すと、もう平気だよとの意味を込め、涙をぬぐいながらに、笑みを浮かべて見せてみせた。
すると私の姿にエルヴィンは不機嫌そうな様子を見せると、呆れた様子で大きく息を吐き出した。
っっ……ひぇっ、怒ってる……。
彼のただならぬ雰囲気に顔を引きつらせる中、ライトはエルヴィンの前に佇むと、深く頭を下げた。
「エルヴィン殿、大切な客人を悲しませてしまってすまない。全て私のせいだ。だが……泣かせるつもりはなかった……」
「ちょっ、頭を上げてください。違いますよ、私が勝手に……。それよりも本当にすみません。王族の方とは存じあげておらず、失礼な態度に言動に……あぁ、本当に申し訳ございません」
私は深く深く頭を下げると、彼から逃げるように後ずさった。
ダメダメ、これ以上失態を重ねるわけにはいかない……。
その姿に彼は私の腕をとると、肩を掴み項垂れる私の体を持ち上げる。
「私は確かに王族だが……そんなにかしこまらなくても良い。先ほどのように気軽に話してくれた方がありがたい。それよりもまたあなたとゆっくりと話をしたい。今度は僕があなたを迎えに行ってもいいだろうか?」
「えっ、あっ、恐れ多い事です……」
迎えにって……いやいやいや、困る困る……。
私は恐る恐るに視線を上げ、琥珀色の瞳を見つめ返す中、彼は優し気な笑みを浮かべてみせる。
その笑みに戸惑う中、私はどう対処すれば正解なのか……頭を抱えていると、彼は私たちに背を向け回廊の方へと去っていく。
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エルヴィンに動く気配はなく、不機嫌な様子で胸の前で腕を組むと、私をじっと睨みつけている。
その姿に私は小さく肩を跳ねさせる中、気まずい沈黙が庭園に流れていった。
うぅ……これは……相当に機嫌が悪い……。
さっき彼が現れた様子を見る限り、パーティー会場からいなくなった私を探していたのだろうか……。
あぁ、ひと声かけてから外へ出るべきだったなぁ。
後悔の念に駆られる中、エルヴィンはまた深く息を吐き出すと、動けない私の元へゆっくりと近づいてきた。
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