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渡辺卓也③
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その日、僕は京子とプラネタリウムに来ていた。
カップル用のシートに腰かけると、彼女が声を弾ませた。
「楽しみね! あなたも知っていると思うけど、私こう見えて星とか大好きなの」
「僕も星は大好きだよ。お母さんと見に行った長野の星はすごくよかったな」
「そうなのね! 私は四国で見た星が今までで一番よかったわ~」
すると、後ろの方から、別のカップルの囁き声が聞こえてきた。
「あの女、もう少し静かに話せないのかしら」
「いい大人が子どもみたいに。せっかくの雰囲気が台無しだな」
「それにしても、なんていうか……あの2人よくお似合いね」
そのあと、周りから悪意に満ちた笑い声が聞こえてきた。
おそらくその声は京子には聞こえていなかったのだろう。
彼女は相変わらず、「私も長野に行ってみたい」だとか「沖縄の星もいいらしい」だとか、のんきに話を続けている。
僕は激しく動揺していた。
生まれて初めて掴んだ恋。
こんな僕でも他の大学生と同じように彼女をつくることができるのだと誇らしく思っていた。
しかし、それは所詮、形だけのものだったのだろう。
どんなに他人の真似をしたところで、彼らとは本質が異なっている。
それも全て、京子のせいだ。
こいつが馬鹿みたいにはしゃいでいるから、こっちまで見下されてしまう。
やはり僕に必要なのは美咲なのだ。
彼女と付き合うことができれば、ようやく周りから認められる。
僕に相応しいのは美咲だけなのだ。
その日、プラネタリウムを見たあと、僕はほとんど言葉を発しなかった。
京子はしきりに「どうしたの?」とか「何か嫌なこと言った?」とか聞いてきたが、「別に」とだけ答えた。
そして、別れ際に彼女との関係は終わらせた。
京子は泣いて嫌がっていたが、僕の考えは変わらなかった。
***
時計の針は深夜2時を回っている。
今日も、夜遅くまでSNSを眺めてしまった。
社会人になってから、僕は本格的に美咲を探し始めていた。
彼女のSNSは大学生の頃に比べて更新頻度が減っていたが、現在地を示すような情報があればすぐにそこへ駆けつけた。
とにかく彼女に会いたいという一心で生きている。
しかし、仕事の合間を縫って探していることもあり、なかなか出会うことができない。
最近は、彼女の友人のSNSもチェックしているが、めぼしい情報は見つからない。
「そろそろ僕の前に現れてくれないかな」
窓の外に目をやると、辺りは暗闇に包まれ、人気も一切ない。
ふいに、思い通りにならない状況に、怒りがこみ上げてきた。
僕は窓を開けると、腹の底から大声を出した。
「おい美咲! 僕の前に現れてくれ!」
すると、隣の家の電気がパッとついたが、しばらく経つと元に戻った。
そこには、相変わらず静かな暗闇が広がっている。
僕は自分の非力さを呪うと同時に、もしチャンスが来たら必ずものにしてみせると誓った。
カップル用のシートに腰かけると、彼女が声を弾ませた。
「楽しみね! あなたも知っていると思うけど、私こう見えて星とか大好きなの」
「僕も星は大好きだよ。お母さんと見に行った長野の星はすごくよかったな」
「そうなのね! 私は四国で見た星が今までで一番よかったわ~」
すると、後ろの方から、別のカップルの囁き声が聞こえてきた。
「あの女、もう少し静かに話せないのかしら」
「いい大人が子どもみたいに。せっかくの雰囲気が台無しだな」
「それにしても、なんていうか……あの2人よくお似合いね」
そのあと、周りから悪意に満ちた笑い声が聞こえてきた。
おそらくその声は京子には聞こえていなかったのだろう。
彼女は相変わらず、「私も長野に行ってみたい」だとか「沖縄の星もいいらしい」だとか、のんきに話を続けている。
僕は激しく動揺していた。
生まれて初めて掴んだ恋。
こんな僕でも他の大学生と同じように彼女をつくることができるのだと誇らしく思っていた。
しかし、それは所詮、形だけのものだったのだろう。
どんなに他人の真似をしたところで、彼らとは本質が異なっている。
それも全て、京子のせいだ。
こいつが馬鹿みたいにはしゃいでいるから、こっちまで見下されてしまう。
やはり僕に必要なのは美咲なのだ。
彼女と付き合うことができれば、ようやく周りから認められる。
僕に相応しいのは美咲だけなのだ。
その日、プラネタリウムを見たあと、僕はほとんど言葉を発しなかった。
京子はしきりに「どうしたの?」とか「何か嫌なこと言った?」とか聞いてきたが、「別に」とだけ答えた。
そして、別れ際に彼女との関係は終わらせた。
京子は泣いて嫌がっていたが、僕の考えは変わらなかった。
***
時計の針は深夜2時を回っている。
今日も、夜遅くまでSNSを眺めてしまった。
社会人になってから、僕は本格的に美咲を探し始めていた。
彼女のSNSは大学生の頃に比べて更新頻度が減っていたが、現在地を示すような情報があればすぐにそこへ駆けつけた。
とにかく彼女に会いたいという一心で生きている。
しかし、仕事の合間を縫って探していることもあり、なかなか出会うことができない。
最近は、彼女の友人のSNSもチェックしているが、めぼしい情報は見つからない。
「そろそろ僕の前に現れてくれないかな」
窓の外に目をやると、辺りは暗闇に包まれ、人気も一切ない。
ふいに、思い通りにならない状況に、怒りがこみ上げてきた。
僕は窓を開けると、腹の底から大声を出した。
「おい美咲! 僕の前に現れてくれ!」
すると、隣の家の電気がパッとついたが、しばらく経つと元に戻った。
そこには、相変わらず静かな暗闇が広がっている。
僕は自分の非力さを呪うと同時に、もしチャンスが来たら必ずものにしてみせると誓った。
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