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第1話
しおりを挟む「ねえ、いつなったら働いてくれるのよ」
妻の美月は、さすがに我慢の限界という表情をしている。
「こっちも色々考えてるんだって」
周平は、苦しいと分かっていながら言い訳をした。
それを聞いた美月は、これまで溜め込んできた鬱憤を全て吐き出すかのように、一息で捲し立てた。
「いつまで呑気に考えてるのよ。由香だって来年から小学生になるのよ。これからお金がもっと必要になるんだから、いつまでもそんな頼りない姿見せないでよ。これ以上こんな生活が続くんだったら、離婚も考えるわよ」
周平は、「分かったよ。もうすぐ何とかするから」と言いながら逃げるように家を出た。
娘の由香は、今年で幼稚園を卒園する。今は貯金を切り崩しながら何とか養育費を捻出しているが、こんな生活を続けることができないということは、周平も理解していた。
家を出た後、しばらくあてもなくさまようと、目についた公園にあったベンチに腰かける。そして、空を見ながら大きなため息をついた。
周平は、新卒で入社した都市銀行を一年ほど前に退職していた。入社前は、ドラマや小説で描かれる銀行員の姿に憧れ、希望を持っていた。
しかし、働き始めるとそれらがあくまで創作であるということを思い知らされた。やりがいのない仕事に追われ、小さなミスをねちねち指摘してくる上司に頭を下げる毎日。それでも十年ほどは我慢して働き続けたが、とうとう精神的に限界を迎え、妻の美月には何の相談もせず、辞表を出してきてしまったのだ。
最初は不安を感じながらも、周平を信じてくれていた美月だが、一年近く家でごろごろしている旦那に、堪忍袋の緒が切れたようだ。
「何とかするって言っちゃったけど、どうするかなあ」
近くにいた親子が、唐突に独り言を呟いた周平に驚き、その場を離れていく。
この一年間、彼だって何も考えずに過ごしていたわけではなかった。当初は、転職サイトに登録し、毎日求人情報をチェックしていた。しかし、その会社で働いている人の口コミを見ると、細かい点が気になってしまい、応募できずにいた。もう一度会社選びに失敗したらどうしようという不安が強かったのだ。
しかし、もはやそんなことを言っている場合ではない。今日初めて美月の口から「離婚」という言葉が出たことに、周平は焦りを感じていた。
「とにかく仕事を探さないと」
勢いよくベンチから立ち上がると、最寄りのハローワークへ向かった。
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