流れ着いた先は異世界でした。~誰がなんと言おうと、必ず元の世界へ帰りますから!

あみにあ

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異世界へ行った彼女の話:第十話

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そうしてオリヴィアにされるがまま……気が付けば私はプリンセスドレスに着替えさせられていた。
一体いつサイズを測ったのだろうか……、ドレスのサイズが怖いくらいにピッタリ……。
鮮やかな赤いドレスがヒラリと広がる姿は、まるで物語に登場するお姫様ようだ。
……いやでも……お姫様って年じゃないですよね……。
それにしても……こんなドレスを着るはめになるとは、思わなかったなぁ……。
真っ赤なヒラヒラのドレスに苦笑いを浮かべる中、オリヴィアは私を覗き込むと、そっと頬に触れた。

「姫様のお肌は白くてスベスベで……うらやましいですわ~」

えっ、白い……?
そっか……この世界へ来てから、私は一度も外出をしていない。
日夜塔と城を行き来する毎日で、肌が焼けるはずがないもんね。
元居た世界では、海辺に住んでいたから……肌は褐色だったんだけどなぁ。
改めて自分の腕へ視線を向けてみると、日焼けの跡などどこにもない。
そんな自分の姿に、あの頃を思い出す様にそっと瞳を閉ると、ひんやりとしたオリヴィアの手が唇に触れた。
そういえば……彼とよく外出したっけなぁ。
街へ買い物に行って、自動ドアに仰天した姿は面白かったな。
毎日が楽しくて、いっぱい笑って……早く会いたいな。
彼の笑顔が瞼の裏によみがえる中、彼女の指先が唇をなぞるように一周すると、ゆっくりと体を離した。

すると突然にガガタッ、ガタッとの物音にそっと目を開けてみると……目の前に大きな鏡が用意されていた。
鏡に映った私の姿は、真っ赤なドレスに胸元が大きく開き、顔にはアイメイク、白粉、口元は薄いピンクの紅がのせられている。
長いドレスからのぞかせる靴は黒いピンヒールで、思わず脹脛に力がはいった。
元の世界ではキャミソールを着て外出することもあったが……この世界では少し肌寒い秋のような気候に、基本ローブ姿だ。
そんな中、久しぶりに肌を露出する自分の姿は……なんというか……とても恥ずかしい。

腕にはシンプルなシルバーのブレスレット、胸元にはエメラルドのネックレスが光っている。
いつも適当に縛っていた長い黒髪はアップにまとめられ、頭には大きなバラが飾り付けられていた。
すごい……別人みたい……。
しかし元が元……、どれだけ綺麗な服に化粧をまとってみても、顔が浮いている気がするなぁ……。

そんな自分の姿に気落ちする中、隣ではオリヴィアがとても満足そうな笑みを浮かべていた。

「姫様、とってもお美しいですわ!!!」

キラキラと目を輝かせながらに笑いかける彼女の姿に、自然と頬が引きつっていく。
えぇ……言いすぎじゃないかな……服は確かに綺麗だけれど……。
いつもとは違う……テンションの高いオリヴィアの様子に戸惑っていると、また部屋にトントントンとノックの音が響いた。
その音にオリヴィアは慌てた様子で向かうと、開けられた扉の前で何やらコソコソと話し始める。

あっ、そうだプレゼント。
オリヴィアを横目に、私はそそくさとベッドわきへ移動すると、用意していた魔術板をひっぱりだす。
明日プレゼントしようと思っていたけれど……パーティーに参加するなら、今日渡したほうがいいよね。
本当は何か残る物にしたかったのだけれど……あいにく私には、この世界で自由になるお金はない。
まぁ……頼めばもらえるのかもしれないが……、衣食住の面倒を見てもらっている手前、そんな図々しい事を言えるはずもなかった。
以前に一度オリヴィアへここで働かせてほしい!、とお願いしたこともあるのだけれど……絶対にダメですと一刀両断に切り捨てられたのは、記憶に新しい。

そんな事を考えながら魔術板を手に扉へ視線を向けていると、話が終わったのだろか……振り向いたオリヴィアが私の方へ走り寄ってくる。
そのまま私の手を取ると、彼女は生き生きとした表情を浮かべながらに、扉へと誘っていった

「あら、それは魔術板ですわね……。ベネット様への贈り物でしょうか?」

「えぇ、そうなの。プレゼントになるのかは怪しいけれど……彼には色々お世話になっているから……。本当はね、明日渡すつもりだったんだ」

「ふふっ、でしたらこちらの袋にお入れ下さい。魔術板はドレスには似合いませんわ」

オリヴィアはどこからか可愛らしいカバンを取り出すと、魔術板を入れ私の手にそっと添えた。

そうして扉の前へやってくると、そこには見覚えのある、いつも塔で見かけたローブ姿の男が佇んでいた。
しかし今日はローブではなく、燕尾服を着こなし、髪をオールバックにまとめている。
あまりの雰囲気の違いに、不躾にもまじまじと見つめていると、彼は優しい笑みを浮かべながらに美しい礼を見せた。

その姿に私も慌てて淑女の礼を見せると、彼は洗練された所作で道を開けるようにそっと後退していく。
開かれた通路に、ピンっと背筋を伸ばし、脚に力を入れながら廊下へ進み出ると、そこにはエルヴィンの姿があった。
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