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復帰
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一瞬の出来事だった。
サッカーの試合中、ゴール前で奏太がボールを蹴ろうとした瞬間、相手選手がタックルしてきたのだ。
片足立ちだった奏太は簡単にバランスを崩すと、ゴールポストに激しく頭を打ちつけた。
その痛々しさに思わず周りの選手もプレーを中断して駆け寄る。
「大丈夫か?反応がないぞ…早く救急車を呼ぶんだ。」
10分ほどしてようやく救急車がついた頃には、奏太の容態はさらに悪化していた。
病院に駆けつけた両親に対し、医師は説明する。
「打ち所が悪かったため、かなり危ない状態です。最善を尽くしますが助かるかどうかは五分五分でしょう。」
「そんな…」
母親がその場で泣き崩れると、父親が肩を持つ。
「これまで息子を大切に育ててきました。小学校に入学して、人生これからって時なんです。どうかよろしくお願いします。」
父親が頭を下げると、医師は「出来ることはやります。」とだけ答え、手術室に入っていった。
残された両親は、手を固く結びながら天に祈り続けていた。
*****
「奏太!こっちだ!」
ゴール前に長いパスを送ると、味方が鋭いシュートをゴールに突き刺した。
「よっしゃ!」
奏太は応援に来ている両親の方へ拳を突き上げる。
それに応えるように、両親も拍手を送った。
「奏太くん、復帰したばかりなのに絶好調ですね。」
友達のお母さんから褒められると、両親も素直に喜んだ。
「もうサッカーはやらせたくないと思っていたんですけどね。こんなに元気になってくれて本当によかったです。」
審判が長い笛を吹き、試合が終了した。
結局、奏太のアシストによって生まれたゴールを守り抜き、試合に勝つことができた。
「お疲れさま。」
試合後のミーティングやグラウンドの整備を終えて帰宅した奏太に、母親が声をかける。
「今日のプレー良かったわよ。でも身体もまだ本調子じゃないだろうからあんまり無理しないでね。」
「大丈夫だよ。たかが足の骨折くらいで躓いてたらプロにはなれないよ。」
母親は微笑みながら「頼もしいわね。」と答える。
父親がおもむろにテレビをつけると、ワイドショーの司会者の顔がアップで映った。
「やっぱりご両親のことを思うとね、僕は何にも言葉が出てきませんね。」
地方の少年サッカーの試合で、転倒した児童が亡くなったというニュースを取り上げていた。
それを見て母親が言った。
「あら、名前も同じだし年齢も近いわ。あなたも気を付けなさいよ。」
サッカーの試合中、ゴール前で奏太がボールを蹴ろうとした瞬間、相手選手がタックルしてきたのだ。
片足立ちだった奏太は簡単にバランスを崩すと、ゴールポストに激しく頭を打ちつけた。
その痛々しさに思わず周りの選手もプレーを中断して駆け寄る。
「大丈夫か?反応がないぞ…早く救急車を呼ぶんだ。」
10分ほどしてようやく救急車がついた頃には、奏太の容態はさらに悪化していた。
病院に駆けつけた両親に対し、医師は説明する。
「打ち所が悪かったため、かなり危ない状態です。最善を尽くしますが助かるかどうかは五分五分でしょう。」
「そんな…」
母親がその場で泣き崩れると、父親が肩を持つ。
「これまで息子を大切に育ててきました。小学校に入学して、人生これからって時なんです。どうかよろしくお願いします。」
父親が頭を下げると、医師は「出来ることはやります。」とだけ答え、手術室に入っていった。
残された両親は、手を固く結びながら天に祈り続けていた。
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「奏太!こっちだ!」
ゴール前に長いパスを送ると、味方が鋭いシュートをゴールに突き刺した。
「よっしゃ!」
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それに応えるように、両親も拍手を送った。
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友達のお母さんから褒められると、両親も素直に喜んだ。
「もうサッカーはやらせたくないと思っていたんですけどね。こんなに元気になってくれて本当によかったです。」
審判が長い笛を吹き、試合が終了した。
結局、奏太のアシストによって生まれたゴールを守り抜き、試合に勝つことができた。
「お疲れさま。」
試合後のミーティングやグラウンドの整備を終えて帰宅した奏太に、母親が声をかける。
「今日のプレー良かったわよ。でも身体もまだ本調子じゃないだろうからあんまり無理しないでね。」
「大丈夫だよ。たかが足の骨折くらいで躓いてたらプロにはなれないよ。」
母親は微笑みながら「頼もしいわね。」と答える。
父親がおもむろにテレビをつけると、ワイドショーの司会者の顔がアップで映った。
「やっぱりご両親のことを思うとね、僕は何にも言葉が出てきませんね。」
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それを見て母親が言った。
「あら、名前も同じだし年齢も近いわ。あなたも気を付けなさいよ。」
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