流れ着いた先は異世界でした。~誰がなんと言おうと、必ず元の世界へ帰りますから!

あみにあ

文字の大きさ
上 下
13 / 45

異世界へ行った彼女の話:第十二話

しおりを挟む
姿勢を正しながらに壇上を眺める中、主催の人だろう挨拶が終わると、最初に出会った王様が壇上へと現れた。
へぇっ!?王様……!?
その姿に、エルヴィンの地位は高いのだろうと改めて実感する。
誕生日パーティーにわざわざ王族が来るなんて相当だと思うの……。
私は目を大きく見開きながらに壇上を見上げてみると、その隣には王妃様が静かに笑みを浮かべていた。

壇上から響く挨拶に耳を傾けながら壁の傍に立ち尽くす中、私の両手にはオリヴィアが持たせてくれた袋が目に映る。
そういえばプレゼントいつ渡そう……。
あんな豪華な物ばかりもらっている中で、私のプレゼントは……。
ううぅ、比べるとどう見てもしょぼいよねぇ……。
いやでも、しょうがない!
お金もないし……でも自慢ではないが、オリジナルで考えたんだよ。
この世界にはなくて……私の世界でみる事が出来るあの美しい風景を見せたいなと思ったんだよね……。
まぁそりゃね、宝石や綺麗な花と比べれば落ちるけど……。
う~む、喜んでくれるかな……。

そんな事を考えていると、王様の話が終わったのだろうか……会場内がまた騒がしくなっていく。
ふと顔を上げ辺りを見渡してみると、エルヴィンはいまだ群衆に囲まれていた。
ぐぅっ、まだ近づけない、どうしようかな。
とりあえずもう少し待ってみよう……。

会場のひときわ目立つ一角に、群がるその集団を茫然と眺めると、突然にメイドが私の前に現れる。
驚き肩を跳ねさせる中、メイドは人懐っこい笑みを浮かべながらに、こちらへワイングラスを差し出すと、私は反射的にそのグラスを受け取っていた。

ありがとうございますと苦笑いを浮かべる中、グラスの中にはピンク色のロゼのような色合いをした液体が注がれている。
そっと鼻を近づけてみると、香りからアルコールは入っていないようで、美味しそうな甘い果実の香りに思わず頬が緩んでいく。
興味津々で口をつけグラスを傾けてみると、甘酸っぱいさわやかな味わいが口の中に広がっていった。
美味しい、何だろうこれ。
戻ったらさっそくオリヴィアに聞いてみよう。

そんな事を考えながらにジュースを味わっていると、騒がしい会場の内でふと聞きなれた懐かしい声が耳に届いた。
反応するようにハッと顔を向けると、そこにはブロンドヘヤーの男性が、執事に何か話しかけている。
後ろ姿で顔は見えないが、私はそっとワイングラスを近くに見えるテーブルへ置くと、彼の元へ引き寄せられるように近づいていった。
今のは……聞き間違いかな……?
彼の声をもう一度聞こうと耳を傾けてみるが……周りの雑音にかき消されている為か……なかなか聞き取れない。
もう少し近くに……と足を進めてみると、ようやく彼の声がはっきりと耳に届いた。

「後は頼んだ、ありがとう」

その男性は執事にお礼を言うと、会場の奥へと去っていく。
今の……間違いない、の声だ。
いや……でも髪の色が全然違う。
男性のブロンドの髪に一瞬動きが止まると、彼は人ごみに紛れながら私から遠のくように進んでいった。

いや、でも……彼の声を、私が聞き間違えるはずがない。

「待って!」

そう慌てて声を上げてみるも、私の声は周りの音にかき消され、その男性には届かなかった。

私は彼の姿を追うように会場の中央へ進む中、ヒールに何度も足がもつれそうになる。
あぁもう、これだからヒールは……っっ!
はぁ……元の世界でもっとヒールを履いていればよかったなぁ……。
歩きづらさに苛立つ中、私は人ごみをかき分けながらに、彼の背から目を離さぬように進んでいく。
あぁもう、人が多い!
見失わないよう必死に手を伸ばした瞬間、突然に私の前に人が群がってきた。

「ごきげんよう、異世界のお姫様。一度お話してみたいと思っておりましたの」

「初めまして、君が異世界のお姫様だね。いや~なんとお美しい」

「ご機嫌麗しゅうございます、あら~目を見張るほどの綺麗な黒髪ですわねぇ」

「異世界の姫様、私は侯爵家の者です。宜しければお時間を頂けませんか?」

立ちはだかるように集まる貴族達に戸惑う中、一瞬目を離したすきに男性の姿が人ごみに紛れ込んでいく。
あぁ……うそ、見失った……っっ。
でも向こうへ行ったことは間違いない、すぐに追いかけないと!
私はぎこちない笑みを浮かべると、急いでる感じを出しながらに、彼らを避けようと体を動かした。
しかし彼らに退く気配なく、私はそこで足止めされてると、貴族たちの勢いに身動きが次第に取れなくなっていった。

勢いそのままに話す彼らに戸惑う中、愛想笑いを浮かべると、私はジリジリと後退っていく。
あぁもう、無視して進みたいんだけど……さすがにそれはマナー違反になるよね。
どうしよう……退いてほしいのに……。
貴族たちは私の苦笑いに気が付かないのか……終始話続けている。
将又気が付いているが……強引に攻めてきているのか……。
私は心の中で深いため息をつくと、焦る気持ちを抑え込むように、無理矢理に笑みを浮かべて見せた。
貴族たちはそんなに私と話がしたいのか……勢いに任せたまま皆が同時に話しかけるため、何を言っているのかさっぱり分からない。
そんな中、彼らの勢いに会場の中心からジリジリと押し戻されてしまうと、私は大きく肩を落としたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...